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やっと見つけた

5月9日、午前6時38分。


陸沈ルー・チェンは、まだ人影も疎らな校門をくぐった。登校時間には、まだ一時間近く早い。


空は薄暗く、昨夜の湿気が地面に立ち込めていた。校舎の窓の大半には明かりが灯っておらず、朝練習に励む運動部員たちの声と、清掃ロボットの低く鈍い駆動音だけが、静まり返った敷地内に空しく響いていた。


自分から余計なアクションを起こさなければいいのだ。7時17分に搬送エリアを遠くから「観測」するだけに留めれば、前のように変に疑われ、自分に火の粉が降りかかることもない。


まずは、観察する。ただそれだけだ。


それは、劉雨桐リウ・ユートンジの死を経験した陸沈が、己に課した絶対の鉄則ルールだった。


未来を知っていると思い上がり、安易に手を差し伸べたりは絶対にしない。


事の顛末をすべて解き明かすまでは、何一つとして軽はずみに変えたりしない。


陸沈は中央棟へと足を進めながら、脳内でその言葉を何度も何度も反芻していた。


午前7時前の校舎は、まるで異次元の建物のようだった。昼間なら生徒でごった返している中央大階段には誰一人おらず、足を踏み出すごとに響く靴音が、数秒のタイムラグを置いて木霊となって戻ってくる。


設備エリアに直接入れば、その行動自体がログに残ってしまうリスクがあった。


そのため陸沈は、昨日確認した監視カメラの位置を記憶から手繰り寄せ、一般通路の中から「3号搬送機」の安全門が一望できるベストなアングルを探し出した。


それは、一階と二階を繋ぐ非常階段の踊り場だった。


そこからなら、半透明の防火窓越しに搬送エリアの一部が綺麗に見渡せる上、距離も十分に離れていた。誰かが3号機に近づけば、少なくともその人影くらいははっきりと捉えることができる。


踊り場の隅に立ち、陸沈はモバイル端末を開いた。6時56分。あと二十分余り。


こんな時間に登校したことなど、久しくなかった。窓の向こうでは、二人の清掃員が廊下の突き当たりで低く会話を交わしている。少し離れた場所では小型の配送車が静かに走り抜け、3号搬送機の安全門の前で一時停止した後、すぐ別の校舎へと去っていった。


陸沈は一分一秒を刻む時間を食い入るように見つめていた。


端末の表示が進むにつれ、陸沈の神経は限界まで張り詰めていく。


一体、誰が来るのか? 何をするつもりなのか? なぜ監視カメラの映像は消えたのか? パーツの緩みは本当に人為的なものなのか?


7時13分。遠くから足音が近づいてきた。


陸沈の身体が硬直する。しかし視界に現れたのは、教材を抱えた一人の女性教師だった。彼女は設備エリアの前を通り過ぎ、そのまま階段を上っていった。


7時15分。陸沈は端末をポケットに押し戻した。ここからは一秒たりとも画面を見ている余裕はない。3号機から一瞬たりとも目を離したくなかった。


校舎内は、不気味なほど静まり返っていた。


普段なら気にも留めない空調設備の微振動や、遠くでドアが開閉する音すら、今の彼には鮮明に聞き取れた。


7時16分を回った直後、3号搬送機の付近の照明が、一瞬だけ不規則にチラついた。陸沈の息が止まる。


記憶にある監視映像の異常——7時16分50秒。細かいノイズ。そして暗転。


時間は完全に一致している。


陸沈は防火窓に顔をさらに近づけた。


3号機の周囲には、今のところまだ誰もいない。


——その時だった。


背後から、衣類が壁に擦れるような小さな摩擦音が聞こえた。


陸沈は本能的に弾かれたように振り返った。


そこには、誰の姿もなかった。


「……気のせいか?」


言葉が漏れ出た直後、尋常ではない違和感が怒涛のように押し寄せてきた。


廊下の誘導灯が、ほんの一瞬だけ薄暗くなったのだ。


陸沈は慌てて防火窓へ視線を戻した。


7時17分。


3号搬送機の外装付近で、何かが確かに揺らめいた。


人影だ。


そう認識した瞬間、陸沈は身を乗り出した。「誰だ……!?」


距離が離れすぎているせいで、輪郭すら判別できない。おまけにガラス窓には早朝の薄暗い廊下の光が反射し、視界が複雑に重なり合っていた。


もっとはっきり見えるアングルを探そうと、陸沈が脇へ一歩踏み出した——まさにその瞬間。


背後に、尋常ならざる「異物」の存在を感知した。


「気配」などという生温かい言葉では形容しきれなかった。


首筋に、自分以外の「誰か」の吐息が直接触れたのだ。


陸沈の顔面から、一瞬で血の気が失せた。


必死で振り返ろうとする。


「……やっと見つけた」


極限まで低められた声が、耳元にぴったりと張り付くように聞こえた。若い女性の声だ。聞き覚えは、全くなかった。


「お前——」


言い切るより早く。後頭部に、破壊的な激痛と衝撃が走った。


視界が真っ白に弾け飛ぶ。膝から崩れ落ち、全身が前方へ倒れ込んでいく。


完全に床へ激突する寸前、誰かが自分の両肩を支えた感触があった。固い床に叩きつけられることはなく、彼はそのまま引きずられるようにして壁際へと追いやられた。


急速に意識が引き剥がされていく闇の中で、陸沈は死に物狂いで首を動かそうとした。


顔を見たい。制服でもいい。靴でも、髪でも、なんでもいいから!


しかし、肉体はすでに一切の命令を拒絶していた。


焦点を失った視界の端に、ただボやけた影だけが残像として残る。


「お前……誰だ……」自分の声が、遥か遠くから響いているように感じられた。


相手は答えなかった。耳元で、何かを探るような服擦れの音が聞こえる。


ポケットだ。陸沈のモバイル端末が抜き取られた。画面が点灯し、微かな冷たい光が、一瞬だけ相手の指先を照らし出した。


細い指。


それ以上は、何も見えなかった。


陸沈は奥歯を噛み締め、残された力を振り絞って手を伸ばした。指先が相手の袖口らしき場所に触れかけたが、次の瞬間に素早くかわされた。


「……何をした……」


短く不気味な静寂が訪れた。その数秒間の停滞は、息が詰まるほど長く感じられた。


やがて、先ほどの声が再び響いた。


「何も知らないなら、そのまま黙ってて」


陸沈は必死に目を開けようとが足掻いた。「どういう意……」


「ごめんなさい」


短く掠れた五つの音。


次の瞬間、陸沈の意識は底なしの漆黒の中へと完全に墜落していった。



再び目を覚ました時、最初に視界に入ってきたのは、白い天井だった。


陸沈は機械的に何度も瞬きをした。脳の奥底から鈍い痛みが波寄せてくる。身体を起こそうとした瞬間、後頭部から首筋にかけて走った激痛に、思わず呻き声を上げた。


「まだ動かない方がいいわよ」近くから女性の声が聞こえた。


陸沈の身体が跳ね上がる。だが声の主は、ただの養護教諭だった。


「……ここは?」

「保健室よ。先生が一階の非常階段で倒れているあなたを見つけて、運んでくれたの。何があったか覚えてる?」

「今……何時ですか!?」

「8時27分よ」


一時間以上が経過していた。


陸沈は布団を跳ね除けて起き上がろうとした。


「動いちゃダメって言ってるでしょ!」養護教諭が彼の肩を強く押さえつける。「軽い脳症盪を起こしてる可能性があるわ。吐き気や視界の眩みはある?」

「ありません」

「頭痛は?」

「少しだけ」

「なら、おとなしく寝ていなさい」


こんなところで寝ている場合か!


「3号搬送機はどうなりました!?」


養護教諭が奇妙そうな顔をした。「は?」


陸沈は慌てて口をつぐんだ。「……なんでもありません」


ポケットや衣服を探ると、端末はベッド脇の小さなテーブルの上に静かに置かれていた。引ったくるように手に取り、まず日付を確認する。


5月9日。


続いて、校内設備のリアルタイム通知を開いた。3号搬送機。障害情報:なし。通路封鎖:なし。


時間軸が以前と同じなら、駆動輪の異常が表面化するのは今日の昼過ぎだ。


陸沈は端末の操作履歴を開いた。7時17分から7点25分の間に、一度だけ画面がロック解除された記録が残っていた。まさに自分が意識を失っていた時間帯だ。


相手は彼の端末を操作した。しかし、端末内のファイルが削除されたり改ざんされたりした形跡はない。通信履歴にも不審な点はなかった。


一体、相手が何を確認したのかが全く分からない。


陸沈は昨夜作成したあのメモを開いた。そこには、彼が整理したすべての推論がそのまま残されていた。


相手は、このメモを読んだ可能性が高い。


その思考が脳裏に浮かんだ瞬間、背筋を氷の刃で撫でられたような寒気が全身を駆け抜けた!


もし、本当に読まれていたのだとしたら——


「先生」陸沈は弾かれたように養護教諭を見つめた。「俺を見つけてくれた先生って……誰ですか?」

「一年生の担任の先生よ。7時40分頃に階段の踊り場を通った時、あなたが倒れているのに気づいたらしいわ」

「その時、周りに誰かいましたか?」

「そこまでは聞いてないわね」

「じゃあ……俺のそばに誰か残っていませんでしたか!?」

「さあねえ」

「防犯カメラは!? 映像は確認してないんですか!?」


養護教諭の顔に、いよいよ不審の色が濃くなった。「陸沈くん、あなた頭でも強く打って混乱してるの?」


胸が押しつぶされそうだった。


「……階段で足を滑らせて転んだだけかもしれません」自分でも失笑してしまうほど下手くそな言い訳だった。

「後頭部をあれだけ打っておいて自分で覚えていないなら、病院で詳しい検査を受けた方がいいわ」

「大丈夫です」

「大丈夫で済む話じゃないでしょ」教諭の表情が厳しくなる。「今日はご両親に連絡させてもらうわ」

「待ってください!」陸沈の声が、裏返るほど跳ね上がった。


教諭が驚いて肩をすくめる。


「親には……家には絶対に連絡しないでください」


相手が理由を問い詰めてくる前に、陸沈は深く頭を垂れた。


また聞かれるのだ。「何があった?」「なぜそこにいた?」「何を見た?」と。


答えられない問いだけが、雪だるま式に膨れ上がっていく。


陸沈は掛け布団を固く握りしめた。現実の破綻スピードは、彼の予測を遥かに超えていた。


『何も知らないなら、そのまま黙ってて』


つまり相手は、俺が何を調べているのかを完全に把握しているのだ!


陸沈は脳内で、あの声を何度も何度も再生した。


若い。女性。生徒か、あるいは教員か?


だが、一体誰だというんだ?


知っている人間の声を、頭の中で片っ端から照合していく。


一致する声は、一つもなかった。


かといって、校内のすべての女子生徒と日常会話を交わすほど親しいわけでもない。顔と名前は知っていても、声などろくに聞いたことがない相手などごまんといた。


「……一体、誰なんだ」陸沈は低く呟いた。


今回の相手は、彼の「未来の記憶」にすら一度も登場したことのない存在だった。以前の時間軸において、その人物は彼の前に一度たりとも姿を現さなかった。


それに……相手はまるで、陸沈が7時17分にあの場所に現れることを最初から知っていたかのようだった。


その考えに至った瞬間、陸沈の背筋に冷や汗が吹き出した。


なぜ知っていた?


今日の早朝に学校へ来るなんてこと、俺は誰一人として話していない。


それなのに、相手はあの場所で、息を潜めて自分を待っていたのだ。



その日の午前中、陸沈は保健室からの外出を禁じられた。


11時を過ぎた頃、陳虎がこっそり様子を見にやってきた。「お前、今度は階段で転んだんだって?」


「……らしいな」

「『らしい』ってなんだよ!」

「覚えてないんだ」


陳虎は呆れたように目を丸くした。「お前、ここ数日マジで何かに憑かれてんじゃねえの?」


ただの軽口だった。だが陸沈は、どうしても笑うことができなかった。


「なあ……」

「ん?」陳虎はパイプ椅子を引き寄せて腰掛けた。

「誰かから……俺が今日早く来るって話、聞いてたか?」

「はあ?」

「今朝のことだ」

「聞いてねえよ。てか、お前がそんな早く来てたなんて俺も今知ったくらいだし」

「そうか」予想通りだった。

「蘇晴たちは?」

「知らねえって! お前さっきから何聞いてんだよ」

「念のためだ」


陳虎はしばらくの間、陸沈の顔をじっと見つめていた。「お前……また一人で何か調べてんのか?」


陸沈は答えなかった。


陳虎もまた、前回のループ以降、陸沈がどこか自分たちに隠し事をしているような違和感を抱いているのは明白だった。しかし、それ以上強引に問い詰めてくることはしなかった。


「まあいいや、好きにしろよ」陳虎はベッド脇に紙袋をポンと置いた。「朝飯食ってねえんだろ? 購買でパン買ってきたぞ」

「……ありがと」

「今度は急に叫び出したりすんなよな」

「……すまん」

「過ぎたことだって」陳虎は破顔して笑った。


陳虎の笑顔を見つめながら、今朝のあの女の声が嫌応なしに脳裏でリフレインする。


『何も知らないなら、そのまま黙ってて』

『ごめんなさい』


あの声には、強い怒りも、殺意すらも感じられなかった。


もし自分を排除したかったのなら、倒す時にもっと強い力で殴りつければよかったのだ。現に倒れる直前、相手はわざわざ自分の肩を支え、頭が直接床に激突するのを防いでくれていた。


それに……彼女は自分に謝っていた。


陸沈は深く眉をひそめた。


俺を排除したいなら、なぜそんな優しさを見せる?



午後になり、養護教諭の許可を得て、陸沈はついに教室へ戻ることができた。


彼は机の下で端末を静かに開き、新しいメモを作成した。


【5月9日、7時17分。中央棟非常階段。】

【背後から襲撃を受ける。若い女性と思われる声。】

【発言——「やっと見つけた」、「何も知らないなら、そのまま黙ってて」、「ごめんなさい」。】

【端末を操作される。目的は不明。】


そして最後に、彼は重々しく一行を付け加えた。


【相手は……俺があの時間にあの場所へ行くことを、事前に予知していた可能性が高い。】

【断定は避ける。観察を継続。】


メモを保存し、彼は画面を閉じた。


未来を変えようとする己の絶望的な抗争の中に、初めて……自分以外の「意志」が乱入してきたのだ。



5月9日、午後4時12分。


終礼のベルが鳴ってから、すでに二十分が経過していた。高校3年生7組の教室には、依然として半数以上の生徒が残っていた。登階考まで一ヶ月を切り、自習をする者、問題を解き合う者、机に突っ伏して仮眠をとる者、それぞれが放課後の時間を過ごしていた。


陸沈は自分の席に座り、午前中に起きた出来事を頭の中で整理していた。


教室の女子生徒たちの笑い声が、やけに耳障りに響く。


背後から、大きなあくびの音が聞こえた。「あーあ……なんで今日こんな眠いんだろ」


陳虎だった。彼は肘を机につき、必死に目元を擦っていた。


張磊ジャン・レイが横からからかうように笑う。「お前が眠くない日なんてあんのかよ?」「今日はちがうんだよ! 急に強烈な睡魔が襲ってきて……まぶたがくっつきそうだ……」「そう言われると、俺もなんか眠くなってきたな……」少し離れた場所にいた別の男子生徒も、ウツウツと呟いた。


最初、陸沈は気にも留めていなかった。一日の授業が終われば、疲労で眠くなるのは至極当然のことだ。


しかし二分と経たないうちに、教室の空気が異様な変貌を遂げ始めた。


会話の音が、急速に途絶えていく。ページをめくる音がピタリと止まった。前列に座っていた生徒の一人が、そのまま机に顔を押し当て、微動だにしなくなった。


「……おかしいな?」蘇晴が手で額を押さえた。普段の彼女なら、放課後も少なくとも一時間は集中して自習を続けられるはずだった。しかし今の彼女は猛烈に瞬きを繰り返し、瞳の焦点を失わせていた。


「なんか……体が……」彼女は立ち上がろうとしたが、そのまま力なく椅子へと倒れ込んだ。


冷気が陸沈の背筋を駆け抜ける!


「蘇晴!?」


陸沈は大声で呼びかけた。蘇晴は応えようとしたが、唇が痙攣するばかりで、言葉にならない。数秒後、彼女は大きな音を立ててデスクへと崩れ落ちた。


「おい!」陸沈は弾かれたように立ち上がった。


周囲を見渡す——張磊も倒れている。王輝ワン・フイも、曲夢チュイ・モンも。


劉雨桐も。


さっきまで会話していた生徒たちが、折り重なるようにして自分のデスクへ倒れていく。教室の一番前では、カバンをまとめて帰ろうとしていた生徒が、背もたれに寄りかかった姿勢のまま、がくりと頭を垂れていた。


悲鳴をあげる隙すら、誰一人として与えられなかった。まるで巨大な悪夢の領域へと引きずり込まれたかのように、全員が無抵抗のまま意識を失っていったのだ。


「陳虎!」陸沈は猛然と振り返った。


陳虎はすでに机に突っ伏し、微動だにしていなかった。


「陳虎! 起きろ!」陸沈は彼の肩を掴み、狂ったように揺さぶった。反応は極めて薄い。だが息はある。胸も規則正しく上下している。


いくら名前を叫んでも、陳虎が目を開けることはなかった。


「冗談だろ……」


劉雨桐が惨死した光景が、脳裏を猛烈な勢いで叩き割る。まさか……また誰かが死ぬのか!? しかも今回は一人じゃない。この教室にいる、全員がだ!


その光景を想像しただけで、陸沈の身体は激しい戦慄に支配された。


彼は慌ててモバイル端末を引っ張り出した。


先生を呼ぶんだ! 救急車を呼べ!


指先が緊急通報のボタンに触れようとした、まさにその間一髪の瞬間——


「誰も呼ばなくていいよ」


陸沈の動きが、完全に凍りついた。


教室の後方。窓際の席。


ただ一人の生徒だけが、何事もなかったかのように静かに椅子に腰掛けていた。


彼女はいつものように、静かに佇んでいた。


机の上には、一冊の閉じられた本が静かに横たわっている。


その声には、疑う余地などなかった——


陸沈は端末を固く握り締め、氷のように冷たい視線で彼女を凝視した。


「……林小雨リン・シャオユー?」


林小雨は答えず、ただ教室を見回した。三十人以上の生徒たちが、それぞれのデスクに横たわって眠りこけている。その異常極まりない光景を前にしても、彼女の顔には一片の波紋すら浮かんでいなかった。


「お前……何をした!?」陸沈の声が低く沈んだ。


林小雨はそこで初めて、彼に視線を向けた。「少しの間、眠ってもらっただけ」


「お前だったのか……」陸沈が一歩前へ踏み出す。「今朝の奴は……お前だったのか!」


林小雨は首をかすかに傾けた。「やっぱり、覚えてるんだ」


その一言で、真相は完全に決定づけられた。


「本当に……お前だったのか……」陸沈の声が、激怒のあまり激しく震える。


林小雨は否定しなかった。


「この世界のあなたは、私の声を知らないはずなのに。よかった、よかった」

「慎重になったんだね」


その言葉を聞いた瞬間、陸沈の表情が劇的に跳ね上がった! 「どういう意味だ!?」


「お前……一体どこまで知ってるんだ!?」


「いろいろ知ってるよ」


「いろいろって何だ!?」


「あなた、時間をやり直せるんでしょ?」

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