第11話:『レッドコア』を求めて⑤
「来たね、それじゃあ皆で配置につこうか。」
ビルの3階、瓦礫に身を潜めている私たち3人は
前方...........約120m先から『レッドコア』を保持したパーティが
ゆっくりと歩いてくるのを見つけた。
雨の降る大通り、その先から歩いてくるのは
装備をボロボロにすり減らして『レッドコア』を手に入れるために戦い
そして1人欠けたのだろう3人組だった。
3人組が一列をなして歩いてくる、その2人目。
中央で守られるように歩いているそのプレイヤーの手には
巨大で大きな赤い結晶......私達の狙いであり
このマッチに居る全員の狙いであるだろう『レッドコア』が
大事に抱えられていた。
「やっぱり、インベントリの中には入らないんだ....。」
「変わらねぇよAOちゃ、やる事はひとつだ.....!!!」
予め決めていた作戦通りに、私とRINはビルから降りて
脱出地点の少し前に転がっている車の陰に身を潜める。
『迎撃地点は40m先にある交差点のド真ん中。
30秒以内に殲滅してレッドコアを奪還できなければ...きっと漁夫が来る。
その時は僕たちの負けだ。』
変わらずビルの3階から索敵をするStriXから
ノイズ混じりの通信が聞こえる。
戦闘猶予は30秒、終われば『レッドコア』を回収し
降りてくるStriXに受け渡し、私とRINで脱出まで耐え忍ぶ。
「できるかな.....できるよね....!」
「できる、できないじゃなくてやるんだぜ。
大丈夫だよAOちゃ、私達なら勝てる....!」
「うん.......今日も勝とう、相棒....!」
私とRINはグータッチをする。
緊張感が和らぐ、RINが居なければ
こんなゲームはしてないし、してもやられ続けてただろう。
『指揮上げの最中お邪魔するよ、もうそろそろ迎撃ポイントだ。』
通信からStriXの声が聞こえる。
その言葉に私たちは緊張感を取り戻し、銃を握りなおす。
「いっちゃん前を先導してるヤツを頼む。
振り向く隙もやらねぇ、一瞬でカタをつける....!!!」
『了解、1発撃ったらすぐに脱出地点へ向かう。
レッドコアは可愛いお嬢さん達に任せるよ。』
そんな軽薄な言葉を聞きながら、私たちはStriXの狙撃を待つ。
数秒後、サプレッサーに押し殺された破裂音と共に
先頭を歩いていたプレイヤーが吹き飛んだ。
叫び声を上げる隙も無くHPが消し飛んだのだろう
そのままDeadマークと共にデスボックスへ変わった。
「行くよRINっ!!!」
「っしゃあ!!!喰らえ!大口径高火力の雨をよぉ!!!!
ずっとうずうずしてたんだこっちはぁ!!!!
M60E4の咆哮を聞かせてやるぜぇ!!!!!!!」
ドガガガガガガガガガ!!!!!!!
激越な方向と共に、私とRINは車の陰から飛び出した。
7.62×51mm NATO弾の重圧な掃射音と
跳ね返る銃弾が雨の交差点を覆いつくし、逃げ場を失った2人の足を
LMG特有の『抑圧効果』で縫い付けるかのように留める。
それに乗じて走って近づく、まともな遮蔽のない向こうと違い
私が走る場所は近づくまでに数個の遮蔽が点在している。
遮蔽を乗り継ぎながら距離を縮め....MPX-Kのトリガーを引く。
パパパパパパパ....!!!!
重圧な射撃音とは正反対に、押し殺した音を響かせる。
私達の弾丸は吸い込まれるように敵の身体へ吸い込まれ
2人の残党はそれ以上前進も後退も出来ぬまま、その場で倒れ
Deadマークを表示させながらデスボックスへと変わった。
3つのデスボックスと、赤く光り輝き続ける『レッドコア』が
交差点の濡れた舗装路に残された。
「っしゃあ!!あともうちょいで終わりだぁ!!!」
「これは私が持ってくね.....おっも.....っ!」
なんとか『レッドコア』を回収し、脱出地点の近くまで行けば
ビルから降りてきたStriXと合流する。
「お見事、ならこれは任せて。
あとのしんがりも頼むよ...!」
「任せとけ!!!まだまだ暴れたりねぇよ!!!」
「お願いします....!」
レッドコアをStriXに受け渡し
脱出地点へ到着すればカウントダウンが始まる。
30........29..........28..........27.................
「30秒!?長くねぇかぁ!!!」
「やっぱりそうだよねぇ...特設マップとかイベントって
こうなりがちだって失念してた。」
普段より15秒も長い脱出待機時間。
ただでさえ長いのに、位置もバレているんだから当然.........
交差点の奥、立ち込める煙雨の向こうから
ぞろぞろと別のパーティが怒涛の勢いで雪崩れ込んでくる。
「追いついたぞ!!あそこだ!!!」
「スモーク!!!」「フラッシュだ!!!」
「殺せ!!!奪え!!!!!すべてだ!!!!!」
分厚い灰色の煙が私たちの視界を遮ってくる。
さらに煙の奥から、金属音と共に小型の筒が転がり込んできた。
「フラッシュバンだ!避けてっ.......」
StriXのその声を聴き終える前に、眼前で激しい白光と
耳を貫かれるような爆発音、キーンとした強烈な耳鳴りと
ぼやけた視界で、ろくに前が見えなくなる。
「ぅあ......ぇ......何.....!?」
「クッソAOちゃ....!こんにゃろ~!!!!!
ぜってェ渡さねぇぞ!!!レッドコアは私達のモンだコラァ!!!!」
煙幕を割って強引に突破してくる軍勢を前に
RINのM60が絶叫ともとれる咆哮を上げながら乱射する。
次第に回復してくる視界を待つことも許されず
私もMPX-Kを定まらない狙いと共に乱射する。
「あと20秒.....持たせてやるぅ......!!!
やっつけグレネードでも喰らっとけおらぁ!!!」
「私もっ......うぁっ!!!!」
2人で銃を乱射し、グレネードを投げ耐え続ける。
1秒1秒が数分にも数十分にも感じられ、もう数時間もこうして
銃を撃ち続けているかと錯覚で来た。
ガガガと身体に激しい衝撃が何回も伝わる。
HPゲージが少しづつ、でも確実に削れていくのが見える。
心拍音が強く、高まっていくのが分かる。
周りの銃声も、自分の銃の可動音も
もう何もかもが聞こえなくなって、どんどん静かになっていく。
真横で爆発音と共に吹き飛ばされるRINだって、気にならない。
「うおぉぉぉぉぉ痛えぇぇぇ!?!?!?
ふっっっざけやがってこんにゃろ~!!!!!」
「あと10秒だ....頼むよ......!!!」
2人のそんな声も耳には届かなかった。
ただひたすらに撃って、撃って、撃って。
弾が無くなればリロードして、また撃って..........。
スモークが投げ込まれるが、私たちは関係なく撃ち続ける。
視界が無くても前だけを見て
迫りくるプレイヤーに対して撃ち続けたから....
横から飛び出てくるショットガン使いに気が付かなかった。
「......ぁ」
ドガァン!!!!!!!!
激しい音が響くが、私には当たらなかった。
銃口は横に逸れて私の足元に着弾する。
ショットガンを持っていたプレイヤーを前蹴りし
私を助けてくれたのはStriXだった。
「ちゃんと周りを見なよ、お嬢さんっ。」
「ごめん、ありがと......!」
プレイヤーにトドメを刺し、再び前に向き直り射撃する。
画面上部に出ている脱出までのカウントダウンは残り3秒。
文字通り命を賭けて守り抜く、こんな思いは今までしたことが無い。
3.......2.........1.............『0』
数字が0を刻んだ瞬間に世界が白く染まり
硝煙の匂いも、敵の足音も、耳を刺す雨音と銃声も
一瞬にしてすべてが遠のいてゆく..........................。
【MISSION COMPLETE: Red Core Acquired】
ポップアップと共に、世界に色がよみがえる。
そこはさっきまで居た殺伐とした脱出地点ではなく
イベント参加者がひしめき合うイベントロビーだった。
「はぁ......はぁ......っ!い、生きてる.......?
わたし.....私生きてる.......!?」
「生きてるぜ....タブンなぁ.......。
私の間違いじゃなきゃ、生きて脱出してるはず.....。」
転移と同時に自動回復が入ったものの
精神的な疲労と心臓の跳ね上がりは収まらない。
私はその場でへたり込み、両手で顔を覆って荒い息を吐きだした。
「大丈夫、無事に帰還できたよ。
その証拠にほら......そろそろ重いから変わってくれない?」
隣ではStriXが『レッドコア』を両手で抱えている。
持って帰ってこれた、無事とは言い難かったが
私達は.............
「おっしゃあぁぁあぁぁぁああぁぁあ!!!!!!!」
RINがロビーの天井に向けて大歓声を上げた。
私もそれにつられてガッツポーズをとる、StriXも手は上げられないが
満足そうに微笑んでいるのがフードの陰からチラりと見える。
「あれが.....!」「あれが『レッドコア』か......。」
「なんでインベントリに入れない....?」「入らないのかも....?」
「あんな女の子たちが......。」「すげぇ....あのパーティが最速か...?」
周囲のプレイヤーがざわざわと振り返り、物珍しそうに見てくる。
それでも、そんなの今の私達には関係なかった。
「おっと....もうインベントリに入りそうだね.....。
ならこれは君たちに渡した方が良さそうだ。」
「悪ぃな、それじゃ遠慮なく....いやぁそれにしても助かったよ!!!
StriXが居なきゃあ今回の作戦は大失敗だった!!!
それじゃ、三等分の約束なンだけど........。」
RINがStriXから『レッドコア』を受け取り、インベントリへ収納する。
そのままウィンドウを操作して取り分を送金しようとした時.......
「あー、いいのいいの。」
StriXはひらひらと手を振って、それを制止した。
そのままウィンドウを開き私たちに見せてくる。
「ビルの敵が良いのを持っててね、それで十分さ。
そもそもが奇数人数だ、きれいに割れないならこれでいい。」
「え......でも........。」
「どうせ君たちとは、近いうちにまた逢いそうな気がするんだ。
また逢ったその時には......貰おうかな、何かをね。」
フードの陰から意味ありげな笑みを覗かせ、StriXはそう言う。
「また......どこで.......?」
「さあね、運が良ければ逢えるさ。
じゃあね、可愛いスカベンジャーさん。」
ひらりと手を一振りし、StriXは雑多の向こうへと
吸い込まれるように姿を消した。
その去り際は、出会った時と同じくらい....風のようだった。
「行っちまったなぁ...スゲェカッコつけるじゃん.....。」
「あはは........。」
StriXが見えなくなった後、私たちは
インベントリの中にある真っ赤な結晶へと視線を落とした。
「んで.....コイツどうすっかなぁ~。
ここまで苦労したら直ぐに売るのはもったいない気がして来た.....。」
「そうだね、だったらしばらく飾ってれば?
RINのロビーにさ、銃と一緒に。」
しばらく考え込んでから、RINは指を鳴らした。
「それもそうだ!しばらく飾ってよう!!!
みんなに自慢してやるんだ、最速ゲットは私だ~!って!!!」
「私たち、だよRIN。」
私達は顔を見合わせ、心から笑いあった。
SAFを初めて間もない私が体験した、熾烈を極めた戦いは
『レッドコア』奪還という輝かしい結果と共に幕を閉じた。




