12話 『始まりの巫女と竜の約束』
「はい、皆さんお静かに」
青空教師で子供達に神学を教える女教師ルドヴィカ・ロクスタ。
30代中頃、長身痩躯で少々神経質そうな容貌の彼女は、途中参加した二人の少女が座するのを辛抱強く待って、授業を再会する。
「これからお話するのは、クロネリアの建国と大神に仕える竜達にまつわる大切な物語よ。みんな、静かに聴いてくださいね」
ルドヴィカは丁寧に注意事項を伝えると、子供達を惹きつけるように重々しく、少々芝居がかった口調で語り始めた。
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『始まりの巫女と竜の約束』
クロネリア帝国がまだ、地上海に数多ある小国の一つだった頃のお話。
偉大なる古の七つ竜は大空を自由に飛び回り、地を駆け、海を泳ぎ回っていました。
その頃はまだ、竜と言葉を交わす人間はいなかったのです。
人々は大神と竜の奇跡を目にする事で自らも大きな力を得ようと努力し、竜に似た奇跡を少しだけ扱えるようになりました。
その努力は素晴らしいものでしたが、その先がいけません。
奇跡の力を扱う事ができるようになった人々は慢心し、自らを神と名乗るようになったのです。
東の国では大神の高みへと至ろうとした雲よりも高い塔を建てましたが、サンダー様の怒りに触れ、塔の何倍も太い雷を落とされて崩れ落ちました。
西の国では世界中の海を我が物のように支配する海上都市を作りましたがウォーター様は、
「海の幸は誰のものでもありません」と仰り、大津波を起こして都市を海中に沈めてしまいました。
帝国は、大きな塔を作る事も海を支配する事もありませんでしたが、人間の国を次々と配下に加え、地上海の大地全てを支配しようとしていました。
それを見かねて怒ったのはファイア様です。
国中の畑という畑が焼き尽くされましたが人々は反省するどころか怒り出し、百万の兵を連れてファイア様の討伐に向かったのです。
混乱を好むケイオス様は人々が怒る姿を喜び、人々に肩入れし、人間はケイオス様の眷属となりました。
ファイア様とケイオス様の争いは激しさを増し、兵が次々と死んでいきます。
その事を儚んだ心優しい帝国の巫女姫様は、涙を流して大神に訴えました。
「大神よ! なぜ竜の言葉が私には分からないのでしょう。どうか竜達と話し合う機会をお与えください」
巫女姫様の涙が余りにも美しく、心を動かされた大神は願いを聞き届けました。
巫女姫様の訴えを最初に聞いたのはレガシー様でした。知恵の象徴でもあるレガシー様はとても頭が良いのです。
「そなたの望み、人と竜の争いを止めるには代償が必要だ。そなたの高貴な涙は既に大神の物。他に差し出せるものはないか?」
巫女姫様は困り果てました。
なぜなら竜が欲しがる物など思いつかないからです。
思い詰めた巫女姫様は自らの命を差し出してしまいます。
「偉大なる竜レガシー様。ちっぽけな私の命と引き換えに、人と竜の争いを止める事はできるでしょうか?」
レガシー様は首をぐるりと回して答えました。
「そなたの気高い魂は尊いがそれだけでは足りぬ。そなたが輪廻を巡る度、永劫の時を我ら竜と共に在るならば、それを叶えよう」
なんてがめついのでしょう。
高貴な巫女姫様が命を差し出したというのに、レガシー様は永遠に仕えるよう要求してきたのです。
心優しい巫女姫様はレガシー様の要求に素敵な笑顔で応えました。
「私のようなちっぽけな者でよければ、命を差し出し、いつまでもお仕えいたします」
「望みには代償が必要だ。それを忘れてはならぬ」
レガシー様のお言葉を聞いた巫女姫様は、突然百万の軍勢の前に現れました。
そして、人々の目の前で短剣を自らの胸に刺してお亡くなりになったのです。
目を大きく開いてその様子を見た兵達は、争いを止めて皆が巫女姫様の死を悲しみました。
巫女姫様に刺さった短剣にレガシー様が音も無く留まり、皆の心に語りかけます。
「約定は成った。この者の魂と引き換えに、我が神力を以って人と竜の間に平和をもたらさん」
レガシー様は約束を守り、人々が兵を起こす寸前まで時を戻しました。
ファイア様は巫女姫様の行いに怒りを鎮め、人々は争いを止めましたが、巫女姫様の姿は何処にもありません。
巫女姫様のいらっしゃった神殿には血のついた短剣だけが残されました。
巫女姫様の献身を悟った七人の巫女見習いは同じ悲劇を繰り返さないよう、竜の声を聞き、竜に仕える事にしたのです。
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子供達は算数の授業とは打って変わって真剣な面持ちで、ルドヴィカの物語を夢中になって最後まで聴き終えた。
「巫女姫さま……かわいそう」
「うちにお札が貼ってあるけどファイア様って悪いやつだったんだな!」
「せんせー、私、バース様のお話が聞きたい」
口々に感想を述べる子供達を優しく諭し、ルドヴィカは授業の終わりを宣言する。
「皆さん、とてもお行儀よく聞けましたね。本日の授業はここまでにしましょう」
「せんせー、ありがとうございました」
「ルドヴィカせんせー、また明日」
三々五々帰り始める生徒たちを見送る中、ルドヴィカは二人の少女に近寄り、声をかけた。
「あなた達、少し話をしていかない?」
毎週、月・水・金の週3回17時30分投稿。
次回は6月15日(月曜)です。
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