異変
傷は消えるのではなく治るのだ
何度でも治ろうとする
痛みと共に
あれから数日
私は仕事彼は家で家事をする
そんな日が続いていた
「今日も疲れた」
私は職場では元気な人でいるようにしている
誰かの前で素で喋ると
怒っているというイメージが強いらしい
昔から誤解される事が多く
それで揉めることも多かった
「ただいま」
彼からの返事はない
寝ているのだろうか
そんな事を思いながら
リビングへ向かうと彼は泣いていた
「どうしたの?」
彼は絞り出すように声を出す
「これが使えない今までどうやった使ってた?」
手元にあるお箸を見ながら彼は言う
私はなんの事だか分からなかった
何を言っているのだろう
どういう事なんだろう
そんな事しか出てこない
「どういう事?」
落ち着いた声で私は彼に聞く
彼はふざけているわけではないのだ
真剣に聞いているのだと分かる
「これの名前も出てこないんだ」
彼は泣きながら言う
箸を持ち使い方が分からないと泣いているのだ
「お箸の事?」
彼は何回も頷く
どういうことなのだろう
彼はどうなっているのだろう
「一旦落ち着こう」
私は冷めたご飯を見て
どれだけの時間こうしていたのかを考えた
ずっと分からなかったのだろう
「ごめん」
私は彼にお茶を出してあげた
ゆっくり飲み落ち着いたようで
少し時間をあけゆっくりと質問する事にした
「えっとお箸の名称と使い方が分からないって事?」
彼は頷く
何故そうなった?
私がいない間になにがあったのだろう
「昔の事の整理をしていたんだ」
彼曰く
昔の仕事場の事や関係者との連絡
それを私が仕事中に終わらせていたらしい
「ストレスなのかも知れないね」
ここ数日彼は元気だったはずだ
私が見ている範囲ではだが
余程の事がなければ
こんなになるはずがない
彼はストレスを溜め込む人だ
前にこのようになった時は
気がついたら
1人で浜辺にいたと電話があったし
1人で山の中にいた時もあるそうだ
「昔の事はもう忘れよう少し休憩しよう」
私はそう言うしかなかった
彼も怖くなったのか
少し間が空いた後に頷いた
「今日はもう寝るよありがとう」
彼が壊れていく事を
止めたはずだった
彼が0になる為には
まだ何か足りなかったのだろうか
「どうしたものか」
私は煙草を吸い
部屋の中でひとり呟く
こうなった時に
いつもはどうしていたのだろう
そんな事を考える
「私が近くにいて良かった」
そんな事を改めて思う
外にいる時こうなってしまった時
もし携帯の使い方が分からなくなってしまったら
彼は壊れてしまうだろう
彼は何も出来ない事が不安になる
いつも出来ていた事が出来ないのが不安になる
彼は脆いのではない利用しようとした人間たちが
彼を壊したのだ
「もっと早く気がついてあげられたら」
煙草を消しながら私は呟く
私が解決してあげれる事ではない
それが凄く歯痒いのだ
彼は壊れるまで大丈夫なフリをする
いつもヘラヘラして誤魔化しているだけで
彼が本当に気がついて欲しい事に
近い人間であっても気がつくのが難しい
不器用な人間なのだ
「明日から大丈夫だろうか」
私は今彼に何か優しい言葉をかける事はしない
それを受けとる彼が傷つくから
ゆっくり待つしかないのだ
「大丈夫また元通りになる」
そう言いながら寝る準備をする
言葉に出さないと不安で
私も自分に言い聞かせないと
落ちてしまいそうだったから




