彼の近くで
きっかけは落ちている時がある
見つけられるのは
時間が経ってからかもしれない
彼とルームシェアをして何日か経った
私は休みが不規則なので
平日に休みの日もあるのだ
「今日は休みなのか?」
不思議そうに彼が尋ねてくる
いつもの準備の時間に
煙草を吸いテレビを見ていたからだろう
「今日は休みだからゆっくりしようかと」
ルームシェアを初めてから
初めて平日に休む事に
カレンダーを見てから気がついた
「なんか海に行きたくなったんだけどさ」
珍しく昼から外出がしたくなったらしい
彼は夜行性だから
何か気持ちの変化があったのかもしれない
「行きたいなら連れていこうか?」
彼が明るい時間から外に出ようと思う
そんな気持ちになったのが
私はとても嬉しかった
「いいのか?」
彼は気まずそうに聞いた
昼間から外に出る準備をしていたらしく
1人で行こうとしていたらしい
「1人で行くより私と行った方が楽しいぞ?」
私はケラケラと笑いながら
彼に問いかける
彼もケラケラと笑う
「それじゃあ頼むよ運転手さん」
ここから海まで近い
車で30分もかからないだろう
こういう時は田舎に住んでいて得だと思う
「お客様ごゆっくり」
車に彼を乗せる
彼の好きだったアーティストの音楽をかける
彼は笑って言った
「分かってるね」
運転席に乗り込み
彼の鼻歌を聞きながら
私は海に向かう
お酒を飲む事以外での外出は久しぶりだ
「このアーティスト昔から好きだったでしょ?」
もちろん私も好きだった
このアーティストの歌詞が世界観が音が
全て心地いい音楽として入ってくる
「この曲が1番好きなのも知っているさ」
彼の1番好きな曲は
深く体に響くようなベース
静かだが心地いいドラム
掛け合いを楽しむ上手のギター
常に安定した演奏の下手のギター
溶けるように甘い声のボーカル
この人達が作るバラードだった
「やっぱりこの人達は天才だよ」
煙草を吸い背伸びをして
彼は笑っていた
彼のこの顔は本当に楽しんでいる時にする顔だ
「昔はもっとこういう時間があったのにな」
私も煙草を吸いながら
昔の事を思い出していた
いつからだろう気持ちに
余裕がなくなってきたのは
楽しむ事を忘れてしまったのは
そんなことを思いながら
彼との空間を楽しんでいる自分がいる
私も寂しかったのかもしれない
友達として彼を求めていたのかもしれない
そんなことを考えながら
彼との久しぶりのドライブに浸っていた
まだ初夏だからか
人もまばらな海を見て
海沿いにある定食屋でご飯を済ませ
私と彼は少し歩くことにした
「昔よくここにいたよな」
彼は言う
昔から夜に遊ぶのが好きだった彼は
ここを待ち合わせ場所にする事が多かった
誰とも会わずに数名だけで集まれる
そんな場所を彼は好んでいたのだ
「なんでかいつも深夜だったな」
私もその時を思い出しながら
彼の言葉に反応してみせた
昼間に来る事はまず無い場所だ
いつもと違う景色に見える
「明るい時に来るとなぜこの場所が
好きなのか分からなくなるよ」
彼は笑いながら言う
彼も不思議に思っていたそうだ
なぜこの場所を見つけたのか
なぜこの場所にくるようになったのか
それが分からないらしい
それから少し歩いたあと
彼は満足したらしく
「そろそろ帰ろう」
と言い車に向かって歩き出した
後ろ姿が消えてしまいそうで
何か気の利いた事を言おうと思ったが
まだ彼は元に戻れてはいない
そう思い言葉を飲み込み彼の隣を歩く
「晩御飯は何が食べたい?」
それが私の精一杯だった
彼はこちらを向いて
笑顔で言う
「今日は味噌ラーメンが食べたい」
いつも行っていたあの店か
私の昔の記憶も蘇ってきた
彼が好きなラーメン屋が近くにあった
昔からやっているが行列が出来る事もなく
特別美味しい訳でもない
それなのに続いているお店がある
「いいね沢山食べよう」
彼は昔の彼に戻るために
昔の自分の居場所を回っているのかもしれない
落ち着けた場所や落ち着いた人
自分を自分に戻すために
なにか1つでもきっかけが欲しいのかもしれない
少しずつ前を向こうとする彼を
私は応援している
言葉じゃなく行動で
ただ1番近くの友達として




