07話 再開
ゴズウェルとダモンさん、三年ぶりになる老人同士の再会はなかなかに大変だった。
「ゴズウェルナス、なぜワシを……ワシを頼らなかった。グズっ……ひどい! お前は本当にひどい男だ!」
「い、忙しくてな……すまん」
「すまんの一言で片付くものか! どれだけ心配したと思っている! ううっ……グズっ」
マッチョで傷だらけのゴズウェルに張り付いて離れない、恰幅のいいムチムチのダモンさんが男泣きで縋り付くという、汗臭い愁嘆場はさすがに見ていられなくて、トリトスさんと二人でそっと廊下に逃げ出した。
ぜひとも二人きりで三年分語り合ってほしい。
管理棟二階の渡り廊下にもたれかかり、トリトスさんと互いに笑顔を交わして、脱出の成功を称え合う。
あの場に残っていたら一晩中拘束されていたに違いない。
「それで、ゴズウェル様の稽古で“魔法”のコツは掴めましたか?」
「いやぁ、今日はひたすらやられてました。明日から数日間みっちり鍛えてくれるそうなので、そこでなんとか形にしたいと思います」
「私も何度か大闘技場で上位闘士の試合を見た事があるのですが、あれはもう“別物”でした。
奇跡の応酬とでも言えばいいのか……不遜かもしれませんが、神々の争いを観覧しているような気分でしたよ」
その時の光景を思い浮かべているのだろう。
トリトスさんが、うっとりとした表情で空を見つめていた。
訓練所の経理を担当しているせいか、金勘定の話ばかり聞いているせいで経営の事しか頭にない人だと思っていたが、どうやら彼にとって上位闘士や魔法は憧れのようだった。
神々の争いとはまた、もの凄い表現だが“その争い”に俺が混ざるのか……
今までにも何度か魔法を使った事はあるが、自然の法則を書き換えた際にドッと疲労感が押し寄せたのを覚えている。
計算ドリルをひたすら解き続けるとか、役所に提出する書類を何枚も記入した後のようにグッタリして、目の奥と首の後ろを揉みたくて仕方なかった。
そうそう、甘い物も欲しくなるんだよね。
「そういえばヘリオンさんは、ウォーター様の神秘の鍵をお持ちでしたね。魔獣戦では雷が落ちたように見えたのですが、使うのは水の魔法なのですか?」
トリトスさんは純粋な子供のようにワクワクしながら質問してくるが、魔法を使う者には『arcana』という厳しい守秘義務が課せられている。
上司とはいえ、果たしてペラペラ喋っていいものか……
「鍵を使うのは明日が初めてなので、そこでゴズウェルから詳しく教えてもらえると思います」
「私も同席したいのですが、魔法の訓練については見学さえ厳しく制限されているのです。あぁっ……なんて残念なんだ! 私も見学したいのに!」
トリトスさんの整った顔が悔しげにゆがむ。
申し訳ないが、こればっかりは領分があるから仕方ない。
核心に触れないよう気をつけながら、しばらく当たり障りのない魔法談義をしていると、執務室からダモンさんとゴズウェルの二人が意気揚々と出てきた。
ようやく、一息ついたらしい。
「待たせたな、ヘリオン。さっそく魔法の訓練に行くぞ!」
「上位闘士になる以上、魔法の訓練は必須だ。ゴズウェルナスの話をよく聞いてな! 頼んだぞヘリオン!」
意気軒昂! 元気いっぱいに唐突で自分勝手な事を言いだす年寄り二人。
ゴズウェルとダモンさんの息がぴったりだ。
さすがは長く連れ添った筆頭剣闘士と興行師、このお爺さん二人を混ぜるのは危険な予感しかしない……
「行くって、どこに行くんです? 訓練はここでやるんじゃ?」
「そうだな。稀な事だが、お前はサンダーの適正を持ちながら、ウォーターの神秘の鍵を持っとる。
ならばお前が修行する場所なんぞ、一つしかないわ。
神聖なるテヴェレ川のほとりに建つ、ウォーターを祀りし由緒正しき聖域“ポルトゥヌス神殿”よ!」
テヴェレ川というのはクロネリア市を縦断する大きな川で、聖なる川として尊ばれている。
川幅は60メートルほど。
「ここから西に10キロほどか。なに、たいした距離ではない」
クロネリア市内の移動は徒歩である。
10キロはたいした距離だと思いますよ?
市内で済ませられるだけマシなんだろうけど。
今から移動して訓練という事は、数日間は帰してもらえないかもしれない。
とりあえずトリトスさんに泣きついて、オドリーにしばらく帰れないかもしれないという手紙を伝書鳩で送ってもらう。
こうして俺は、ゴズウェルに引きずられるようにして、訓練所をあとにした。
毎週、月・水・金の週3回17時30分投稿。
次回は6月03日(水曜)です。
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