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観測者は夢を見る  作者: 東雲


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現代編 Ep.04『みえすぎるせかい』

【健司がやられた】

そんな短いメッセージに込められた、いくつもの感情を波琉は読み取った。

雄一と健司は、実のところそこまで仲が良いわけではない。

硬派な健司と軟派な雄一。

頑固な健司と軽薄な雄一。

ここまで真逆な二人というのも珍しいほどの真逆。

まさに水と油だ。

その二人の間に、乳化剤として波琉が存在している。

三人は、わりといつも一緒にいた。

中学までは、ほぼ毎日一緒だった。

高校に上がってから、雄一は剣道に、健司は空手に熱中し、

なんとなく何にも没頭できない波琉は、

二人と疎遠になると思っていた。

――しかし、現実はそんなことはまるでなかった。

相変わらず三人は一緒にいる。

健司と雄一が喧嘩をして、波琉がそれを諌め、

最後は誰がアイスを奢るかで三人で揉める。

鴨宮高校の三大残念男子。

鴨宮の三馬鹿。

色々言われているが、三人は三人で互いを信頼している。

その一角の健司がやられた――

ともすれば、腸が煮えくり返っても仕方がない。

「クソッ……早まるなよ!」

スマホを操作し、雄一に連絡を取る。

五コール鳴らしても電話に出ない。

(行くとしたら……駅前のゲーセンか!)

急ぎ準備し、波琉は家を飛び出した


******



御影 雄一の話を少ししようと思う。

軽薄で、軟派で、ちゃらんぽらんで、適当。

三度の飯より女好き。

下は園児、上は還暦までいけると豪語する、生粋の女好き。

家庭環境は複雑で、両親は共に鬼籍に入っている。

預けられた祖父は厳格な剣道家で、軟弱な雄一を鍛えるために剣道を始めさせた。

剣の道に進んだからといって厳格になるわけでもなく、

ただ軽いまま剣の道を歩く。

――しかし、彼の本質は軽薄でも軟派でもない。

その本質は、“修羅の如き激情”。

波琉や健司の比にならない、燃え上がるような熱情を持っている。

波琉は一度、その本質を見たことがある。

雄一と波琉、そしてもう一人の近所の女の子が拾った猫を、

三人で隠れて飼っていた時の話だ。

近所の悪ガキにその存在がバレて、猫を連れ去られた事件があった。

大泣きする少女。

動かなければと思いつつも、心配をかけてはいけないと自縛する波琉。

その中で――雄一だけが動いた。

最悪の形で、だ。

まず主犯格の悪ガキをぶちのめした。

徹底的に。抵抗する気を起こさせないために、骨の髄まで恐怖を叩き込んだ。

その後、猫を助け出したが、悪ガキが兄貴だか近所の年上だかを連れてきた。

その相手も血祭りに上げ、二度と立ち向かえないように心を折りにいった。

その姿を女児が見て、

「ゆうちゃん、こわい」

の一言で、雄一が今まで通りに戻ったのも、さらに恐怖だっただろう。

雄一は“()()()()()()()()”。

そして、その外れていることを自覚しているからこそ、

軽薄な態度を崩さないのだ。


だから、故に危うい。

雄一は“自覚して蓋をしている”からこそ、自分でその蓋を外せてしまうのだ。

健司の容体がどうなっているのかは分からない。

けれど、大事にしている友人が傷つけられて――

へらへら笑っているタイプではない。

「頼むから……早まらないでくれよッ」

波琉は駅へと走りながら、メッセージアプリで雄一に電話を掛け続ける。

駅に着くまでに四、五回は掛けただろうか。

『しつこ! 波琉しつけぇ!!』

軽薄な態度のまま、雄一がやっと応答した。

「おま……いま……どこに……」

波琉は息も切れ切れ、ぜぇぜぇ言いながら応じる。

『安心しろよ、まだやってねぇよ。今、駅前のコンビニに居る』

「動くなよ! 今からそこまで行くから!」

『わぁーってるよ! そんな怒鳴るなって』

-いつもの軽いやり取り、だが波琉だけは気が付いている。

雄一はもうとっくにキレている。と


*****


(なんで自転車乗らなかったんだ俺…)

そう思ったのは駅について程なくしてからだった。

波琉の家から駅まで歩いて二十分程度、走ったら十五分程度だろうか?

自転車だったら十分あれば到着する。

しかもこんなにも疲れなくて済んだのに、だ。

肩で息をしながら、目当てのコンビニに辿り着く。

「お、波琉〜!こっちこっち」

のんびりと缶コーヒーを飲みながら雄一が待っていた。

その肩には剣袋を担いでいる。

顔は笑顔だが、雰囲気が剣呑この上ない。

剣袋も相まって知り合いでも話し掛けないだろう

「とりゃ!」

波琉は手刀を脳天に叩きつけた

掛け声の軽さに反比例して威力は中々である。

音がどんと響く

「っっっってぇな!なにすんだよ!」

「なにすんだはこっちのセリフだボケ!なに剣袋なんか持ち出してんだ!何しに行くつもりだったのか教えてくれないかな?ん?どうしたボケ!何真剣な表情してんだよ似合わねぇ」

一息で捲し立てる

「大体【健司がやられた】ってなんだよ!誰にどうやられたのか健司がどうなったのかちゃんと詳しく書けやボケ!!!」

波琉ははぁはぁと息を切らせ一気に言い切る

「おぉ…ノーブレスお見事」

勢いに若干引き気味の雄一が拍手をする

「で?健司はどうなってて雄一は誰がやったか見当付いてるんだろ?」

「おう、健司は昨日の夜に道場の帰りに角材で頭をやられたらしい。現在意識不明の重体。総合病院に緊急入院だそうだ。相手の見当は…まぁここにいるからわかってるだろ?」

「あの時のトカゲ野郎か」

――一瞬、三渡の顔が脳内に疾走る

「まぁ十中八九そうだろうな」

空になった缶をゴミ箱に捨て、雄一の目に仄暗い何かが灯る。

「正面からじゃ無理だからって不意打ちたぁ…許せんよな」

また剣呑な圧を出す

「とりゃ」

波琉のローキックが炸裂する。

パァンと結構な快音が響く

「ってぇな!……まぁ今のは俺が悪い。か?」

納得いかないと言う風に首を傾げる

「ちょっと落ち着けって状況の整理をしよう。

一つ、健司が襲撃された。

一つ、相手は背後から角材で殴りかかってきた

一つ、襲撃現場は…襲撃されたのはどこだ?」

波琉が指折り数え不足情報を補う

「駅前のゲーセン近くの裏路地らしい」

「裏路地?健司が?」

あの男が裏路地なんかに行くとは思えない。


強面で頑固だが、不良ではないあの男が?


「殴った後に裏路地に放り込んだとか?」


「健司を? あの大男を裏路地に放り込む?? 無理じゃねぇか?」


「周囲には引き摺った跡があったとか、なかったとか……?」


「どっちだよ」


言葉にして状況を整理し始めると、

雄一の爛々としていた眼が、通常時と同じ“気の抜けた風”に戻っていく。


(よし、落ち着かせることには成功したか……)


波琉は内心、胸を撫で下ろした。


このまま例の不良のところに殴り込みに行ったら、

雄一は相手を殺しかねない。


落ち着かせるには、話しかけ続けるしかないのだ。


(ドーベルマンの方がよっぽど優秀だよ、全く……)


「とりあえず、あの時代遅れヤンキーをブチのめして、

 健司に何をしたか聞くのが手っ取り早いんじゃねぇの?」


落ち着いてはいるが、言動はまだ物騒だ。

まぁ、先程よりはよっぽどマシだが。


「それで相手が知らなかったら、お前が暴行犯だぞ?

 っていうか、知ってても暴行犯だわ」


「じゃあどうすんだよ!」


「詰める。徹底的に」


波琉は嗤う。


雄一よりもよっぽど獰猛に、獲物を見つけた肉食獣のように、波琉は嗤う。


「おぉ……お前のほうがよっぽど物騒な気がするけどな」


「なぁに、ちょっと()()()()()だけだ」


******


観測者(ウォッチャー)への心的負担……180%ですか』


真っ白い空間で、女神が一人モニターに向かい合っている。


異能都市シブヤの風景が映し出されたそのモニターは、

まるで悲鳴を上げるように、いびつに歪んでいた。


『緊急停止で精神破壊の手前で遮断しましたが……

 今の観測者(ウォッチャー)は危険かもしれません』


ふぅ、と一息つく女神。


その横顔は無機質。

だが、モニターに映る少年を案じているような気配が、確かにあった。


『……観測者(ウォッチャー)の保護を優先。

 愛、お願いします』


女神の視線の先、モニターには――

竜胆 愛の姿が映っていた。


*******



「あれ? 宇都宮くんと……御影? くん……どうしたの?」


コンビニを出て、近くのゲーセンへ向かう途中の信号で、

竜胆 愛は目を丸くした。


妙に殺気立った同級生二人が歩いてきているのだ。


「え? 今、竜胆さん俺の名前に疑問符ついてなかった?」


「キ、キノセイダヨ」


明らかにうろ覚えだった愛の反応に、

波琉は咄嗟に目を逸らして否定する。


「え? ついてたよね疑問符! セリフの最後にハテナが見えたよ俺!」


「えっと……あはは」


「はい、可愛い無罪」


「お前はホントちょろいな」


雄一と波琉が漫才のようなやり取りを始め、

愛はニコニコとそれを見ていた。


いつの間にか、さっきまでの剣呑な雰囲気は霧散している。


「うん、やっぱり宇都宮くんはそっちの表情の方が似合ってる」


つい口に出してしまった――そんな風な愛の一言が、空気を変えた。


「え?」


「おっと、スウィートな話?」


波琉と雄一が、ほぼ同時に反応する。


雄一は色恋の匂いを嗅ぎつけて。

波琉は、その表情に“アイ”を見た。


「あ、違うの! さっきみたいな怖い雰囲気よりも、楽しそうにしてる方が似合うなって!」


慌てたように、愛はパタパタと手を振る。


「そ、そんなことより二人ともどこに行く予定だったの?」


話題を急転回させ、誤魔化しながらも尋ねる。


「え、あ、うん。まぁ……」


雄一は曖昧に濁す。


「実は昨晩、俺たちの友達が襲撃にあって……」


波琉は事実をそのまま話した。


「おい……」


「大丈夫。竜胆さんは大丈夫だよ」


波琉は確信めいて言う。


(もし“アイ”だったら、事情を話せば協力してくれる可能性すらある)


ある意味の賭けだった。

愛=アイの可能性に、波琉は賭けた。


「襲撃……? 警察は?」


返ってきたのは、最も普通の返答。


(竜胆さんはアイじゃ、ない……?)


「ちょっと危ないことは推奨しかねるかなぁ……」


ほんの少しの非難。

しかし、その次の愛の言葉に――二人は唖然とすることになる。


「あ、そっか。危なくなければいいのか……!

 よし、私も一緒に行くよ」


予想を遥かに上回る、“アイっぽさ”だった。

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