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観測者は夢を見る  作者: 東雲


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百光編 Session.03『Uninvited Guests at the Tea Party』

来訪者エトランゼ―――

それは銀河系外の超文明からの来訪者。

古代の人々は彼らのことを”神”と呼んだ。

メソポタミア、インダス、黄河、エジプト…様々な来訪者エトランゼ彼らはその圧倒的な技術力で人間のステージを一段高く上げたと言える。

シブヤにもまた、そんな来訪者エトランゼが住み着いている。

彼らは土着の神々と上手く付き合い、ひっそりと、だが、確実にこの街に息づいている。


―――喫茶「ルルイエ」にて

「美味いコーヒーは心だけじゃなく、体も落ち着かせてくれる。そうは思わないかね探偵くん」

今どき古風なモノクルを装着する紳士然とした男が香り高いコーヒーを一口啜る。

「いや、全く思いませんね…ナイア殿。私は先日言いましたよね?

 あれは立派なつきまとい行為。ストーカーですよ?って!現地住民につきまとい行為を行うのは銀河大章典三条四項に違反していますよ!って」

ハルは手帳に書かれた調査結果を読みながら告げる。

さながら裁判官のように、違反者を捕まえる警官の様に

(違う……これじゃない!違うんだ!)

脳内で不可思議な声が聞こえるがハルはひとまず無視をし、話を続ける。

「いいのですよ?ゴラス殿にこの事をお話しても…」

「ハッハッハッハッ!この私を脅そうというのかね?無貌の神と言われたこの―――」

「うるせぇストーカー!」

思いっきりドツく

「いいか?あんたら来訪者エトランゼ()()のせいでこっちの本業は全く進まない!ゴラス殿どころかトゥルフ様んとこ行っても良いんだぞこっちは!!大人しく罪を認めて素直に銀河大章典に従え!」

フンッと鼻息荒く一息で捲し立てるハル。

モノクルの紳士…ナイアと呼ばれた男は少したじろぐ

「だがね、あれは純粋な興味でだね―――」

「純粋な興味でゴミを毎日持ち帰るな!!!!」

(これじゃない...!これじゃないんだ!!頼む!俺に―――俺にケンジを救わせてくれ!)

「は?ケンジ?人狼の?」

思わずといった風に漏らす。


「……探偵くん? 君、だいぶ()()していますねぇ……うむ、興味深い」


「混戦……? いや、混線か? なんのことだ?」


この無貌の不審者が煙に巻こうとしている可能性を考慮し、ハルは怪訝な表情を浮かべる。


「ふむ、第四の壁……いや、違いますね……第四の壁とは違う。世界線の跳躍?」


ナイアはブツブツと呟き続ける。


(クソ……どうすれば? どうやればいいんだ? この夢じゃないんだ)


「夢……そうか! 意識のみの跳躍。ハックとも違う。共生とも違う……ふむふむ」


()()()()()()()()()()()()()()()ナイアは続ける。


「おい、無職・住所不定の外なる邪神。俺を置いていくな……ってか何言い出してんだ?」


ハルはやれやれといった表情を浮かべる。


(クソ……夢の結末が現実を変えるなんて……無理な話だったのか)


「ほほぅ……それは! なるほど!!

 かの方々(旧支配者)でも、我々(外なる神々)でもない者が!

 夢による現実の侵食を実現させていると!

 これは―――正気度の大暴落(SAN値直葬)ですね」


恍惚とも愉悦とも違う奇妙な表情。

今までのまるで貼り付けた紳士の顔とは全く違う。

人間のふりを止めたような、表情が抜け落ちたが故の不気味さでナイアは続ける


「探偵くん…その意識()()()()

 君よりも上手に扱ってみせよう。

 そうさ、()()()()()()()()()()


ゆらりとナイアが立ち上がる。

その表情は能面の如く、人形の如く、しかし知性を感じる不気味さで。


「……なんだ?様子がおかしい」

異常事態を察知したハルが懐から札を取り出す。

【急々如律――】


「Bonjour」


間の抜けた挨拶が店内に響き渡る

声は間が抜けているし、威圧感があるわけでもない。

一人の紳士が店のドアを開け、入ってくる。


(あの時の外人!?)


「そうさ、あの時の外人さ…さぁ、Monsieur波琉。この線じゃあないだろう?」

パチンと紳士が指を鳴らす。


「なっ…!なぜ()()()()()()が!」

「ハッハッハッハ…這い寄る混沌、燃える三連の眼、無貌なる神よ。この()()()()()()()() は、私が最初に見出したのだ。この私がね」


ギラリと瞳が光る


「戦おうってなら相手になろう。創作物よ」


空気の粘度が、密度が上がったような気がした。

ナイアの顔が歪む。

比喩ではなく、実際にグニャリと歪んだ。


恐ろしい風貌。現代アートもかくやと言ったオブジェのようでもある。

目と鼻と口に“見える模様”が顔に見える。

いわゆるシュミラクラ現象で顔に見える……ような気がする。

紳士とナイアが睨み合い数秒。

いつ衝突が始まってもおかしくない緊張が漂う。

その緊張を破いたのはナイアであった。


「ここで壁の外側と揉めてもおもしろくないですね……」


やれやれと言った風に、ナイアは不気味な風貌のまま、似つかわしくない軽くフレンドリーな態度で両手を上げる。


「君の賢明な判断には称賛を送りましょう、創作物」


謎の紳士がナイアに向ける眼は、まるでアニメや映画を眺めているかのようだった。


「おい、怪しげな二人で盛り上がってるところ悪いんだけど、状況に周回遅れしてる俺に説明を求めてもいいか?」


ハルがしびれを切らしたように詰め寄る。

紳士はその形相にまるで臆することもなく、パンと手を鳴らす。


「これは失礼。では、参りましょう」


「参りましょうじゃなくて説明を――」


“しろよ!”という言葉は最後まで響くことはなかった。

ルルイエの店内から二人の姿が、まるで霧のように掻き消えた。


「ここの支払いは……私がするのか……?」


ナイアの呟きは誰も聞いていない。

部屋の角に、いつの間にか居た黒い犬が、くぅんと同情じみた声を上げるだけだった。


*****


ふと気が付いたとき、波琉は違和感に気づく。


身体の感覚があるのだ。


ハルとしての身体ではなく、現代に住む普通の高校生――【宇都宮 波琉】としての身体が。


一瞬、目が覚めて夢が明けたのかと思ったが、自分の寝室はこんなに白くない。


「おはよう、観測者」


山高帽に髭、スリーピースのスーツを着こなし、ステッキを持つ紳士がそこにいた。


「あぁ、驚かせてしまったかな? 私はそうだね、伯爵とでも呼んでくれたまえ……君のファンだよ」


くるりとステッキを回したかと思うと、いつの間にか用意されているティーテーブルからポットを手に取る。


「お茶は?」


「いや、あぁ……もらう」


一瞬拒否しようかと逡巡したが、伯爵の好意に素直に甘えることにした。


「紳士たるもの、いついかなる時も冷静に、落ち着いて物事を見なければならない」


コポコポと小気味よい音を立て、ティーカップにお茶を注ぐ。


「Monsieur波琉、君はいくつか聞きたいことがあるはずだ」


香り高い紅茶を口にして、波琉はほっと一息ついた。


「いくつか……というよりも―――」


「一つ、この夢は何か?」


紳士は指を折る。


「一つ、現実の変化は一体なぜか?」


二本目の指を折る。


「一つ、どうすれば友人を助けることができるのか?」


三つ目の指を折り、伯爵は真っ直ぐに波琉を見つめる。


ゴクリとつばを飲み込む音が響いた気がする。


「今挙げた三つ以外にも聞きたいことはあるだろう……しかし! 今大事なのはこの三つであるね?」


謎の威圧感に気圧され、コクコクと頷く波琉。


「その答えは彼女がよく知っている。知っているとも、なぁ? アイギリス殿」


ぐにゃりと空間が歪む。


何もない空間が歪む――そんな表現はおかしいと思うが、歪んだとしか言いようがない。


その歪みから、一人の美しい女性が現れる。


神秘的な長い銀髪。表情はなく、能面のようだが、ナイアとは違い圧倒的な存在感を放っている。


「伯爵、戯れが過ぎます」


凛とした声が、まるで戯曲の一節のように響く。


「おや、女神様はご機嫌が斜めのようだ……出直そうかとはいかないのが困りものだ」


伯爵は肩を竦め、パチンと指を鳴らす。


次の瞬間、まるでアフタヌーンティーのようにテーブルには様々な茶菓子が並ぶ。


「お一つ如何かね?」


スッとマカロンを女神に差し出す。


「……頂きましょう」


ほぅ……? と意外そうに鼻を鳴らす伯爵。


着席し、上品に紅茶を飲む女神。


(この女神……知っている。見た記憶がある……あれは)


「江戸の夢――004番を修正した後に神世(ガーデン)に接続した者がいましたが……やはり貴方でしたか」


一瞬、ドキリと心臓が跳ねる。


当たり前のように心を読んでいる。それよりも――。


「004番? 夢に番号が付いているのか? もしかしてアンタは夢を……世界を選ぶことができるのか!?」


波琉は思わず身を乗り出す。


「世界の選択であれば、可能です」


女神は無表情のまま応える。


「だったら――」


「―――しかし」


ピシャリと波琉の言葉を遮る。


「事象の発生を変化させるのは不可能です。権限がありません」


どこか申し訳なさそうに、しかし無表情のまま女神は告げた。


「権限?」


「えぇ、権限です。私は世界を管理するのが役目です。干渉は出来ません」


スッと目を逸らしながら女神は語る。

嘘は言っていないのだろう、しかし真実を語ってるとも思えない。


「だったら…その権限を持っているヤツがいるんだよな?お願いだ女神サン!俺はともだちを助けたい!この夢は何なのか。とか、夢の出来事が現実世界に影響を与えている。とか、そんなのは今の所どうだっていいんだ。俺は健司を助けたい!」


「しかし――」

「若者の決意を蔑ろにするのは良くない。実に良くない…そうは思いませんか」

伯爵が女神の前にお茶菓子…ギモーヴだろうか?を差し出し、話を遮る。

「Monsieur波琉、その権限を持っている者は君もよく知っているよ」

「伯爵――!!」

女神は伯爵の話を遮ろうとしているが、波琉がそれを阻止する

「俺がよく知っている?一体誰のことだ」

「その権限を持っているのは誰でもない…君さ、君自身だ」


波琉は急な伯爵の言葉に呆気に取られてしまう


「俺にそんな――」


「そんな、とは随分と控えめだね。

 君は自分を安く見積もりすぎる。

 ……いや、その謙遜がまた実に“人間(キミ)らしくて”良いのだけれど」


伯爵はゆったりと椅子に腰掛け、紅茶をひと口。

その仕草は優雅で、しかしどこか人を試すような目をしている。


「世界とはね、Monsieur波琉。

 誰が見たかによって、いとも簡単に姿を変えるものだよ。

 そう、気まぐれな貴婦人のようにね。

 君がどう見つめるかで、世界は態度を変える」


優しい声で、残酷な真実を告げる。


「かの科学者アインシュタインが観測した光の速度は一定だ。

 あれは世界が“そう見せてあげただけ”さ。

 観測者がそう望んだからね。

 世界は従順だよ。

 ……君が思っている以上に」


伯爵は葉巻に火をつけ、紫煙をくゆらせる。


「だがね、世界は《《嘘つき》》だ。

 別の誰かが“違う顔”を見つければ、あっさり裏切る。

 ニュートリノの件なんて、まさにそうだろう?」


波琉が息を呑むと、伯爵は微笑む。

優しい、しかし底の見えない笑み。


「さて、君はどうするつもりだい?

 世界が嘘つきだと知って……それでも足掻くのかい?」


波琉が言葉を探す間もなく、伯爵は続ける。


「気まぐれな貴婦人を振り向かせる方法?

 ふふ、そんなものは決まっている」


伯爵は波琉をまっすぐ見つめる。

その瞳は、期待と嗜虐が入り混じった奇妙な光を宿していた。


「見つめ続けることだよ。

 愛を持って。

 哀を持って。

 ……君なら出来るだろう?」


そして、優しい声でとどめを刺す。


「私はね、長い時間を生きてきた。

 人間の愚かさも、醜さも、限界も……飽きるほど見てきた。

 だからこそ、君のような“例外”が愛おしい。

 泥にまみれても立ち上がる姿は……実に美しい」


伯爵は紅茶を置き、静かに笑う。


「導いてほしい?

 それは簡単だ。

 だがね、君が自分で選び、自分で転び、自分で立ち上がる……

 その姿こそが、私の楽しみなんだ」


「さぁ、Monsieur波琉。

 もっと足掻いてくれたまえ。

 君の泥だらけの姿を、私は心から待っている」


伯爵はまるで舞台に立つ役者のように、

恍惚とした表情を浮かべていた。


その表情に、その仕草に、その立ち振る舞いに――

波琉は、はっきりとした恐怖を覚えた。


この男は“観察”しているのだ。

それも、ただの観察ではない。


まるで小学生が夏休みの自由研究で蟻の巣を覗き込むように。

せっせと動く自分を、籠の……いや、ゲージの外から眺めている。


「―――っ」


二の句が継げない。

歯の根が噛み合わないような感覚すらある。


そんな波琉の震えを、伯爵は愉しむように目を細め――


「そこまでです、伯爵。それ以上は卿の権限を大きく超えます」


女神の声が響いた。

決して大きくはないのに、空間そのものを震わせるような声。


伯爵は肩をすくめ、

「やれやれ」とでも言いたげに葉巻の火を軽く払う。


女神は波琉の前に立ち、

決心したように静かに口を開いた。


観測者ウォッチャー……いえ、波琉殿。

 伯爵《あの狂人》の言うことは気にしないで結構です」


伯爵は「狂人」と呼ばれても、

むしろ嬉しそうに微笑んでいる。


女神は続ける。


「しかし、貴方の友人の被害は私の望むところではありません」


その声は静かで、滔々と流れるようだった。


「さらに言えば、貴方に落ち度は全くありません。

 夢のことも、現実への侵食のことも――」


そこで言葉を切り、一息つく。


「これらは全て、神世ガーデンの落ち度です」


伯爵が息を呑んだ。

“それを今ここで言うのか?”

と言いたげな、珍しく焦りの色を帯びた表情。


女神はそんな伯爵を一瞥し、

波琉に向き直る。


「私も覚悟を決めました。

 お話しましょう――なぜ貴方なのかを」


伯爵はゆっくりと笑った。

その笑みは、

“さぁ、ここからが面白い”

とでも言いたげな、観客席の笑みだった。



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