第14話:歪んだ挑戦状
翌日、21:50。
私とRINは、指定された圏内エリア裏路地.......『レッドコア』争奪戦の前に
初めて『StriX』と出会った場所で立っていた。
冷たい夜風が通り抜ける中、緊張感が支配する身体を真っ直ぐに立たせ
何も話すことが無くただ待っていた。
「やっぱり来てくれてたね。
それにしても早いねぇ、待たせちゃった?」
背後から声をかけられて、私たちは振り返る。
時刻は22時ちょうど、闇の中からぬるりと滑り出すように影が出てくる。
暗闇から現れたのはあの時と変わらない
フードを目深に被り、大きなライフル【Orsis T-5000】を携えた
軽薄な笑みを浮かべるスナイパー『StriX』だった。
「おぉ、可憐な少女を待たせるたぁ
それ相応のお話を聞かせてくれるんだろうなぁ?」
「勿論さ、その為に準備もして来たんだ。
おいで....全員揃っているよ。」
StriXの背後の暗闇から、さらに2人が現れる。
ボロボロのタワーシールドを担いだ飴を舐めた少女と
同じくボロボロの小型なスナイパーライフルを担いだ大きな男が
心底嫌そうな顔をしながら歩いてくる。
「話をする為には彼らも必要だ。
移動しよう、ここは少し....湿っぽいし。」
StriXを先頭に、私たちは裏路地を出る。
人通りの少ない路地を進み、雑多な酒場へと移動した。
喧騒と酒の匂いが満ちる店内を通り抜け、奥にある個室へ通される。
周囲の音を遮断するプログラムなのだろう、外の音は聞こえなくなり
部屋は一瞬にして静まり返った。
武器を椅子の横へ置き、円卓を囲むように着席すると
タワーシールドを担いでいた少女が
如何にも面倒そうに椅子へ背をもたれさせ、噛んでいた飴をかみ砕く。
「なに?こんなひよっこの為に私らは呼び出されたの?
わざわざ色々準備して?バッカみたい。」
「......この子達に、俺達が協力する価値は無い。
今からでも帰らせれば良い、時間の無駄だ。」
男もそう呟き、刺すような視線で
私とRINを品定めをするかのように見下ろしてくる。
「な、なんだとぉ!?
お前らに私達の何が分かんだ!!!」
「分かるよ、ただの雑魚だって。」
「ンだとォ!!!!!!!!!」
2人をStriXが、RINを私が制止する。
一触即発の空気が場を支配するが、全員を落ち着かせる。
「StriXさん、それで....お話って?
『一滴残らず貰う』ってのは......?」
私がそう問うと、StriXは運ばれたグラスを傾けながら答える。
「近々、運営主催の超大型イベントが始まるんだ。
まるで大会のようなルールになっていてねぇ.....。」
「イベントォ?ンな通知も来てねぇし
パッチノートにも、噂でも聞いた事ねぇけど?」
私もその言葉を聞いて、アップデート時に公開される
運営からのパッチノートを見てみるが、どこにもそんな記載はない。
「そりゃそうでしょ、次のアップデートで公開されるし
『レッドコア』のイベントだって隠されてた、少しは考えれば?」
「テメェ!!!黙ってれば好き勝手ぇ!!!」
再びヒートアップする2人を、再度2人で制止する。
StriXが言葉を続け、冷静さを取り戻す。
「彼女の言う通り次のアップデートで企画されるんだ。
イベント名は言えないが.....まあホント、大会みたいなもの。
『レッドコア』はその予行練習みたいなものだった。
1日限定で公開されたのは、その為だよ。」
「それと私達が呼ばれたの、何の関係があるの...?」
StriXはフードを外し、その顔を露わにする。
中性的だなと思っていたが、かなり女性らしい......
「えぇ!?お.....オンナァ!?」
「StriXさんって.....女性だったんだ........。」
そんな反応しか出来ない私達をみて、StriXはケラケラと笑う。
その横に座っている2人も「教えてなかったのか」という顔をしながら
StriXの顔をじーっと見ていた。
「しかもその顔ぉ.....見た事あんぞ!!!
前回の非公式大会で、たしか.....準優勝してたよなァ!!!」
「あはは、隠すつもりはなかったんだけどね。
名前でバレちゃったら辞めとこうかなって思ったけど
ここまでバレなかったのは、それはそれで心外だなぁ。」
「普通、名前と銃で気づかない?」
そんなツッコミすら聞こえていないようで
RINは大会映像を開いて該当のシーンを見せてくれる。
そこにはSRであるにも関わらず、近中遠どの距離でも
安定した射撃精度と射線管理、一瞬でのハンドガンへの持ち替えで
味方と共に何人も倒していく姿が映っている。
「す.....凄い......。
でも、なら尚更なんで、そんな人が私達を......?」
私が驚きを隠せないまま尋ねると、StriXはグラスの氷をカラリと鳴らし
フードの奥に見えていた不敵な笑みを、今は隠さずに浮かべながら答える。
「君たちと戦いたいんだ、それも全力で。
奇想天外な戦い方をして『レッドコア』すら手に入れた
まるでニュービーの戦い方でベテラン達を総崩しにした君たちと。」
「そんな....買いかぶりすぎです。
私たちはただ必死に戦っただけで、ラッキーでした。
あなたが思ってるほど強くなんて.......」
「強い弱いじゃない、コイツは楽しみたいんだ。」
ずっと無口だった男がそう言葉を被せる。
そのままグラスと手に取り一飲みし、言葉を続ける。
「コイツはただ強い奴と戦うのも嫌いだ、弱い奴ともな。
自分が楽しく遊びたい、そして結果として勝ちたい。
そんな奴なんだ.....だから準優勝だった。」
「ただ......楽しく.....。」
私のその言葉に対し、次は退屈そうに宙を見ていた少女が返す。
「そう、自分が楽しければ他はな~~んでもいい
超ド変態のクソサド女、だから楽しくなかったら戦わないし
準優勝だろうと最下位だろうと、ど~~~でもいい。
前回だって、残り1パーティが『ただ普通に強い』だけだから
やる気がなくなって負けたわけだし。」
「ひどいなあ、ただ疲れちゃっただけなのに。
別に僕はサドでも変態でもなくて、ただ楽しみたいだけ。」
ケラケラ笑いながら2人を交互に見て、StriXは私たちに向き直る。
その目はもうさっきまでの軽薄な笑みではなく
獲物を狙う猛禽類のような鋭く光った目つきだった。
「2週間後、来る大型イベント『セクターZero 奪還作戦』
概要は更新されるパッチノートや通知を見てもらうとして......そこで戦おう。
僕が率いるパーティと君たちで、全力で殺しあおう?」
ゾクリ、と背筋に冷たいものが走った。
本格的に敵として見られている、心の底から理解する。
その目に私が身体を強張らせていると、RINは正反対の反応をしていた。
「ッ.......!!!上等だこんにゃろおぉ!!!!
相手が誰だろうと関係ねぇ!!ブッ飛ばしてやんぜ!!!」
立ち上がり、拳をStriXの方に突きつけ
宣戦布告をし返すような形で吼える。
そのまま横に座っている少女にも拳を突き付ける。
「テメェもだ!!!そのフザけた口をおぉ!!!
2度と開けねぇように塞いでやんぜぇ!!!!」
その発言に対し、少女は飄々とした口調で返す。
「それは出来ないね、何があっても。」
「ハァ!?私がンなに弱く見えるかァ!?」
ヒートアップしたRINを止めたのはStriXだった。
そのまま指を4本立てて、説明を始める。
「4人でのフルパーティじゃなきゃあエントリーできないんだ。
だからこの子たちを用意した、この2人と組めば
人数の縛りは解消され、君たちは大会に出場できる。」
「は......はァ!?!?!?」
そんなRINの騒がしい返答にStriXはケラケラと笑い
私は耳がキーンとなった。




