20話 姉の助言
「さて、それじゃあこいつを見てもらおう」
お説教が一段落したところで無事に新作のお披露目タイムである。現代日本人にも伝わるように言えば、それはまさに『死神の鎌』そのもの。
「よくもまぁ、手鎌でなく大鎌なんぞに目をつけたもんだ。カエサル将軍の破城の鎌みてぇに固定して使うのか?」
おっと?! この世界にも、あの『カエサル』が存在していた事が判明しましたよ?
「さすがに固定なんてしませんよ。イメージ通りにいけば上手く立ち回れるかと……」
鍛冶師長は「まぁいいけどよ、フンッ」と鼻息をつき、大鎌制作についての苦労話と自慢話が始まった。
「大鎌ってのは基本的に“ノコギリ刃”が多いんだが、試合で使いやすいように平刃に変えておいた」
チラッと向けられる視線が痛い。
鉄の鍛冶工房に青銅を持ち込んだ上、渡したのが農作業用のノコギリ刃だったからなぁ……思えば結構なやらかしだったなと反省する。
「クロネリア半島の北にノリクムという属州があってな、そこで取れる鉄の事を“ノリック鋼”と言う。こいつがとんでもなく硬い上に粘りまであってな……」
―――これは、姉ちゃんに叩き込まれた無駄知識が役に立ちそうだ。
§§§
「鉄の剣と鋼の剣の違い?」
あれは前世で有名だったRPGゲームのスピンオフ、鍛冶屋が主人公のゲームソフト『ト◯ネコの大冒険』をプレイ中、姉ちゃんにふとした疑問を尋ねた時の事だったと思う。
「鋼の剣の方が攻撃力が高いんだけど、鋼も鉄も一緒じゃないの?」
俺はリビングで胡座をかいてゲームをしながら、いつものように思いつきの素朴な疑問を投げかける。
すると、後ろのソファにくつろいで分厚い歴史だかの本を眺めていた姉ちゃんが、少し気だるそうに本を閉じて答えを返してくれる。
そう、これが我が家の日常風景。だったもの――――
「そうね。鋼は鉄の一種よ。鉄と鋼の違いを簡単に区別するとしたら、それは“炭素”の含有量の違い。それだけよ」
姉ちゃんはテーブルの上に置いた紅茶をクピリと一飲みして、こちらに身を乗り出してきた。どうやら語りたい内容だったらしい……ゲームを中断しないと、後々怒られそうだ。
「鋼っていうのは鉄を主体にした合金なの。鉄はそのままだと柔らかくて、炭素が増えると硬度が増す。ただし硬いというのは割れやすいという事でもある。つまりバランスが大事という事よ」
「ところで、伝説の金属オリハルコンも鋼なの?」
俺の新たな問いに姉ちゃんは天井を睨んで記憶を探り出す。しばらくの後、眼鏡を直して楽しげに微笑んだ。
「海中に沈んだ島アトランティスで産出されたとされる伝説の金属オリハルコンの事かしら。
あれはギリシャの哲学者プラトンが記述したのよ。そしてオリハルコンは“真鍮”の事だと言われているわ。つまり、答えは“NO”よ」
「伝説級という事なら有名な鋼をいくつか知っているから教えてあげる。“ダマスカス鋼”や“ノリック鋼”は産出地の成分によって、最初から鉄ではなく鋼だったのよね。
ダマスカス鋼は後から素材を足したらしいけど、現代の科学力でも再現できない最強の金属らしいわ。
ねぇ、オリハルコンよりよっぽど凄いと思わない?」
「オ、オリハルコンは最強の剣を作るのに必要なんだけど……」
俺がなんとか言い返すと、姉ちゃんの眼鏡が一瞬ギラッと光を放った……ように見えた。
「匠、あんたに良いことを教えてあげるわね。ご執心のオリハルコンだけど、その実際の使い道は“脛当て”と“イヤリング”で武器ではないのよ」
な、なんだってー!?
「え? ちょっと待って、姉ちゃん! それはどういう―――」
「いいこと? 匠。もしもあなたの大好きな空想小説のように、古代ローマ帝国かビザンツ帝国みたいな場所に飛ばされちゃうような事が、万が一にもあったとしたら……」
「あったとしたら?」
「オリハルコンなんていう空想の金属を探さずに、ダマスカス鋼かノリック鋼を探しなさい。いいわね?」
「なに訳のわからない事を言ってんだよ、姉ちゃん」
§§§
「なに、訳のわからない事を言ってんだよ……」
ノリック鋼ならここに――――
え? ええっ?! 姉ちゃん?!
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次回は7月03日(金曜)です。
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