第3話:帰還と報酬
焦げ臭い風を切り裂くように、私たちは廃墟と化し
無造作に車が放置された街中を走り抜ける。
「AOちゃん、足音消す気ゼロだねぇ!
いいねいいねぇ!まさにニュービー!!!」
「そんなガシャガシャ言ってるRINに言われたくないけどね...。」
重厚な音を響かせて追走してくるRINに突っ込みつつ
私の視界に映るUIはマップ上で緑色に明滅するアイコン......
『ロスト・ストリート北口』の位置と距離が表示されていた。
【脱出地点まで:160m】
「ここを曲がったら目の前に出るかな....。」
「AOちゃ!ちょいまち!」
突如RINの強い力で背中の襟元を引っ張られ、後ろに転ぶ。
そのまま引きずられるように遮蔽物へ身を隠された。
「な、なに.....?」
「シッ!SAF名物の『ハイエナ』がお見えだぜ。」
RINがそう言いながら指をさす。
その先、崩れたビルの2階、窓枠の所に何か光っているのが見えた。
よく目を凝らしてみれば、SRを構えたプレイヤーのシルエットだ。
「ルートシューターにはねぇ、いっちゃん気をつけにゃならんのがいるのさ
他人様が苦労して集めたお宝を、我が物にせんとして
脱出地点で待ち伏せる極悪人、『キャンパー』だぜ!
.....にしてもあのやろぉ、脱出カウントが始まって
安心しきった瞬間を狙ってやがんなぁ?性格悪いぞ!!」
「ど、どうするの?他の所行く?」
「それもいいけど接敵リスクが付きまとうもんでなぁ...
あのやろーしか居ないなら煙に巻いて脱出の方が楽なんよなあ。」
「煙に巻いてって...どうやって?
絶対的に向こうの方が有利じゃないの?」
そう問いかけると、RINはニヤリと笑いながら
M60E4の下部に何かを取り付け、筒を装填した。
「こういう時のためのアイテム!
『アンダーバレル・グレネードランチャー』だぜぃ!
存分に堪能しな!それスモークだぁ!!!!!」
ボンッ!という破裂音と共に弾が放物線を描き二階の窓へ正確に飛び込む。
そのままシュシューッ!!!と激しい音を立てながら濃密な白煙が包み込む。
「ハッハー!!!美味しいかい特性スモークはぁ!!!
代金はツケとくから次回装備くれよな~!!!」
「いいから!いくよ!!!」
戦闘になると相変わらず興奮し始めるRINの手を引き
私たちは脱出地点へと足を踏み入れた。
脱出までのカウントダウンが始まる。15......14.......13......
ドガァン!ドガァン!と焦ったような銃声が響くが
視界を遮られて撃たれた弾丸は明後日の方向へ飛んで行く。
「撃ちたきゃ撃てよ!位置がバレて不利になるのはお前だけだぜ!!!」
RINが煙の中へM60E4を適当に乱射する。
完全に敵の狙撃手を牽制し、カウントダウンは進む。
.......3.......2......1..........『0』
視界が真っ白な光に包まれ、鼻腔をついていた鉄の匂いと
RINの乱射する銃の音が一瞬で消滅した。
次の瞬間、私の視界に広がったのは壁一面に整然と並べられた
無数の重火器と、パーツや工具が散らばる巨大なワークベンチ。
パーティーリーダーであったRINのパーソナルルームへと帰還した。
【脱出成功】という文字が目の前に浮かび、緊張が解ける。
「ふはぁぁぁ……! い、生きて帰ってこれたぁ……!」
私は近くに置いてあったミリタリー調のソファへ
倒れ込み、深く息を吐きだした。
「お疲れ様~!初出撃で無事生還、しかも一人倒すなんてねぇ!
上出来中の上出来だぜAOちゃ~!!!」
重装甲を解除し軽装になったRINが
ワークベンチの丸椅子に腰かけ、嬉しそうに声を弾ませる。
「ホント、死ぬかと思ったよ....。」
「アッハハ!でもなAOちゃ、楽しみはまだあるのさぁ~!
リザルト画面をもう一度見ながらうっとりしようぜ!!!」
言われたとおりにウィンドウを開くと
目の前の空間に、今回の戦果がずらりと浮かび上がった。
【出撃リザルト:ロスト・ストリート】
・生存時間 13:17
・撃破数 1
・獲得経験値 1,220
【持ち帰り戦利品】
・軍用回路基板×2
・CPUチップ×1
・金メッキライター×1
・中級医療キット×1
・5.7×28mm中級弾薬×93
・AR-57
・中級アサルトボディアーマー
・タクティカルチェストリグ
【戦利品総額:530,000】
「ご...ごじゅうさんまん....!?」
あまりの数字に目が点になる。
初期資金の心細さを考えれば、たった10分とすこしで
得られる金額にしては破格だ。
「すごいでしょ~!これでも安い方なんだぜぇ~!?
しかもAR-57を売らずにこの金額、もし銃を売れば80万越えのレイドだ!
アッツいレイドだったねぇ~!!!」
「すごいね....色々買い取ってくれるんだ....。
こんなに興奮するんだね......。」
「だぁしょお~!?!?戦場で拾ったジャンクが札束に化ける
このアドレナリンの分泌感!中毒になっちまうよなあ~!!!
これが我らスカベンジャーの宿命なのよ~!!!!!」
ドヤ顔で語るRINの背後に飾られているカスタマイズされた銃達を見上げ
私はインベントリの中に入っているAR-57に視線を落とす。
「この銃、どうしようかな......。」
「好きにすればいいんじゃない?売って軍資金にするもよし!
カスタマイズして保存しておくもよし!
私的アドバイスなら持っておくのがおすすめだけどねぇ~!
いつまでもMPXで戦い続けるってんなら?売っても良いけど!?
絶対にどこかしらでパワー不足に陥る日が来る!!!
そんときにその子だったり他の子がいれば!
次のレイドからすぐに持っていけるし準備時間も必要ないし!
金もかからないしで得々丸ってものよのう!!!!.......聞いてる?」
「うん、聞いてるよ......。」
話半分で聞き流しながら考える。
でも素人の思考で考えたところで答えは纏まらないし
ひとまずは取っておくことに決めた。
「まあなんでもいいけどさあ。
さて...と、次はどうするかい!?」
私の横にドカっと座りながらそう聞いてくる。
「早速次の話?気が早くないかな......。」
「早くない早くない!興奮冷めやらぬうちに次のレイドへ~ってね!!
さあさあ次は何処に行きましょうか!?さっきの場所でもいいし
また別の所でもいいしぃ....高難度エリアだって挑戦は自由だし!?」
まくしたてるRINを制しながら、私は答える。
「ま、まあしばらくは『ロスト・ストリート』で良いと思うけど...
ゲームに慣れてきたらまた考えようかな......。」
「それでいっか、早く慣れてくれよAOち~!!!
心を開いて話し遊べる友達は君しかいないのじゃ~!!!!!」
抱き着いてくるRINにゆさゆさと揺られながらも少し心が昂って行く。
死と隣り合わせという怖さがありながらも、それを乗り越えた先にある
膨大な報酬と高揚感.....これがスカベンジャーの宿命なのかと早くも実感する。
「分かった...分かったから.....っ、揺らさないでよぉ......!」
呆れながらもどこか可笑しくて、私は諦めたように
苦笑しながらRINの背中をポンポンと叩いた。
私のスカベンジャーライフは、ここから始まった。




