自分で選ぶ
剣と剣がぶつかる。
鋭い金属音が、石壁に反響した。
アドリアンの剣は重い。
力任せ。
怒り任せ。
だが速かった。
「っ!」
レオンが受け流す。
間髪入れず、二撃目。
三撃目。
連続で叩き込まれる。
「どうした!」
アドリアンが笑う。
「その程度か!」
レオンは下がらない。
冷静に、相手の癖を読む。
荒い。
隙が多い。
だが焦りが混じっている。
(追い詰められている)
それが剣に出ていた。
◇
エリスは壁際で息を整えていた。
足に力が入らない。
頬が痛む。
手首も痛む。
でも、目は逸らせなかった。
レオンが戦っている。
自分のために。
「……やめて」
小さく呟く。
傷ついてほしくない。
これ以上。
誰にも。
◇
「お前さえいなければ!」
アドリアンが叫ぶ。
剣を振り下ろす。
レオンが受け止める。
火花が散る。
「エリスは俺のものだった!」
「違います」
レオンの声は冷たい。
剣を押し返す。
「あなたは捨てた」
アドリアンの顔が歪む。
「捨てたんじゃない!」
怒鳴る。
「使えないと思っただけだ!」
その言葉に、エリスの心が冷えた。
昔と変わらない。
何一つ。
変わっていない。
人を人として見ない。
都合のいい道具。
それだけ。
「なのに!」
アドリアンが叫ぶ。
「なんで今さら価値が出る!」
その言葉に。
レオンの目が細くなる。
「価値?」
低い声。
「あなたは今でも、それしか見えていない」
「何だと!」
「だから失ったんです」
静かだった。
でも、鋭かった。
「エリス様は物じゃない」
アドリアンが笑う。
狂ったように。
「綺麗事だ!」
「違います」
レオンは一歩踏み込む。
剣がぶつかる。
押し込む。
「あなたが理解できないだけです」
◇
エリスの胸が苦しくなる。
レオンの言葉が響く。
物じゃない。
その言葉だけで。
涙が滲んだ。
昔、誰もそんなこと言ってくれなかった。
婚約者だったアドリアンも。
家族も。
周囲も。
でも今は違う。
レオンがいる。
自分を見てくれる人がいる。
「……違う」
自然に言葉が出た。
アドリアンが振り向く。
「何?」
エリスは立ち上がった。
足が震える。
怖い。
でも。
逃げない。
「私は、あなたのものじゃない」
空気が止まる。
アドリアンの目が見開く。
「……何だと?」
「昔は言えなかった」
震える声。
でも、止まらない。
「怖かったから」
「捨てられるのが」
「嫌われるのが」
「でも今は違う」
レオンを見る。
レオンも、見ている。
「私は、自分で選びます」
アドリアンの顔が歪んだ。
「黙れ!!」
怒りのまま突っ込む。
一直線。
隙だらけ。
レオンの目が鋭くなる。
(終わりです)
剣を流す。
踏み込み。
一閃。
アドリアンの剣が弾き飛ばされた。
床を滑る。
「なっ……!」
喉元に剣先。
勝負は決まった。
息が止まる。
静寂。
アドリアンの顔が青ざめた。
「ま、待て」
初めて見せる恐怖。
「話せば――」
「断ります」
レオンは冷たく言った。
「あなたに、その資格はない」
その瞬間――
外から足音が響いた。
「レオン殿!」
騎士団だった。
増援が到着した。
「全員を拘束しろ!」
賊たちが次々捕まる。
逃げ場はない。
アドリアンは呆然と立ち尽くした。
終わった。
全部。
完全に。
◇
レオンは剣を下ろした。
振り返る。
エリスを見る。
「帰りましょう」
その一言で。
エリスの緊張が切れた。
足元が崩れる。
「……っ」
倒れる寸前。
レオンが受け止めた。
「無理をしましたね」
優しい声。
エリスは泣きながら頷く。
「……帰りたい」
「はい」
レオンが抱き上げる。
「帰りましょう」
今度こそ。
自分の居場所へ。
その後ろで。
縄をかけられたアドリアンが叫ぶ。
「エリス!」
振り向かない。
もう。
必要ない。
その声も。
その過去も。
全部置いていく。
彼女は、自分で選んだのだから。




