表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられ令嬢は、静かに幸せを取り返す  作者: ぷく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/20

穏やかな時間と、忍び寄る影

王都を発つ前夜。


宿舎の食堂は、珍しく静かだった。


「……こうしてゆっくり食事できるの、久しぶりですね」


エリスが、ほっとしたように言う。


「王都に来てからは、常に警戒していましたから」


レオンはスープを口に運びながら答えた。


「……終わったんですね」


「一つは」


「……十分です」


小さく笑う。


その笑顔は、前よりもずっと自然だった。



食事のあと、中庭へ出る。


夜風が、少しだけ冷たい。


「……明日、帰るんですね」


「はい」


「……辺境に」


「ええ」


しばらく、並んで歩く。


沈黙が続く。


でも、それは心地よかった。


「……レオンは」


エリスがぽつりと呟く。


「辺境に戻ったあとも、ずっと一緒にいてくれるんですか」


「……」


一瞬の間。


「護衛としては、当然です」


「……それだけですか?」


少しだけ、意地悪な聞き方。


レオンは、わずかに視線を逸らした。


「……それだけでは、足りませんか」


「……足りません」


即答だった。


レオンの喉が動く。


「……では」


一歩、距離を詰める。


「あなたが望むなら」


「……?」


「その“それ以上”で、います」


心臓が跳ねる。


「……それって」


「……言わせますか」


「……はい」


一瞬の静寂。


「……好きです」


低く、しかしはっきりと。


エリスの思考が止まる。


「……え」


「今さら隠しても、意味がない」


「……」


「あなたが、誰にも踏みにじられず」


「自分の足で立つ姿を見て」


「……惹かれました」


まっすぐな言葉。


逃げ場がない。


「……ずるいです」


エリスは、顔を伏せた。


「……そんな言い方」


「……嫌でしたか」


「……嬉しいに決まってます」


小さな声。


でも、確かに届く。


「……私も」


顔を上げる。


「……好きです」


レオンの目が、わずかに見開かれる。


「……」


「……今度は、逃げません」


「……」


「ちゃんと、向き合います」


静かに、距離が縮まる。


今度は――


自然に。


レオンの手が、そっとエリスの手を取った。


拒まない。


そのまま、少しだけ引き寄せられる。


「……」


「……」


唇が、近づく。


ほんの一瞬、ためらい――


触れる。


優しく、短く。


でも、前よりも確かなキス。


「……これで、正式です」


レオンが小さく言う。


「……ずるいです」


「……何度でも言います」


二人は、少しだけ笑った。



その夜。


エリスは、久しぶりにぐっすり眠った。


――明日、帰れる。


――大丈夫。


そう思えたから。



そして、翌朝。


王都の門を出る馬車。


「……本当に終わった感じがしますね」


エリスは、少しだけ伸びをした。


「油断は禁物です」


レオンは外を警戒している。


「……わかってます」


でも、心は軽い。


隣には、信じられる人がいる。


それだけで、世界は違って見えた。



だが。


その数刻後。


森へ入ったあたりで――


「……止まってください」


レオンの声が低くなる。


馬車が止まる。


「どうしました?」


「……気配が不自然です」


その瞬間。


――ガンッ!!


馬車が横から衝撃を受けた。


「きゃっ!」


エリスの体が揺れる。


「伏せて!」


外から、怒号。


「今だ、やれ!」


矢が飛び込んできた。


「……っ!」


レオンが剣で弾く。


「賊です!」


「そんな……!」


「計画的です」


馬車の扉が叩き破られる。


黒装束の男たち。


「女を連れて行け!」


「……!」


レオンが前に出る。


「下がってください!」


剣が交わる。


金属音。


一瞬で空気が変わる。


「くそ、強いぞ!」


「構うな、数で押せ!」


だが――


「目的は私ですね」


エリスが言う。


「……はい」


レオンの声が、さらに低くなる。


「絶対に、離れないでください」


その瞬間。


背後から――


「遅い」


低い声。


振り向いたときには、もう遅かった。


首元に、冷たい刃。


「……動くな」


「……!」


別の男が、いつの間にか入り込んでいた。


「女はもらう」


「やめてください!」


レオンが動こうとする。


「一歩でも動けば、殺す」


静止。


空気が凍る。


「……レオン」


エリスが、小さく呼ぶ。


「……大丈夫です」


「……」


「……信じてます」


その言葉に、レオンの目が揺れた。


「いい子だ」


男が笑う。


「そのまま来い」


「……っ」


抵抗できない。


エリスは、そのまま引き離される。


「エリス!!」


レオンの声が、森に響いた。


しかし――


煙幕。


視界が遮られる。


気づいたときには――


もう、姿はなかった。



静寂。


倒れた賊たち。


そして――


立ち尽くすレオン。


「……」


拳が、震える。


「……奪われた」


低く、押し殺した声。


「……必ず」


顔を上げる。


その目には、明確な怒り。


「取り戻す」


それは、誓いだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ