53話 嘘発見器
「余は元老院議員だぞ!やめろ!手を……手をいれるな!」
「議員、教えてくださいな。コピルの町でリヴィアス様が反乱を煽る演説をなさっていたのを見たというのは本当ですか?」
シャチ像の口に手を無理やり突っ込まれて、脂汗を流しながら半泣きで拒むアウロ議員と、これ以上ないほど真剣な面持ちで詰め寄るパティア。
アウロの後ろで彼を抑えつける俺だけが、この光景をシュールなものに感じていた。
「ほ、本当だとも! コピルでリヴィアスが演説をしているのを余は目撃したのだ」
パティアの質問を聞いて、落ち着きを取り戻したアウロ議員。
彼の宣誓に反応したのだろう。
ウォーター像の目がピカリと青く灯る。
(嘘発見器かよ!)
想像していたよりも神具の反応が安っぽい事に拍子抜けしたが、どうやら事実のようだ。
リヴィアスがコピルの町で演説をしていたのはクリニアス監察官の友人からも裏が取れている。
質問はあと二回しかできない。
どんな質問をすればアウロの奴がリヴィアスを嵌めたと証明できる?
自分でも悩みながら不安な面持ちでパティアを見やると、パティアは俺を安心させるように柔らかな視線を向けてくれた。
「では議員、質問を変えますね。リヴィアス様を煽動の首謀者とするこの企み、シディウス伯はご存じなのかしら。アウロ議員は存じていて?」
パティアはパルテナスの大使として毅然に、大貴族の子女らしく優雅に、余裕の微笑みを浮かべて議員に痛恨の問いを投げかけた。
「こ、こんな質問があるものか!余とはなんの関わりもないではないか!」
思いも寄らない質問に目を丸くして激しく動揺するアウロ。
「関わりがないのならば良いではありませんか。知らぬと……」
顔を真っ赤にして爆発寸前のアウロと、冷気さえ漂わせて相手を凍りつかせるような冷たい視線を向けるパティア。
真っ向から対峙する睨み合いで、先に目を逸らしたのはアウロだ。
「知らぬとは……ゆ、言うて、おらぬ……」
今にも消え入りそうな小声でアウロは呟いた。
「元老院議員、宣誓を!」
ギリギリと奥歯を砕かんばかりに噛み締めてアウロは血を吐くように吐き出す。
「伯はご存じな……うぐっ!」
そう言いかけた瞬間、ウォーター像の目がじわりと赤い光を宿し、像の口に添えた右の手首に見えないギザギザの歯がゆっくりと突き刺さっていくのを幻視する。
(これは嘘だ!嘘発見器本当に凄いな……)
「待て! 待ってくれ! 余の勘違いであった。伯は…伯はこの企みをご存じだ」
アウロが真実の宣誓を行った途端、手首を噛みちぎろうとしていた歯の気配は掻き消え、像の目がピカリと青い光を放った。
それにしても凄いのはパティアの手腕だ。
俺には全く思いつかない質問だった。
その効果は絶大で、裁判でこの発言が成されれば、アウロ議員の政治生命は一発で終わるだろう。
パティアはリヴィアス逮捕によって大きな被害を被った一人だ。
彼女は介入できるたった一度のこの機会を逃さず、腕力でも権力でもなく、知性を使ってアウロ議員への復讐を自らの手で果たした。
(パティアは大金持ちで権力もあって、容姿端麗な上に頭が良い。おまけに度胸まで座っている……スペック高すぎだろ)
「では、最後の質問を致します。シディウス伯もご承知されているコピルでの企み、リヴィアス様に事実無根の罪を着せたのは、アウロ議員貴方で間違いなくて?」
確信に迫るパティアの質問だったが、先ほどの質問で心が折れたのだろう。アウロ議員は投げやりな態度で億劫そうに肯定した。
「そうだ。余がリヴィアスを嵌めた。これでよいか……」
アウロの返答に反応して、嘘発見器ことウォーター像が目に青い光を灯す。
力を失い、がっくりと肩を落とすアウロ議員。
疲労の原因は失意だけでなく、神具の過剰使用にもありそうだ。
「感謝致しますわ。アウロ議員。伯が計画をご存じの事と、首謀者が貴方である事。
そこに関係性は無いのですけれど、ご自分から白状していただけるとは思いもしませんでした」
花が咲いたような笑顔を見せるパティアだが、その花にあるトゲは鋭利だ。
「んなっ! ……きっ、貴様! 余を謀ったな!」
驚愕に身を震わせ、唾を飛ばして絶叫するアウロ。対して言質を取ったパティアは涼しげだ。
「私のような小娘が老獪な元老院議員を騙すなど、どうしてできましょう。そうは思いませんか、ヘリオン様?」
「あ、ああ……」
笑顔が怖いよ。
怖すぎて生返事になってしまった……
パティアを怒らせるのは絶対にやめようと俺は心に固く誓う。
まさか、三つの質問だけで自白までさせてしまうとは思わなかった。
一つ目で事実を確認し、二つ目でアウロの首根を押さえて心を折り、三つ目でごく自然に自白を促した。
(もしも俺が質問していたら、どんな魔法を使ったのか? とか、リヴィアスは本当にコピルに居たのか? とか、裁判で役に立たない内容ばかり聞いていただろうなぁ……)
そんな自嘲に浸っていたせいかもしれない。
パティアが自白を引き出した事で仕事を終えた気になっていた俺の腕から、アウロが強引に抜け出した。
上位者の関与を肯定してしまったアウロは自暴自棄になったのか、その目には狂気が宿っている。
うっかり解放してしまったが荒事でヘリオンが引けを取るなどあり得ない。
ここでの最悪は、議員を取り逃して雲隠れされてしまう事。
そう見定めてタックルで転ばせようと考えていたところで、アウロ議員の左手から怪しい紫の光が溢れだす。
「これは、リヴィアスと同じ魔法の指輪!」
しまった。こいつは、議員で貴族だった。
貴族なら魔法の指輪を持っていてもおかしくない。
俺が叫んで周囲に注意を促すと同時に、アウロの口から呪いの言葉が紡がれる。
「こうなった以上は裁判などさせぬ! 余の言葉を届けよ! ansuz!」
魔法の発動を知って慌てて飛びかかり、議員を絨毯の上にぐいと押し付けるが、地獄の底から漏れ出すようにアウロの言葉は止まらない。
「よいか! 今すぐにリヴィアスを殺せ! 今すぐにだ!」
毎週、月・水・金の週3回17時30分投稿。
次回は4月15日(水曜)です。
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