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捨てられ令嬢は、静かに幸せを取り返す  作者: ぷく


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自分で選ぶ

剣と剣がぶつかる。


鋭い金属音が、石壁に反響した。


アドリアンの剣は重い。


力任せ。


怒り任せ。


だが速かった。


「っ!」


レオンが受け流す。


間髪入れず、二撃目。


三撃目。


連続で叩き込まれる。


「どうした!」


アドリアンが笑う。


「その程度か!」


レオンは下がらない。


冷静に、相手の癖を読む。


荒い。


隙が多い。


だが焦りが混じっている。


(追い詰められている)


それが剣に出ていた。



エリスは壁際で息を整えていた。


足に力が入らない。


頬が痛む。


手首も痛む。


でも、目は逸らせなかった。


レオンが戦っている。


自分のために。


「……やめて」


小さく呟く。


傷ついてほしくない。


これ以上。


誰にも。



「お前さえいなければ!」


アドリアンが叫ぶ。


剣を振り下ろす。


レオンが受け止める。


火花が散る。


「エリスは俺のものだった!」


「違います」


レオンの声は冷たい。


剣を押し返す。


「あなたは捨てた」


アドリアンの顔が歪む。


「捨てたんじゃない!」


怒鳴る。


「使えないと思っただけだ!」


その言葉に、エリスの心が冷えた。


昔と変わらない。


何一つ。


変わっていない。


人を人として見ない。


都合のいい道具。


それだけ。


「なのに!」


アドリアンが叫ぶ。


「なんで今さら価値が出る!」


その言葉に。


レオンの目が細くなる。


「価値?」


低い声。


「あなたは今でも、それしか見えていない」


「何だと!」


「だから失ったんです」


静かだった。


でも、鋭かった。


「エリス様は物じゃない」


アドリアンが笑う。


狂ったように。


「綺麗事だ!」


「違います」


レオンは一歩踏み込む。


剣がぶつかる。


押し込む。


「あなたが理解できないだけです」



エリスの胸が苦しくなる。


レオンの言葉が響く。


物じゃない。


その言葉だけで。


涙が滲んだ。


昔、誰もそんなこと言ってくれなかった。


婚約者だったアドリアンも。


家族も。


周囲も。


でも今は違う。


レオンがいる。


自分を見てくれる人がいる。


「……違う」


自然に言葉が出た。


アドリアンが振り向く。


「何?」


エリスは立ち上がった。


足が震える。


怖い。


でも。


逃げない。


「私は、あなたのものじゃない」


空気が止まる。


アドリアンの目が見開く。


「……何だと?」


「昔は言えなかった」


震える声。


でも、止まらない。


「怖かったから」


「捨てられるのが」


「嫌われるのが」


「でも今は違う」


レオンを見る。


レオンも、見ている。


「私は、自分で選びます」


アドリアンの顔が歪んだ。


「黙れ!!」


怒りのまま突っ込む。


一直線。


隙だらけ。


レオンの目が鋭くなる。


(終わりです)


剣を流す。


踏み込み。


一閃。


アドリアンの剣が弾き飛ばされた。


床を滑る。


「なっ……!」


喉元に剣先。


勝負は決まった。


息が止まる。


静寂。


アドリアンの顔が青ざめた。


「ま、待て」


初めて見せる恐怖。


「話せば――」


「断ります」


レオンは冷たく言った。


「あなたに、その資格はない」


その瞬間――


外から足音が響いた。


「レオン殿!」


騎士団だった。


増援が到着した。


「全員を拘束しろ!」


賊たちが次々捕まる。


逃げ場はない。


アドリアンは呆然と立ち尽くした。


終わった。


全部。


完全に。



レオンは剣を下ろした。


振り返る。


エリスを見る。


「帰りましょう」


その一言で。


エリスの緊張が切れた。


足元が崩れる。


「……っ」


倒れる寸前。


レオンが受け止めた。


「無理をしましたね」


優しい声。


エリスは泣きながら頷く。


「……帰りたい」


「はい」


レオンが抱き上げる。


「帰りましょう」


今度こそ。


自分の居場所へ。


その後ろで。


縄をかけられたアドリアンが叫ぶ。


「エリス!」


振り向かない。


もう。


必要ない。


その声も。


その過去も。


全部置いていく。


彼女は、自分で選んだのだから。

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