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捨てられ令嬢は、静かに幸せを取り返す  作者: ぷく


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奪還

暗い牢の中。


エリスは膝を抱えたまま、動けずにいた。


頬が痛む。


手首が熱い。


体中が重い。


怖かった。


悔しかった。


アドリアンの言葉が、頭から離れない。


『お前に選ぶ権利なんてない』


昔も、そうだった。


何も選べなかった。


婚約も。


居場所も。


未来も。


全部。


誰かに決められていた。


「……嫌」


小さく呟く。


もう戻りたくない。


あの頃には。


もう、あんな場所には。


ぎゅっと拳を握る。


(帰りたい)


辺境へ。


あの場所へ。


レオンのいる場所へ。


その瞬間――


外から悲鳴が聞こえた。


「ぐあっ!」


「な、なんだ!?」


エリスが顔を上げる。


剣の音。


怒号。


足音。


何かが起きている。


「……まさか」


胸が大きく跳ねた。



廊下。


レオンは止まらなかった。


一人目。


剣を振り上げる前に倒す。


二人目。


喉元に刃を突きつけ、気絶させる。


三人目。


横薙ぎ。


倒れる。


速い。


迷いがない。


ただ前へ進む。


「止めろ!」


男たちが襲いかかる。


だが。


「邪魔です」


低い声。


一閃。


剣が弾かれ、男が吹き飛ぶ。


怒りが研ぎ澄まされていた。


冷静なのに、恐ろしい。


ただ一つだけ。


目的がある。


エリスを取り戻す。


それだけだった。



大広間。


報告を受けたアドリアンが舌打ちした。


「何だと?」


「侵入者です!」


「一人で中に――!」


「……レオンか」


アドリアンの目が細くなる。


「思ったより早かったな」


笑う。


だがその目は冷たい。


「牢へ行け」


部下に命じる。


「女を連れてこい」


「は?」


「盾に使う」


当然のように言った。


「死なれても困るが、傷くらいなら問題ない」


部下が走る。


アドリアンは剣を取った。


「面白い」


笑う。


「自分から死にに来るとはな」



牢の扉が乱暴に開いた。


「立て!」


腕を掴まれる。


「離してください!」


引きずられる。


足がもつれる。


転びそうになる。


手首が痛い。


頬も痛む。


でも抵抗する。


「放して!」


「うるさい!」


強く引かれる。


怖い。


また利用される。


また道具にされる。


嫌だ。


嫌だ。


嫌だ。


その時。


目の前の男が止まった。


「……え?」


次の瞬間。


男の身体が崩れ落ちた。


背中から剣が抜かれる。


血が飛ぶ。


その向こうに立っていたのは――


「レオン……!」


息が止まる。


レオンだった。


服には血。


呼吸は荒い。


でも、その目だけは真っ直ぐエリスを見ていた。


「無事ですか」


その声を聞いた瞬間。


張り詰めていたものが切れた。


涙が溢れる。


「……っ」


声が出ない。


怖かった。


本当に。


怖かった。


レオンが駆け寄る。


縄を切る。


「遅くなりました」


震える手首に触れる。


赤く擦れた傷。


腫れた頬。


その痕を見た瞬間。


レオンの目が変わった。


「……やったのは」


「アドリアンです」


エリスの声が震える。


「ごめんなさい……」


「謝らないでください」


即答だった。


レオンはエリスを抱き寄せた。


強く。


壊れないように。


でも離さないように。


「怖かったですね」


その一言で。


エリスは泣いた。


堰を切ったように。


「……怖かった」


震える声。


「来てくれるって……信じてた……」


「はい」


レオンの声が低くなる。


「迎えに来ました」


その時。


後ろから拍手が響いた。


「感動の再会だな」


空気が凍る。


アドリアンだった。


剣を持ち、笑っている。


「だが、逃がすと思うか?」


レオンが前に立つ。


エリスを庇うように。


「下がっていてください」


「……レオン」


「もう、大丈夫です」


剣を構える。


殺気がぶつかる。


アドリアンが笑う。


「その女は俺のものだ」


レオンの目が冷えた。


「違う」


一歩前へ。


「彼女は誰のものでもない」


その言葉に。


エリスの胸が熱くなった。


アドリアンの顔が歪む。


「……殺す」


剣が振り上がる。


次の瞬間。


二人がぶつかった。


金属音が、牢に響いた。


――決着の時が来た。

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