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終わりと始まりは突然に  作者: 水無月 真珠
ガラク皇国編
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始まりの咆哮

 ほんの少し日が差し始めたことに合わせて、私達は山を登り始めた。


 山道らしいものはあるけれど舗装されているわけもなく、荒れていて更には中々に急である。


 これはさくやさんだけでなく、私達でも苦戦しそうだ。

 そもそも私達も山道は慣れていないのだ。


「ここは魔物が比較的少ない山なんです。と言っても、雅楽大狼(がらくおおおおかみ)なんかは出るときは出るんですけどね……」


 そう話しているともえさんも、中々に辛そうだ。


 鍛えられているともえさんやしらゆきさん、ここまで旅をしてきた体力のある私達でさえ中々にきつい山道。

 当然ながらさくやさんはもう肩で息をしていた。


 話す余裕もなく黙々と歩いていると、水の流れる音が聞こえてきた。


「少し……休んで行きましょうか……」


 さくやさんの状態を鑑みて、ともえさんが休憩を提案する。


「私の……事なら……気にしないでください。追手がかかっているかもしれないのに、私のせいでゆっくりする訳には……」


「ここまで来たのなら、追手もそう簡単に来れません。流石にこのまま休まず行くのは私でも辛いです」


「そう……なんですか?」


「さくや様、私も休憩したいです」


「しらゆきもなの?」


「そうじゃな。中々に大変な道じゃ。妾も少し休みたいのう」


 サフィーアも少し胸元をパタパタとさせている。


「そう言えば、しらゆきさんもさくやさんも共通語で話してくれていますよね?」


 ルーリがお茶を二人に配りながら話をする。


 そうだったの……?

 私は誰がガラク語を話しているのか、共通語を話しているのかはさっぱりわからない。

 全部日本語に聞こえちゃうからだ。


「はい! いつかフラストハルン王国やハルモニカ王国、オルケストゥーラ王国と言った国々に私自身が赴きたいと思っていたんです。そのためにはまずは語学からだと思い、勉強してきました。しらゆきは私の勉強に付き合ってもらっていたんです」


「そうですね。私はさくや様の護衛なので、その内他国に行くこともあるだろうと思い、いい機会なので一緒に勉強させてもらっていました」


「さくやよ。お前さんが第一皇女なのは分かったが、国王……この国では何と言うか知らんが、お前さんの父君や母君はどうしておるのじゃ?」


「……この国では他国で言う国王を、天皇と呼びます。母はとうやを生んだ後に、産後の肥立ちが悪く亡くなってしまいました。父も少し前から病床に臥せっていまして、もうほとんど目を覚ましていません。もう長くはないと思います」


「それで後継者問題が浮き彫りになったんだ?」


「父は後継を示しておりませんでしたから……」


「そうだったんだ……」


「そのせいで後継問題が浮き彫りになってしまったんだと思います。まさかとうやが私を殺してまで天皇になりたいとは思ってもみませんでしたが……」


 悲しそうな笑みを浮かべるさくやさん。


「譲ろうとは?」


「……皆さんに助けられた直後なら、譲る以前に投げ出そうとしたと思います。たぶんそうなったら、私は何処かで殺されているのでしょうけれど。ですが皆さんに助けられ、ゆっくり考える時間を頂けました。私はこの国を再び戦乱の世にしたくはないと、はっきり思いました。やっぱり平和が一番です。皆さんと共に食事をし、話をし、その平穏な時間が大事なのだと……そう思ったのです」


「そっか。さくやは強いね」


「いえ、そう思ったってだけです。具体的にどうすればいいかなんて、さっぱりわかりません」


「お、ぶっちゃけたね?」


「情けない姿は、漏らしてしまった時点で見られていますから。お漏らしをすることに比べればこれくらい……。うふ……ふふふ……うー……あー……」


 リステルに剣を突きつけられた恐怖でお漏らしをした時の事を想い出したのだろう。

 それまで胸を張って話していたさくやさんが、少しずつ顔が赤くなったかと思うと、小さく呻きながら手で顔を押さえて蹲ってしまった。


 昨日の夜にまとめて作っておいたいも餅を食べ、そこそこ疲労がとれたので私達は再び山道を登る。


「ここからは休める場所がないので、一気に行きますね」


「は、はいっ!」


 さくやさんがぐっと手を握り、気合を入れている。


 再び無言で山登り。


 時折、ガサガサっと草むらから聞こえてくることがある。


「大丈夫。野兎」


 すぐに正体に気づいたハルルが私達に警戒を解くように言う。


「さくやさま、大丈夫ですか?」


「はあ……はあ……。ええ、大丈夫よしらゆき」


 魔物や追手を警戒しながらこの険しい山道を歩かなくてはいけない。

 慣れていないさくやさんは流石に辛そうだけれど、弱音を吐くことは一切していない。


 空が紅く染まりきる少し前、


「もうすぐです。陽が落ちきる前には到着できそうです」


 ともえさんの言う通り山道を抜けると、そこは小さな集落があった。


 畑を通り過ぎる時に幾人かの人が、私達を遠巻きに見ていた。

 その表情はどれも険しい。


「あんまり歓迎されてるわけじゃないみたいね……」


 いつ襲われてもいいように、私達は警戒を密にする。


「止まれ。よその国の人間が何故ここを知っている! この隠れ里に何用か!」


 私達の正面に五人の男性が武器を持って現れ、そう怒鳴る。

 その男性は人とは思えない程の巨躯で少し毛深かく、頭には少し丸っこい耳が付いていた。

 熊の亜人だろうか?


『待って! そてつさん私! しらゆきよ!』


 私達の前に躍り出るしらゆきさん。


『……は? しらゆき? 何でそんな恰好をしてるんだ? 誰かわからんかったじゃないか。そっちは……静のともえか。なんだ二人がここに案内したのか? すまんな、急に見たことのない衣装の人間が現れたから警戒しちまった』


 それまでの険しい表情とは打って変わり、優しい表情に変わるそてつさん。


『ちょっと待ってて……「あーこっちで喋った方が良いか。長の所に案内するから、ついて来てもらっていいかい?」


 声が先ほどの怖い感じから、何とも朗らかな声に変わっている。


「それはいいんだけど、そてつさんちょっと休めないかしら?」


「ああ、そうだな! 空き家があるからそっちに案内しよう。『たびら、悪いけど長を呼んできてくれ』


『ほいさ。それではまた後程』


 たびらと呼ばれた男性は軽く会釈をすると、小走りに駆けだしていった。


「みんな疲れたんじゃないか? 俺達でもあの山道はしんどいからなー」


「あの、そてつさん」


「ん? どうした?」


「しらゆき」


 何かを聞こうとしたしらゆきさんを、ともえさんが制止する。


「――。この衣装、どうですか? こちらのメノウさんって方が貸してくださったんですけど、ハルモニカ王国の衣装なんだそうです」


 何かを察したしらゆきさんは、そてつさんの前に出てくるりと回って衣装を見せる。


「いや、めんこいもんだ。さっきも言ったけどよ。しらゆきって気づかんかったからなー。よければ後で女衆に見せてやってくれ。ここは中々下界と行き来がないから、流行りとか娯楽に飢えてるんだ」


「いいですよ!」


 しばらく集落の中を歩き、案内された家屋に入ると、すぐさまそてつさんは囲炉裏の準備をしてくれた。


「温まるまでちょっと待ってなー。すぐに長も来ると思うから。そう言えばお前さん達は、ガラクにどうして来たんだい?」


「私達はオルケストゥーラ王国へ行くためにガラクに来たんです」


「なるほどなー。で、ともえが案内役ってわけかい? なんでなんもないこの集落に来たんだい?」


「そうですね。皇都で偶然お休みを貰っていたしらゆきと会いまして、ここに寄ると言うので私も長と話したいことがありまして、ついでに寄らしてもらったんです」


「ほー。理由はわかったが、客人をこんな所へ連れてくるんじゃないよ。大変だっただろう?」


 苦笑して、私達の方を見るそてつさん、


「そうですね。流石に疲れちゃいました」


「すまんね、こんな何にもない所で。何日かいるのかい?」


 私達はともえさんを見る。


「はい、何日かは滞在したいと思っています」


「そしたら今日はゆっくり休んで、また明日にでも頂上へ向かうと良いよ。途中に崖があるんだけれど、そこから見える大きな滝は絶景だからね。そこでお弁当を食べたりするのが良いよ。滝が見える崖までは、ここまでと違って大変じゃないからね」


「そうしてみます。ありがとうございます」


 そてつさんは何とも楽しそうに話をしてくれる。

 ハルルがあまり警戒をしていない所を見るに、本心から話してくれていると思いたい。


 だけど裏の顔があるとわかっている以上、どうしても下手に勘ぐってしまう。


 そてつさんと話してしばらくすると、扉がノックされる。


『おーいそてつー。長連れて来たぞー』


「どうやら長が着いたようだね」


 そてつさんは扉を開き、外にいる人達を迎え入れた。


「やあやあ、遠路遥々こんな小さな集落へようこそ、異国からのお客人。しらゆきもともえも、元気そうで何よりだよ」


 入って来たのは小柄で優し気なお婆ちゃんだった。


「長、お久しぶりです……。あのっ!」


「わかってるよ『そてつ、たびら。みんなを連れてこの人達に振舞う食べ物を用意しておいで』


 しらゆきさんが話そうとするも、それを長さんは遮って男性達に指示を出す。


『わかった』

『んじゃ行ってくる』


 そてつさんとたびらさんは、扉の外で待機していた人達を引き連れて去って行った。


「さて。こっちの言葉で話した方が、わかるやつも少ないね。さくや様、よくご無事で……」


 長さんが突然片膝をついて、頭を下げる。

 それまで疲れでウトウトしていたさくやさんが、ビクッとして姿勢を正す。


「はっはい! しらゆきとともえ、それと皆さんに助けられて何とか生き延びることが出来ました」


「そうですか。他国の方を巻き込んだんだねともえ……」


「……色々な偶然が重なった結果、巻き込ませてもらいました。結果、私達三人共に生き残れました。皆さんがいなかったら、私もしらゆきもさくや様も命はありませんでした」


「そうだったのかい……。そこまで苛烈だったのかい。すまないね。関係ない他国の問題に巻き込んじまって……」


「いえ……」


 気にしてませんなんて軽々しく言える訳もなく、私達は苦笑してごまかすしかなかった。


「……この村の人間に、さくや様だとは気づかれたのかい?」


「恐らくは大丈夫かと。一番近くで私達を見たそてつさんが、誰かわかっていないようでしたから。知らせないで正解でしたか?」


「お前が一番わかっているだろう、ともえ。ウチは暗殺や強襲が得意な霞だよ? 荒事専門に、諜報のあれこれを聞くんじゃないよ。情報は誰にも与えないのが鉄則だろうに。それが味方だったとしてもだ」


「そうですね。知らなければ捕まって拷問にかけられたとしても、情報は洩れませんからね。……霞は一枚岩なんですか?」


「そうだと思いたいけどねぇ。なんだかんだ不満を持っている者は霞にもいるよ」


 長さんの言葉に私達とさくやさんは身構える。


「ほっほっほ。この集落の人間は私も含め、皆さくや様のお考えに賛同している。安心しておくれ」


「あのっ!」


 それまで黙って聞いているだけだったさくやさんが声を上げる。


「私は……どうすればいいんでしょうか?」


「……逃げてください」


「えっ!?」


「さくや様、この者達と共に他国へお逃げなさい」


 さくやさんの問いに、悲しそうにそう答える長さん。

 ともえさんもさくやさんも、辛そうに俯くが反対をしない。


「皆さん。巻き込んでしまった側の人間がこんなことを言うのはおこがましい事だとわかっています。この三人を連れて、オルケストゥーラ王国へ逃がしてください。御願いします……」


 長さんが私達の方へと向き直り、深々と頭を下げる。


「まってください長! それではこの国はどうなるんですかっ! とうやはこの国を戦の国へと変えようとしているのですよ!? それでもいいのですかっ!?」


「……さくや様にとうや様の命を、あなたに立ち塞がる者たちの命を、奪う覚悟があるのですか?」


 それまで穏やかに話していた長さんから、鋭い威圧感が放たれる。


「――っ」


 長さんの威圧感と話の内容に、さくやさんは声を詰まらせる。


「……この国の平和のためならば、今一度私は血濡れの皇になりましょう……」


「!」


 そう言い切ったさくやさんの言葉を、長さんは眼を見開いて驚いていた。


「ですが、私には戦う力はありません。言ったわりに、どうすればいいか……わからないんですけどね……」


「……」


 照れ隠しなのか、えへへとごまかす様なさくやさんを長さんはしばらくじっと見つめ、


「……いつの間にかお強くなられましたな。ならば、我々霞はさくや様に従いましょう。御命じください。とうやと、それに組するものを全て討てと」


「長……。ですが、霞の皆さんは平穏な日々を望んでいたのではないのですか? 私に手を貸すという事は、桜花衆同士で殺し合うことになりますよ?」


「そうですねえ。全員と言うわけにはいかないでしょう。戦いたくないと言う者もおりますでしょう。ですが、このままこの事態を見過ごせば、どの道平和でいられなくなる。ならば、平和を勝ち取るために戦うしかありますまい?」


「そうですね」


「どうするかの話は、また明日にでもいたしましょう。今日はゆっくりとお休みください」


「ありがとうございます」


「異国から来た皆さん。関係のない皆さんにこんな事を頼むのは心苦しいのですが、さくや様をどうか守ってあげてください」


 長さんが私達に向かって深く頭を下げる。

 私達はお互いの顔を見て苦笑する。


「そうですね。これも何かのご縁だと思います。できることは精一杯やらせてもらいます」


「ありがとうございます」


 再度お辞儀をすると、長さんは建物から出て行った。

 それと入れ替わるようにして、そてつさんが大荷物を抱えて再びやって来た。


「話しは終わったみたいだね。食材はあるんだが、調理はどうしたいか聞きに来たんだ。かなり疲れてるだろうし、無理ならこっちで調理するけど……」


「見せてもらっていいですか?」


「ほれよー」


 そてつさんが背負っていたとんでもなく大きな籠には、沢山の野菜ときのこ、竹の皮に包まれたお肉が入れられていた。


「沢山持ってきてくださったんですね。あの、これは何のお肉です?」


「ああ、猪だよ。今年は野菜も米も大豊作だったんだけど、それを狙った猪も豊猟だったよ。このままだと野菜も肉も駄目になるからなー。これだけ持ってきても、まだまだ余っちゃうんだ」


「あ! もしよろしければ、余りそうな分を売っていただけませんか? 私達、手持ちの食料がもうほとんどなくて」


「お、金で買ってくれるのかい? それは嬉しいな! ここは交換ばっかりで金を持ってるやつがあんまりいなんだ。金があると皇都に行って買い物ができるからなー。みんな喜ぶよ。……あーでも、女が持ち運ぶにはちょっと無理な量だぞー?」


「見ててくださいね」


「え?」


 私はそてつさんが持っていた、ドラム缶ぐらいの大きさがある竹籠を、空間収納の中にしまう。


「おっ!? おおっ!? どうなってんだい? 妖術……じゃないよな? こんな妖術は聞いたことない」


「空間収納と呼ばれている魔法ですね」


「ほお! これが魔法か! 随分便利だなー」


「はい! この魔法のおかげで、私達は山ほど荷物を運べるんです」


「ようし分かった! 明日にでも買い付けに行こう! みんな喜ぶぞー! とと、で? 調理はどうする?」


 喜んでいたそてつさんは、話が脱線していたことを思い出したようで、照れくさそうに頭をかいていた。


「私が調理しますので大丈夫です!」


「そうか! 足りないもんがあったら気軽に言ってくれ。俺はここからすぐの所にある、他よりちょっと大きい家にいるからよ」


「何から何までありがとうございます。あっそうだ」


 私は金貨一枚を取りだし、そてつさんに渡す。


「金貨はいくら何でも貰いすぎだぞ? 嬢ちゃん」


「相場がわからないのもありますし、宿に食材にと色々していただいたので」


「んー、よし! ありがたく頂いておくとしよう。ありがとな嬢ちゃん」


「はい、また明日もよろしくお願いしますね」


「んじゃゆっくりなー」


 嬉しそうにしてそてつさんは去って行った。



「お姉ちゃん!」


「どうしたのハルル?」


 ハルルが大きな声をあげて、立ち上がっている。

 一瞬何かあったのかと警戒したけれど、


「お腹すいた!!!!!」


 少しずっこけそうになった。


「瑪瑙、私もお腹すいた……」


 リステルはお腹を押さえてぐったりしている。


 ここまで強行軍できたのだ。

 それも、少ない食材をやりくりして。


 私だってお腹が空いている。

 ともえさんもしらゆきさんもさくやさんも、小さく手を挙げていた。


 昔の日本にある様な調理場で少し四苦八苦したけれど、無事に牡丹鍋の完成!

 ご飯も沢山炊いてあるので、お腹いっぱい食べられる!


「瑪瑙なんかご機嫌だね? 疲れてないの?」


「えー? そりゃーもう足も腰もガックガクだよ? でもね、一度でいいからこの囲炉裏でお鍋を囲みたかったの―!」


 流石にお魚は無かったからできないけど、あったら魚の塩焼きを囲炉裏で焼いたりもしてみたい。


「ほう? お前さんの所でもこの囲炉裏とやらはあったのか」


「うん! でもむかーしの建物とか、そう言った昔の暮らしをモチーフにした所じゃないと滅多にないねー」


 皆にご飯と、お椀に牡丹鍋をよそって配る。


「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」


 いつもなら少し賑やかな食事の時間になるんだけど、流石に今日は貪るようにみんな食べていた。


「お肉美味しかった! 脂が甘かったー」


「ね! 猪の肉って臭いって聞いたことあったんだけど、すっごく美味しかった!」


「メノウさんの調理の腕が良いって言うのが大きいと思いますよ」


「ありがとうございます」


「スープがもったいない」


 お腹いっぱい食べたはずのハルルは、お鍋に残った出汁をじぃっと見ていた。


「大丈夫。明日の朝はこれを使って雑炊を作ります」


 当然、こんな旨味沢山の出汁を捨てるわけがないのよ!


「おー! ……」


「明日の朝ね? 今日はもう食べたでしょ?」


「……ん」


 ハルルが私の目を物欲しげに見るので、心を鬼にして却下する。


 もう日はとっくに沈み、外は真っ暗。

 ポツポツと家の灯りはあるけれど、街灯の類は全くない。


 ルーリの洗浄の魔法でさっぱりして、みんな泥のように眠るのだった。




『はぁ……はぁ……。相変わらずここに来るのは辛いなっくそっ! 今から帰りの事を考えると億劫で仕方ねえ』


 里の入り口に、何やら息を切らして悪態をついている男が見えた。


 俺はすぐに近づき、農具を構えて怒鳴りつける。


『おいお前! この里に何用だ!』


 仲間を集めるように一人に指示を出し、俺ともう一人とで足止めをする。


『おー! 俺だー! たびらのおっちゃん!』


『は? お前うつぎか? 久しぶりだな! 田舎は嫌いだって言って、他の隠れ里にも顔を出してないそうじゃないか!』


 そこにいたのは同胞である霞の若者、うつぎだった。


『ちょっと色々あって、ここに顔を出す羽目になっちゃってよー』


『はっ! 喧嘩っ早いお前の事だ。何か問題を起こして謹慎でも言い渡されたんだろ? 力を無闇にひけらかそうとするからそうなるんだ。しっかり頭を冷やせよ?』


『へいへい。っとそうだ!』


『なんだ?』


『しらゆき来てないか?』


『しらゆきか? おお、来てるぞ! 異国の客人と一緒に異国の服を着てたな。なんだ? しらゆきに用事でもあるのか?』


『……まだ村にいるのか?』


『ああいるぞ? 今は長と何か話してるんじゃなかったかな?』


『……そうか。はっ! ははは……! はっはっはっはっは!』


 今までのんびりと世間話をしていると思っていたうつぎの目が釣りあがり、高笑いを始めた。


『――お前! この里に来た本当の目的は何だ!』


 突然態度を豹変させたことで、ようやく何かが起こっていると分かった。


『さあ! 俺達の戦の!』


 うつぎは頭上高くに何か黒い物を放り投げた。


 パァァァァァン!!!!


『始まりだああああああああああ!!!!!!』


 それは赤い煙を上げ、高い破裂音を響き渡らせた。


『おい! お前は長の元へ行け! 俺はこいつを捕まえる!』


『おう!』


 一緒にいた一人に急ぎ指示を出した瞬間。


『がっ!?』


 木々の合間から突然現れた黒づくめが、指示を出した同胞の首を刀で突いていた。


 続々と黒ずくめの者が里へと侵入してくる。

 その数は……五十を超えているように感じる。


『うつぎお前! 同胞を売ったのか!?』


 あれは静かと墨染の衣装だ。


『知らねえ知らねえ! 俺はぶっ殺したいだけなんだ!』


 大上段から刀を振り下ろされるが、鍬の金具部分で何とか弾く。


『いつの間に寝返った!』


『最初からだんなもん!』


 あちらは刀、こちらは鍬。

 武器ではこちらが圧倒的に不利。


 そうじゃなくても、村の中に黒づくめの連中がどんどん入っている。

 止めなくては!

 誰かに知らさなければ!


『よそ見している余裕なんてないだろう!!! おらあああ!!!』


『くっ!』


 刀で鍬の柄を斬り裂かれた。


『まずは一人!』


 もう俺に武器は無いと油断し、大きく振りかぶって私を斬ろうとする。


 だが、俺はそれを狙っていた。


 鍬の柄は斜めに切り裂かれている。

 人を刺し殺すにはには十分だ!


 一人でも多く殺して、この事を知らせなければ!


 がちゃり!


 俺の手は鎖に絡めとられ、うつぎを殺すことは叶わなかった。


 鎖の先を見ると、そいつも見知った顔だった。


 霞の若者の一人だった。


 俺の望みは何一つ叶わぬまま……、


『油断しすぎだ、うつぎ』


『俺の方も誘いだったっつうの! おらあ!』


 うつぎが刀を振るった後、俺の首が落ちるのを感じ――……た……。

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