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観測者は夢を見る  作者: 東雲


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百光編 Session.01 『ripper Night』

深夜の静寂を引き裂くように、サイレンの音がけたたましく響く。

だが、街を歩く人々はまるで気にも留めていない。


パトカーがサイレンを鳴らしながら駆け抜け、

次の瞬間に爆発したとしても――誰も驚かない。

この街では、よくある出来事だ。


治外法権?

違う。この街の住人は遵法精神に溢れている。

ただし、それが“人間の法”ではないというだけ。


夜魔族(ナイトウォーカー)は真祖法に従い、

妖魔族は妖怪法に従い、

来訪者(エトランゼ)たちは大銀河法典に背かない。


この街は坩堝だ。

正も邪も、妖も魔も異も――すべてを飲み込む坩堝。


元の街とはだいぶ変わってしまった、異界と化した街。

混沌の街、シブヤ。


夜22時以降は、人間だけで来るのはお勧めしないね。


坩堝には、そりゃいろんなモノが流れ着く。

善きものもありゃ、悪しきものも。

ほら、どうやらまた一つ流れ着いたみたいだ。


男が大事そうに抱える、一冊の本。

来訪者(エトランゼ)たちの異本か?

真祖達が持ち込んだ魔術書か?

違うね。あれは……そう、手帳さ。


あの手帳が、この街をどう引っ掻き回すのか。

さあ、舞台の幕を上げてみようか。


あぁ、言い忘れていた。

私の名は…そうだな伯爵とでも呼んでくれたまえ。

なに、黒幕ではないさ

そうだな。ただの…ただの傍観者さ

それでは百光編ーー開幕だ



*****


夜の繁華街の雰囲気というのは、どんな時代も、どんな世界も変わらない。

酔客がそこら中で下手くそなダンスを踊り、

女が男を誘い、男が女を誘っている。


異界と化したシブヤも、変わる前と何も変わらない。


「ったく、なんで酒も飲めずにこんな所を巡回しなきゃいけねぇんだよ」

赤ら顔の警察官がぼやく。

赤ら顔と言っても酒精のせいではない。皮膚そのものが赤いのだ。

ついでに額には立派な角が生えている。


「ボヤくなボヤくな……おい、そこの夜魔! 精気吸い過ぎンなよ!

眷族なんか増やしてみろ? お宅の真祖(ボス)にすぐ報告するぞ! 節度を持て節度を!」


青い顔の警察官が、若い夜魔族(ナイトウォーカー)の青年に怒鳴りつける。

「ヤベッ……鬼警官共かよ……」

青年は舌打ちしながら、さっとその場を離れた。


「お巡りさん、お仕事終わったら遊びに来てねぇ」

扇情的な服のサキュバス娼婦が投げキッスを送る。


「公僕の癖にモテてんじゃねーよ」

赤と青の間を歩くのは、黒い外套を羽織った男。

決して小柄ではないのだが、両脇の鬼警官が大きすぎて小さく見える。


「はっはっはっはっ! 僻むな僻むな!」

「ありゃ社交辞令に過ぎんさ」

二人は豪快に笑う。


「しかし、巡回に俺が付き合う必要はあるのかね?」

男――ハルは不機嫌そうに懐から煙草を取り出し、火をつける。


「おい、ハル……ここは禁煙地域じゃぞ?」

赤い警官が睨みを利かせる。


「煙草に扮した護摩だよ。俺はか弱い人間だぜ?」

鬼の睨みを受け流し、ハルは煙を吐く。


「歩きタバコは条例違反だが……歩き護摩はどうなんじゃろうなぁ……」

青い警官は一本取られたとゲラゲラ笑った。


「っと…赤おっさん!今一瞬霊場が乱れた。右後方500m」

ハルが懐から札を取り出し、右後方に投げる

【急急如律令】

投げた札が鳥に変化し、現場に向かう

「応さ、右後方な」

「やっぱお前さんがいると便利でええわい」

「別料金もらうぜまったく…」

三人はそれぞれ溢しながら鳥を追いかける


鳥が止まった所は、所謂“街娼婦“が集まる公園だった。

到着した時は異様な雰囲気に公園自体が包まれていた。

「結界!?」

いち早く異様の正体に勘付いたハルは先程投げた札とは違う札を公園に放つ

【急急如律令】

バチンと何かが爆ぜる音がする。

「赤おっ…はもう行ってるか!青さん!退路封鎖!」

「ワシも突入したかったのぉ!」

と軽口を叩きながら印を結ぶ。

不動明王結界を展開し公園入り口で仁王立ちする青警官

「御用じゃぁ!!」

どデカい声が響く。

赤警官の咆哮が夜の公園に響いた。

「!?」

咆哮の直後、公園内から何かの気配が消えた事に気が付いたのはハルだけであった。


逮捕されたのは、夜魔族(ナイトウォーカー)の青年。

昨夜から起きていた連続殺人事件の容疑者として逮捕された。

公園に居た街娼は2人、首を切り裂かれ死亡。

前日の別の場所で起きた首切り殺人の被害者と合わせて4名の殺人容疑で逮捕。


「腑に落ちねぇんだよなぁ…」

宇都宮探偵事務所と書かれたドアの鍵を開け、外套を掛け、椅子に座わり…ハルは独りごちた

式神が珈琲を淹れて持ってくる。

煙草に火を付け、珈琲を飲みながら窓の外を見やる

今日もシブヤは騒がしい

「何をそんなに不満気にしてるのかしら?」

ドアの方から声が掛かる

「勝手に入ってくんな、情報屋」

「あら、入れてくれたのはお宅の式神よ?」

室内に入ってきたのは銀髪のショートボブの美しい女性。

眼鏡にスリーピースのスーツを着こなしている。

「お前さんを敵認識させるのを忘れてたよ」

「あら、失礼しちゃう。お互い敵対しない中立の関係じゃなかったかしら?」

女はソファに座り、勝手に茶菓子と珈琲を飲む

「中立ってのは勝手に人んちに入ってこねぇよ…んで、何しに来たんだアイ」

アイと呼ばれた女は、珈琲を飲みつつUSBメモリを投げ渡す。

「ここ数日間で起きたシブヤでの怪事件リストが入ってるわ。大きいのから小さいのまでね」

パソコンにメモリを差し込むといくつかのフォルダに纏められている。

「犯人逮捕できてるのが6件、未解決が2件。警察が優秀なのか…」

いつの間にか人の煙草を吸っているアイが続ける

「ワザと警察に捕まってるのか」

ふぅ…と紫炎を燻らせる

フンと鼻を鳴らし、ハルは反論する

「ワザと捕まる意味が無いだろ…ん?」

ファイルを見ていると犯人の供述に不気味な一致がある事に気がつく

「そう、犯人は…昨日のジャックザリッパーもどきも含めて同じ供述してるのよ」

マウスを操作し、報告書の供述の部分を表示する

「俺じゃ無い。俺がやったんじゃ無い…別人格がやったんだ。俺じゃ無いんだ」

「僕じゃ無い。僕がやったんじゃ無い…別人格がやったんだ。僕じゃ無いんだ」

「私じゃ無い…」

異口同音に並び立てられる別人格による犯行と言う供述

「6件全部ね…」ふむ…と考え込むハル。


「アイ、ちょっと付き合え」

ハルは外套掛けに掛かっていた黒の外套を羽織り、事務所の扉に向かう

「わお、情熱的なお誘い。ディナーは高級フレンチがいいな」

「馬鹿言うな。チーズインハンバーグで我慢しろ」

バタンと扉が閉じる。

パソコンの画面には報告書。


「多重人格者による模倣殺人事件」


******


「で、何を思いついたのかしら?」

事務所の裏の駐車場に停めてあった2シーターの乗用車。

見た目はmini社のCooperに見えるが、内装やらエンジンやらは全部取り替え済みと言う

見た目にも性能もチグハグなモンスターマシンである。

その助手席でタバコを燻らせながらアイが尋ねる

多重人格者による模倣殺人事件…だっけか?警察の見解は」

「えぇ、そうみたいね」

「ありゃ違うな…呪い(まじない)の一種だよ」

「ふぅん…?」

「よく分かってねぇな…」

「東洋オカルトは専門外だもの」

不貞腐れるように窓の外に目を向けるアイ

「で、何処に向かってるのよ?」

シブヤの外れに差し掛かり、異界と現界の境界線までたどり着く

「ん?心療内科の名医の元さ」

「は?心療内科?医者ってこと?オカルトから一番遠い位置よそれ」

「勉強不足だな情報屋」

みうら心療内科と書かれたビルの駐車場に車はハンドルを切る

「医術の起源は呪術だぞ?」


*****


エレベーターに乗り込み2階のボタンを押す、即座に6階を押し、5階、3階、再度2階と順序よくリズム良く押すと8階の表示が現れ…

最終的にB1階…地下一階へと向かう

「何あのギミック…普通の病院じゃないわね」

「そりゃそうだ。俺達が今から会いに行くのは呪術外法のスペシャリストだぜ?あのボタンだって呪い(まじない)が掛けられてる」

ため息混じりにアイが尋ねる

「で、そのスペシャリストって一体何者よ?貴方みたいな陰陽道の使い手?」

「バカ言え、陰陽術なんて単純な占星術でしかねぇよ…洋の東西問わず、呪術のスペシャリストって言えば」

チーンとエレベーターが到着し、扉が開く

魔女(ウィッチ)さ」

地下一階と表示されているが、ひんやりと冷たい空気が漂っている。

明らかに()()()()()()()()()()()()

「…アイ、お前に警戒してるみたいだ。なんか変なもん持ち込んでねぇか?」

「何も?……と言いたい所だけどこれくらいは護身よね?」

と懐から拳銃を取り出す

「あー、魔女(ウィッチ)!コイツは大丈夫だ!宇都宮ハルが宣誓する!」

2人とも両手を挙げ、ハルが叫ぶ

魔女(ウィッチ)相手に真名(まな)による宣誓かい?よくやるねぇ小僧】

何処からが響く女の声

「いいから受け入れろ!趣味悪ぃぞ!!」

【ヒヒッ…受け入れよう】

次の瞬間、地下一階を覆っていた不可思議な空気が霧散し、換気扇の音だろうか?ブゥンと言う音が響いた。

「…医術の起源は呪術…ってのは本当みたいね」

「数少ない()()()()()()()()()()()()だ。気を抜いたら魂抜かれるぞ」

ゴクリと唾を飲み込む音が響く

「いらんわお前らの魂なぞ…何しにきよった宇都宮の坊主」

いつの間にか開いていた正面のドアの向こうに老婆が1人椅子に座っていた。


*****


「ふむ…そりゃ呪いだな。多重人格とはちょっと違う」

白衣に身を包んだ歳の頃40になるかどうかの美女が2人の座るソファの前に置く

「呪いだが…ふむ。シブヤに厄介なものを持ち込んでおるわ…来訪者エトランゼ共が大騒ぎするぞ」

神妙な顔でアイは女の顔を伺う

「呪いの発生源…は…と」

女が胸元から一本の棒を取り出し、くるりと宙をなぞる

「ははぁ…これは、なんとも悪趣味な」

くつくつと笑う女。

ハルは紅茶を飲み一息つく

「で、わかるのか?」

「わかるともさ」

「あの…ちょっと聞いても?」

とアイが小さく手を挙げる

「あん?なんだい小娘」

「どうした?アイ」

「ごく自然に会話進めてるけど貴女一体誰?さっきのお婆さんは?魔女は?呪いのエキスパートは?え?疑問持ってるの私だけ?お婆さんがわけ知り顔で扉の先に居たのに話してるのなんなのこの妙齢の美女!?ハルも受け入れてるし?理解できてないの私だけなんですけど!!」

ダンと立ち上がり大きく息を吸い、一息で話す。

ハルは「おぉ…」と感嘆の声を上げ、パチパチと拍手をする。

「さっきの婆さんも、この妙齢の美女も……同じ魔女(ウィッチ)さ」

きょとんと目を丸くするアイを気にも留めず、ハルは続ける。

「こいつら魔女(ウィッチ)に、見た目なんて()()()()()()()()()()だ。

ババァだろうが下品なねぇちゃんだろうが、猫だろうがカラスだろうが……

魔女(ウィッチ)にしてみりゃ()()でしかない。

本質は()だからな」

ハルは出された紅茶をぐいと飲む。

「魂……?」

「そうさね。魂が同じなら、見た目なんて大した差はない。

――そう、今のシブヤの事件と一緒さ」

美魔女は煙管に詰めた煙草へ火を灯す。

ふぅ……と紫煙が部屋に広がった。

「『多重人格()()殺人事件』なんだろ?

この事件も、この事件も、この事件も……そうさ。

全部()()()()()()()()()()()()なのさ」

「魂が……同じ?」

「同じ、というよりも……そうさね。魂を捩じ込まれた……いや、もっと杜撰だね」

「コピー・アンド・ペースト」

ハルがボソリと呟く。

「おぉ、言いえて妙だ。あれは魂の“コピペ”だ。

満足したら消えちまうのも、その仕様かね」

魔女はカラカラと笑いながら続ける。

「ありゃ間違いなく“悪魔の本”の複製品さ。

殺人犯の閻魔帳……その写し。

メモ帳に雑に書かれた閻魔帳さ」

その言葉を聞き終えるとハルはソファから立ち上がる。

「切り裂きジャック”もどき”の時に逃げた黒いモヤ…こいつが事件の犯人か」

「ハハ、ほぼ確実にそいつが原因だね。どうやって捕まえる?」

「相手が呪具の類ならやりようはある」

ピッと札を一枚机に投げる

「特急で仕事を頼むよ魔女(ウィッチ)魂探知の呪言を刻んでくれ。それと、アイ」

くるりとアイに視線をやる

「情報を集めてくれ」

メガネをキラリと光らせアイが答える

「任せなさい。呪いの本?」

ハルは、頭を振る


「いや、”メモ帳”…もしくは”手帳”だ」


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