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捨てられ令嬢は、静かに幸せを取り返す  作者: ぷく


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17/20

奪われた居場所

遅れましたm(*_ _)m

目を開けたとき。


最初に感じたのは、冷たい石の感触だった。


「……っ」


頭が重い。


手首に違和感がある。


視線を落とすと、縄で拘束されていた。


(……連れ去られた)


ゆっくり呼吸を整える。


焦っても意味がない。


状況を把握する。


石造りの部屋。


窓は高い位置に一つ。


扉は厚い木製。


外には見張りがいる気配。


(……廃屋?)


記憶を辿る。


馬車。


襲撃。


刃。


煙幕。


そして――レオン。


「……」


胸が締めつけられる。


(無事……だよね)


そう考えた瞬間。


扉が開いた。


入ってきたのは、黒装束の男だった。


「起きたか」


低い声。


顔は隠れている。


「……ここはどこですか」


「質問する立場じゃない」


男は冷たく言った。


「大人しくしていれば死なない」


「……目的は?」


男が鼻で笑う。


「お前は価値がある」


「領地か」


「それもある」


エリスの背筋が冷える。


「……それも?」


男は答えない。


「余計なことを考えるな」


そう言って出ていく。


鍵が閉まる。



エリスは、ゆっくり息を吐いた。


(落ち着いて)


怖い。


怖くないわけがない。


でも。


(泣かない)


あの頃とは違う。


捨てられて、何もできなかった自分とは。


手首を動かす。


きつい。


でも少しだけ余裕がある。


(解けるかも)


何度か試す。


だが。


「……痛っ」


擦れて赤くなる。


簡単じゃない。


それでも止めない。


(レオンが来るまで、何もしないなんて嫌)


待つだけじゃない。


できることを探す。



その頃。


森の中。


レオンは地面に残った痕跡を追っていた。


馬車の轍。


足跡。


折れた枝。


「……西か」


護衛騎士が追いつく。


「レオン様!」


「捕らえた賊の一人が吐きました。山中の廃砦です」


「人数」


「十以上」


レオンの目が冷える。


「少ないな」


「え?」


「襲撃規模の割に」


つまり本隊がいる。


エリスを運ぶための別働隊。


計画的。


「……黒幕がいる」


確信だった。


ただの盗賊じゃない。


「追う」


「応援を待つべきです!」


「待てない」


即答だった。


「ですが――」


レオンは振り返る。


その目に、護衛騎士は息を呑んだ。


怒りだった。


冷え切った怒り。


「彼女が一人でいる」


それだけで十分だった。



夜。


エリスは、わずかな物音で顔を上げた。


扉の外。


男たちの声。


「依頼主はいつ来る?」


「明日の朝だ」


「金払いはいいらしいな」


「女一人で大金だ」


エリスの指先が冷える。


(依頼主……?)


売る気?


それとも――


「貴族様は面倒だな」


「失敗したら殺されるぞ」


(……貴族)


胸の奥がざわつく。


嫌な予感がした。


王都で自分を恨む人間。


心当たりが、ある。



レオンは夜通し馬を走らせていた。


眠らない。


休まない。


頭の中には、最後の言葉だけが残る。


『……信じてます』


拳を握る。


「……必ず行く」


あの時、守れなかった。


目の前で奪われた。


その事実が、胸を焼く。


(今度は、絶対に)


月明かりの下。


廃砦が見えた。


「あそこか」


剣を抜く。


風が止まる。


静かに、一歩踏み出した。



同じ頃。


エリスの部屋の扉が開いた。


「立て」


乱暴に腕を掴まれる。


「……どこへ」


「依頼主がお前を見たいそうだ」


その言葉で、背筋が凍る。


(依頼主)


誰なのか。


会えば分かる。


でも――


嫌な予感しかしない。


廊下を歩かされる。


足音が響く。


そして。


大広間の扉が開いた。


そこにいたのは――


「……久しぶりだな、エリス」


聞き覚えのある声。


凍りつく。


「……アドリアン」


元婚約者だった男が、笑っていた。


その笑顔は昔と同じ。


人を見下す、最低な笑みだった。


「会いたかったよ」


エリスの顔色が変わる。


理解した。


全部。


この誘拐の黒幕。


自分をここへ連れてこさせた理由。


全部。


アドリアンだった。


そして同じ瞬間――


廃砦の門が、静かに開いた。


レオンが中へ入る。


怒りを抱えたまま。


まっすぐに。


エリスを取り戻すために。

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