二十二話 後編
皆さん、おまたせしました。二十二話です。どうぞ。
そして、明日からテストです。頑張ります!!
第12独立魔術師団の面々が地上に降下してから5分。
野上悠斗がいるのは、2012年の業魔復活の影響で廃墟となった、タムディ地区の旧市街地だ。
壊れた建物や、枯れ果てた植物が目立つ。
さらにはミイラと化した動物の死骸などがあちこちに転がっている。
そこで彼は、一体の業魔と対峙していた。
全長は5メートル弱。肩高は3メートルもある巨体。
サイ型と呼ばれる、名の通りサイのような形をした大型の個体だ。
目の前のサイ型はぶるるる、と鼻息を荒くしながら前足を後ろに引き摺る動作をする。
これから、悠斗に突進しようとし、彼をひき殺そうとしているのだ。
「……」
対する悠斗は両手に氷のグローブを出現させ、ファイティングポーズで固定したまま動かない。
目の前のサイ型に全意識を集中する。
両者に沈黙が流れる。
先にそれを破ったのはしびれを切らし、悠斗めがけて突進したサイ型の個体だった。
「ブルァァ!」
サイ型の個体はみるみる加速し、頭頂部に生えた立派な角で悠斗の胴を貫こうとする。
悠斗はその場で軽くジャンプを繰り返す。まるで、膝の調子を確かめるように。
そして両者の距離が1メートルを切った瞬間、
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
気合の咆哮を上げ、右腕を振り抜いた。
ゴガン!と、悠斗の放った右のストレートが、サイ型の額を直撃する。
放たれた一撃は、サイ型の頭蓋を砕き、その生を見事に断ち切っていた。
先程まで業魔だった肉の塊は、右に重心を傾け、倒れた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
勝者である悠斗は、血のこびりついた氷のグローブを見つめていた。
確かにあった不気味な感覚。
何かを壊したような、潰したような、そんな感覚。
「(これが、業魔との戦いか……)」
慣れるまで時間がかかりそうだ。
と、そこで彼は、自分がここにいる本当の理由を思い出した。
「そうだ!健太を探さねぇと!」
実は悠斗は、ここに降下している最中に、悲鳴を上げながら落下していく新井健太を目撃していたのだ。
彼のパラシュートがここ、旧市街地付近に落下したのを確認した彼は、わざわざ走ってここまで来たのだ。
最悪の場面が頭をよぎる。
「(高所恐怖症のあいつにこれは無茶だ!今頃どっかで腰が引けているに違いねぇ。その隙に業魔に襲われたら、いくらあいつでもまともに戦えねぇぞ!)」
そう思うと、自然と足が早まる。
「健太、無事でいろよ!」
………数分後、悠斗は新井健太を発見した。
結論を言うと、彼は無事だった。
ただし完全にではない。
しかし、だからと言ってどこか怪我をしているとか、足がすくんで動けないとか、そういうわけではない。
今、これを読んでくれている諸君は、オボロロロロロロロ!と、民家の壁に手をつき、苦しそうに嘔吐する彼を見ても、完全に無事であると言えるだろうか。
否、言えるわけがない。
現に彼、野上悠斗もその一人である。
「はぁ~……心配して損したぜ。」
悠斗は一言そう言うと、未だに嘔吐を繰り返す健太の背中をさすってやる。
「(とりあえずコイツが落ち着いたら本隊の方と合流しないとな……)」
呆れ半分、真面目半分でそう考える悠斗だった。
そんな旧市街地から少し離れたところにある平原。
そこに押し寄せる業魔の群れの中、自らの得物でバッタバッタと業魔をなぎ倒す2人の戦士がいた。
「どらぁ!!」
一人は体格のいい少年で、鋼の戦棍を握っており、
「えいっ!」
もう一人は華奢な体格の幼い少女だ。まるで獣の前足のような氷の外部骨格両手に纏い、振り回している。
右手に握った戦棍を振り下ろし、目の前の猿型の一体を圧殺した少年はそのまま回転し、四方八方から迫る業魔たちめがけて戦棍を振り回す。
半歩遅れて、少年の周囲に強風が巻き起こり、瞬く間に業魔たちが吹き飛ばされていく。
一方の幼い少女は、氷の外部骨格―――――いや、「手」を、迫ってきた業魔の腹めがけて思い切り振り抜いた。
鋭利な爪の部分が、腹の肉をえぐり、猿型の腹から赤い鮮血が溢れる。
痛みのためか一瞬だけ動きが止まった猿型の個体の隙を逃さず、幼い少女はさらに「手」を振り、業魔の肉のみならず、骨と臓物までもかっさばいた。
さて、先ほどの戦棍を握った少年だが、彼は180センチの身長と恵まれた体格を誇っている。
だが、それでも猿型の個体の全長は2メートル弱。
しかもそれを言ってしまえば、幼い少女は身長で言えばわずか140センチ弱しかない。
そんな彼よりも一回りも大きい業魔たちが、何故一回り小さい彼に、こうも容易く敗れてしまうのか。
答えは単純明快。
彼らが、対業魔戦において戦い慣れした、歴戦の兵士だからである。
「せいやぁ!!」
雄叫びと共に振り抜かれた戦棍が、猿型の業魔を吹き飛ばし、その後ろにいた同型の個体も巻き込んでドミノ方式に倒れていく。
「やあああっ!!」
氷で出来た巨大な「手」が振るわれる度に、業魔の肉が抉られ、骨がへし折れ、臓物がズタズタに引き裂かれていく。
2人の周囲10m以内から業魔がいなくなったのを確認した少年と少女は、背中を合わせ、周りを見ながら呼吸を整える。
やがて、幼い少女が口を開いた
「はぁ…はぁ…お主、前より強くなったのではないか?強志。」
強志と呼ばれた少年は呼吸を整えながら、戦棍を強く握りながら、
「はぁ…はぁ…はぁ…お前こそ、その姿の時だけは驚くほど強くなるな。」
「ぬかせ、お主のような筋肉バカに言われても説得力がないわ。」
「心配するなお嬢さん。自覚はしているんだ。」
おいお嬢さんて呼ぶな殺すぞと目で言われた強志は、はいはいと言いつつも警戒を怠らない。
それは自分たちが業魔たちに四方を囲まれているからだ。
「まったく、降下最中に空中で出会ったと思っていたら、降りた先が業魔の群れのど真ん中とはどういう事だ?」
そう、少年と少女は同じ部隊の所属で、その中でもNo.2とNo.3を争うほどの実力者だ。
だから降下している最中に空中ではち合わせてそのまま一緒に降下、なんてことも珍しくはない。
しかし、降下した先が数ある業魔の群れの中央と言うのは、ただの「不幸な出来事」で片付けるには軽すぎる。
「ワシが聞きたいわそんなもん。ただ、お互い運が悪かった事だけは否定できんじゃろ。」
「ハッ、違いない。」
自分たちを囲む業魔は、目測でもあと300体はいるだろう。
いくら部隊内で二番手三番手を争う二人であっても、この数はさすがに荷が重いと言わざるを得ない。
しかし、先ほどの戦いで二人を警戒しているのか、どの個体(と言ってもほぼ猿型)も半径10メートル以上は近づこうとしない。
「一人あたり150体か……最近体がなまってたから、いい運動にはなるだろうとは思っていたが、これじゃ逆にオーバーワークもいい所だ。」
「全くじゃ、ワシの基礎体力じゃ終わる頃にはスタミナが切れるぞい。」
「……行けるか?」
「なに、ワシの場合はそう言ったものを魔力で補うのが本分じゃ。心配なのはお主じゃよ。」
「ふん、こんな小さい女の子に心配されるほど俺は貧弱になった覚えはない。」
だから女の子言うなマジでブッ殺すぞコラと、今度は背中で語る少女。
彼女はどうやら女として扱われるのが不服なようだ。
「その憤りは是非、俺たちを取り囲んでいるこいつらにぶつけてくれ。」
「……コイツら殺ったら次はお主じゃ強志。」
「なら、少なくともこの状況からは脱しないとな。」
少年は戦棍を握り直し、少女は「手」を広げる。
目の前にいる化物を殲滅するために。
「行くぞい!強志!」
「あぁ、行くぜ!」
それぞれが正反対の方向へと走り、業魔の群れへと挑んでいった。
次回の投稿予定日は12月10日です。
ただ、テスト後の後処理や提出物などで更新が遅れるおそれがありますので、ご理解いただけるとありがたいです。




