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黒い月

月は私達に裏側を見せない

私達はそれを当たり前だと生活する

崩れていっているかもしれないのに

私と彼は旅行を楽しんだ

そしてまたいつもの生活に戻るのである


「疲れたな」


私は仕事の休憩の時間

煙草を吸いに休憩室にいた

ここは私にとって仕事中の天国だ


「お疲れ様忙しいね今日も」


上司が話しかけてくる

ここでいつも簡単な会話する

彼もヘビースモーカーであり

休憩室の常連だ


「最近来店が多いですもんね」


当たり障りのない会話

ライターの音や煙草の煙

少し疲れが取れる気がする


「俺来月で辞めるんだよね」


いきなりそんな話を聞いたので

私は煙草の灰を落としかけた


「1番長かったのにどうして」


上司は言う


「色々理由はあるんだけど他所から誘われてるんだ」


ヘッドハンティングと言うやつだろう

この人は頭の回転も早く気も使える

私だけじゃないここに来る客も

皆知っているのだ


「なるほどですね」


正直意外だった

この人はずっとここにいると思っていた


「この店には世話になったけど給料の事もある」


確かにこの人はよく動く

この人の給料は低いと

従業員が喋っているのを聞いた事がある

なぜこの人の給料を知っているのかは謎だが


「次の職場はいい待遇を約束してくれたんですか?」


無粋な事を聞いてしまったが

私も興味には勝てない


「ここよりも勿論良いし立場もくれるそうだ」


笑顔で話す上司に

おめでとうという気持ちが強い

私もどちらかと言えばこの職場は不満の方が多い


「それは良かったですね」


「君には止められるかと思ったよ」


「私もこの職場そこまで得意じゃないんで」


私は上司ほど仕事ができるという訳では無いが

ある程度仕事を任される立場になってから

僻みの対象になる事が多かった


「確かに君も苦労しているね」


上司はそう言うと煙草を消し

手に持っていた珈琲を飲む


「ここの上は僕達に興味がないから余計にね」


この会社はそうなのだ

何かを成功させても評価が曖昧で

下手をすれば部下の手柄を奪う

そんなゴミのような会社だ


「もう意見をする気にもなれないよ」


悲しそうな目をしていた

上司は自分より上を好きではなかったが

この場所は好きだったのだろう


「同感ですね」


私は2本目の煙草に火をつけた

上司は次の会社では幸せになって欲しい

そう思うほどの扱いをされ

歯を食いしばって数年間耐えていたのだ


「まあ残りの時間仲良くしてくれよ」


上司はそう言うと

この天国から去っていった


「ギリギリだったんだろうな」


そう呟き天井を見ながら煙を吐く

私もいつか来てしまうんだろうか限界が

考えるだけでも嫌になる


誰かの為に尽くすという事で自分を作り

自分の存在価値を見い出してきた人が

そんな場所を捨ててまで他社へ行きたいと思う


「強くなってニューゲームか」


そんな事を思う

彼のゴールはどこにあったのか

やり遂げるステージはここまでと決めていたのか

それともこのゲームを作った製作者に

絶望したのだろうか


いつだっていい人は

我儘なやつに振り回される

でもいい人がその場から消えた時

初めて皆分かるのだろう

その人が耐えてきた辛さを

そして次のターゲットを決めるのだろう


「好きで仕事している人間ばかりじゃないよね」


当たり前の事だ

生活の為にその仕事をするようになる

好きな仕事を出来ている人は幸せだ

そんな事を思っていると

外から話し声が聞こえてきた


「あの人辞めるんだってね」


「ウザかったよね」


ここの従業員達だ

私は出るタイミングを見失った


「あの人鬱だったらしいよ」


「そんな感じしてたよね」


上司は強がっていたのかもしれない

私の前で何も知らない従業員達の前で


「他の会社に誘われたらしいよ」


「仕事が出来ていたらここで出世できたでしょ」


この子達はあの上司を慕っていたではないか

辞めると決まったらそんな言い方をするのか

私は自分の事では無いが彼女達を軽蔑する


「上の人も言ってたよ使えないって」


「それを言われるって事はよっぽどなんだね」


ハハハと笑いながら彼女達は去っていった

あの人の何が分かるのだ

部下達のミスをフォローして

部下達の為に遅くまで残り仕事をし

自分の仕事までこなしたんだ


彼女達を守ったのは

彼女達の苦労を減らしたのは

あの上司なのだ


「本当に人間ってくだらない」


私は彼女達と必要最低限しか

関わらない事を自分の中で決め

残りの時間上司といる時間を

大切にしようと思った


「送別会を開くと言うよりは

何か渡した方が相手も気が楽か」


上司が辞める日に

今までお疲れ様でしたと

私だけでも尊敬していたと伝えよう

この感情だけ私の中でしっかり残して

その他と同じと思われぬよう

存在に価値があったと

最後にそう思ってもらえるように

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