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【祝25万PV】転生式異世界武器物語 〜剣闘士に転生して武器に詳しくなるメソッド〜[月水金17:30更新・第二部完結済]  作者: 尾白景
上位闘士編

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27話 人狼を超える方程式

「……ふざけおって。陛下は剣闘士を使い捨ての駒としか考えておらんのか!」


 バンッ!


 興行師ダモンは、手にした羊皮紙を執務机に叩きつけ、怒髪天を衝く勢いで吐き捨てた。

 日頃は飄々とした勝負師であり、話題性を第一に考える彼が、ここまで怒りを露わにするのは珍しい。


 眉間に刻まれた深い皺と握りしめられた拳。それは明らかに、これから告げる内容の理不尽さに対する、ダモンさんなりの抗議なのだと思った。


「……すまんな、ヘリオン。ワシもいくつかのツテを使って掛け合ってはみたんだが⋯勅命の一点張りでな、これ以上はどうしようもない」


 ダモンさんは苦虫を噛み潰したような顔で、クシャクシャになった羊皮紙を俺の方へと押しやる。

 アステリオスとの死闘から、まだ三日しか経っていない。

 体の節々には痛みがまだ残っているというのに⋯⋯


「陛下のご指名だ。次は『騎兵戦』……それも、最高に派手で残酷な試合をお望みらしい」



 執務室の空気が鉛のように重く沈む。

 ダモンさんの沈痛な面持ちを見て、俺は悟った。

 これは、俺を処刑するための悪意ある試合なのだと。


「……勘弁してください。まさか、相手は……」


「ああ、お前の予想通りだ。『人狼のライカ』、昇格式で共に上位闘士入りした新鋭だ」


 その名を聞いた瞬間、胃の奥がキリキリといたんだ。脳裏に蘇るのは、かつての強烈なフラッシュバック。


 あれはまだ、俺が奴隷剣闘士だった頃の最終戦。

 月明かりの下、美しい女性闘士のライカが、獰猛な人狼ライカンスロープへと変貌したあの戦いだ。


 当時、俺は自分の作戦を『狼、ずっこけ大作戦』なんてふざけた名で呼んだが、実態はそんなコミカルなものではなかった。

 姉ちゃんから教わった「狂犬病(恐水病)」の知識を頼りに、水瓶までなんとか誘導し、短い鎖を即席の罠として足を引っ掛ける――言葉にすると単純だが、その実態は⋯⋯まさに地獄だった。


 はっきり言って、二度とやりたくない。


 鼻先数センチを鋭い爪が掠め、血生臭い巨大な狼の牙がガチガチと迫りくる恐怖。

 ヘリオンの超人的な反応速度がなければ、俺は無残に食い散らかされていただろう―――


(ライカには勝ったというか……生き残れただけだ。あれを、またやるのかよ……)


 脳裏に焼き付いたトラウマが、嫌な汗となって背中を伝った。

 今度の試合は「騎兵戦」だという。

 馬か……。

 だが、ライカを相手に真っ向勝負で勝てるのか?



「……少し、妙だな」


 俺の横で腕を組み、難しい顔をしていたザビア訓練士長が、沈黙を破るように呟いた。

 幾人もの剣闘士を育てあげた彼の言葉に、ダモンさんの怒号で荒れていた空気が一瞬にして張り詰める。


「妙とはどういうことだ、訓練士長。相手が人狼だからか? 確かに人狼の身体能力は脅威だが、馬上の戦いなら勝手も違うだろう。長物を使えば、賭けは成立せんか?」


 ダモンさんの指摘はもっともだ。

 だが、訓練士長は首を横に振った。


「いや、単純な『速さ』の話です。……おいヘリオン、ライカが本気で走った時、馬とどっちが速い?」


「え……?」


 唐突な問いに俺は記憶を探る。

 あの時、俺の背後から迫り、鼻先を掠めたあの速度。


「……悔しいですが、トップスピードならライカの方が速いでしょう。全速力の軍馬よりも」


「だろうな。聞いた話では、奴の瞬発力は獣そのものらしい」


 訓練士長は無精髭の浮いたアゴを摩りながら、鋭い眼光をさらに細めた。


「なら、解せんだろう? 自分より遅い『馬』に乗る意味があるのか? 奴にとって馬は足枷でしかないはずだ」


「あ……」


 皇帝が俺を排除しようとするなら、人狼の長所を潰す「騎兵戦」なんてやるか?


 いや、違う。

 アウグス帝はライカの戦い方を知っている。

 だからこそ、この形式を選んだはずだ。

 ならば騎兵戦は、ライカを弱くするための枷じゃない。

 むしろ―――



「おいヘリオン。何かわかったのか?」


 ザビア訓練士長が俺の顔を覗き込む。

 俺は、思いついた最悪の答えを、いつでも的確な助言をくれる訓練士長に向けて告げた。


「……『慣性の法則』ですよ、訓練士長」


「カンセイ……? 聞き慣れん言葉だな」


「全速力の時速60キロで走る馬。その背中の上から、さらに人狼の脚力で跳躍したらどうなると思います?」


 俺の問いかけに、ザビア訓練士長の目が大きく見開かれる。戦技の達人だからこそ、計算式や法則は知らなくても理解できたのだろう。


「……馬の速度を殺さず、己の速度を上乗せして突っ込んでくる……そういうことか」


「ええ。もし俺の考えが正しいなら、『突撃』以上の衝撃力になります。馬を発射台に使えば、ライカはさらに速度を得られる」


 速度の加算。

 馬が生み出した初速に、人狼の脚力がさらに積み上がる。

 馬上で加速しきった状態から、そこからさらなる速度で距離を詰められたら?


(……消えるぞ。視界から)

毎週、月・水・金の週3回17時30分投稿。

次回は7月20日(月曜)です。


お読みいただき、ありがとうございます。

気に入って頂けましたら評価★★★★★ブクマをお願いいたします。ランキングと作者のモチベーションが上昇いたします。

引き続き、『武器物語』をよろしくお願いいたします。

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