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捨てられ令嬢は、静かに幸せを取り返す  作者: ぷく


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18/20

壊れた執着

大広間の中央。


エリスは乱暴に床へ押し出された。


「……っ」


手をついた瞬間、手首に痛みが走る。


縄で擦れた傷が、赤く腫れていた。


アドリアンは椅子に座ったまま、それを見下ろして笑った。


「みっともないな」


「……」


「辺境領主様も、縄をかけられればただの女か」


エリスは睨み返す。


「……最低ですね」


その言葉に、アドリアンは笑う。


「最低?」


ゆっくり立ち上がる。


靴音が近づく。


「最低なのは、お前だろう」


目の前でしゃがみ込む。


「お前さえ余計なことをしなければ、俺はここまで面倒にならなかった」


「……何を言ってるんですか」


「わからないのか?」


アドリアンの目が歪む。


「お前が辺境で成功したせいで、王都で俺の立場が悪くなった」


エリスの呼吸が止まる。


「……それで?」


「だから回収しに来た」


当然のように言った。


「お前も、領地も、全部」


「……馬鹿ですか」


アドリアンの眉が動く。


「何?」


「私を捨てたのは、あなたです」


エリスの声は震えていた。


怖い。


でも止めない。


「あの時、無能だと言った」


「役に立たないと言った」


「今さら何を――」


その瞬間。


頬を打たれた。


乾いた音が響く。


「黙れ」


衝撃で床に倒れる。


頬が熱い。


口の中に血の味が広がった。


「立場を理解しろ」


髪を掴まれ、無理やり顔を上げさせられる。


「お前は昔からそうだ」


「生意気で」


「無駄に反抗的で」


「なのに価値だけはあった」


エリスの目に涙が滲む。


悔しくて。


怖くて。


でも。


泣きたくなくて。


「……離してください」


「嫌だ」


アドリアンは笑った。


「今さら逃がすと思うか?」


指先が顎をなぞる。


気持ち悪い。


ぞわっと鳥肌が立つ。


「王都に戻れば、お前はまた俺のものだ」


「……違う」


「違わない」


「お前に選ぶ権利なんてない」


その言葉に、胸が冷えた。


昔と同じだ。


ずっとそうだった。


自分の意思なんて認められない。


都合のいい駒。


それだけ。


「食事は?」


部下が聞く。


「最低限でいい」


アドリアンは興味なさそうに言う。


「弱らせろ」


「逃げる気力もなくなるまで」


エリスの背筋が冷える。


本気だ。


この男は、本当に。


人として壊れている。


「それと」


アドリアンが笑った。


「例の騎士が来たら殺せ」


心臓が跳ねた。


「……!」


「気づいてるんですよね」


アドリアンはにやりと笑う。


「レオンとかいう犬」


怒りで視界が揺れる。


「……やめて」


「必死だったぞ?」


楽しそうだった。


「取り返すって顔をしてた」


「やめてください!」


叫ぶ。


アドリアンは満足そうに笑った。


「いい顔だ」


涙が落ちる。


怖い。


悔しい。


でも。


(レオン)


会いたい。


助けてほしい。


そう思ってしまう自分が悔しかった。


「連れて行け」


エリスは再び牢へ戻された。


食事は硬いパンひとかけ。


水も少し。


手首の傷は増えた。


頬は腫れたまま。


冷たい床に座り込む。


体が震える。


寒さじゃない。


恐怖だった。


「……っ」


膝を抱える。


一人だ。


暗い。


怖い。


でも。


「……信じる」


震える声。


「レオン……」


その頃。


廃砦内部。


物陰に潜む影があった。


レオンだった。


倒れた見張りを静かに横へ寄せる。


血のついた剣を握り直す。


聞こえた。


エリスの叫びを。


見えた。


頬を打たれる姿を。


その瞬間。


レオンの中で、何かが切れた。


「……アドリアン」


低い声。


冷え切った殺気。


剣を握る手に力が入る。


「許さない」


もう迷わない。


もう待たない。


今度こそ。


絶対に。


守る。


そして――


壊す。


アドリアンの全てを。


次の瞬間。


レオンは闇の中を走った。


エリスの元へ。

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