二十二話 前編
おまたせしました。二十二話の前編です。
今頃私はテスト勉強に明け暮れていることでしょう……
「キエァァァァァァ!!」
人ならざる声を上げながら、鳥型の業魔五体が誠へと襲い掛かる。
業魔は人間や動物を本能的に襲う習性がある。
ただし、噛みちぎる、食い破ると言った「捕食」を目的としている訳ではない。
大型の業魔にもなると、踏み潰すや突進するなど、完全に攻撃対象として認識していることから「殺戮」を目的としていると言われている。
そんな殺戮の本能のみで動いている業魔とは対照的に、誠ははやる動悸を抑えながら、必死に理性を働かせ、敵に対する戦法を組み立てる。
「(落ち着け、基本的に業魔の攻撃手段は物理攻撃のみだ!奴の形状から察するにおそらく奴の武器となるのは足の爪だけ!)」
人間とは違い、業魔には魔力と呼ばれるものが確認されておらず、業魔は魔法による攻撃を行うことができない。
ただ、硬質化させた体の一部を飛ばし、隕石のように降らせたりする個体や、口などから圧倒的熱量を持つ光線を放つ個体など、例外も存在する。
このような「例外」のメカニズムはいまだ解明されておらず、これは魔法とはまた違う分類として考えたほうが良いのかもしれない。
「うおおおおっ!」
誠は先頭を飛ぶ二体にめがけて左右それぞれの手から電撃を放った。
バチバチィ!と青白い光を放射線状に走らせながら大気中を疾走したそれは、鳥型の業魔に寸分の狂いもなく命中し、またたく間に二体の業魔を焼き殺した。
「よっしゃあ!一気に二体ぃっ!」
空中でガッツポーズを決める誠を、残った三体の業魔が取り囲むように旋回しながら迫ってきた。
しかし、
「囲んでくるならまとめてやってやらぁ!」
業魔の爪が誠の肉を削ぎ落とすよりも、彼が脳内で術式を組み上げる方が圧倒的に早かった。
誠と業魔の距離が2メートルを切った次の瞬間、誠は最大出力で周囲に電撃をばら撒いた。
電撃をモロに受けた三つの業魔だった死骸が、黒い煙を上げながら落ちていく。
「オラオラそんなもんかぁ!?もっと来いよ化物が!」
だが、次に迫ってきたのは業魔ではなく―――地面だった。
その距離、わずか100メートル。
「やっべ!」
すぐさま術式の組み上げを開始するが、構築されて行く間も地面は迫る。
「(やばいやばいやばい!)」
術式が完成した瞬間、すかさず魔力を流し込み、魔法に変換。
磁力操作で砂鉄を集め、即席のクッションを作ることで難を逃れた。
「あっぶねー……」
砂鉄へ働かせた磁力を解き、戦場の大地を踏む。
眼前には倒すべき敵―――業魔が群れを成して迫っている。
「さぁて!派手にやってやろうじゃねぇの!」
そう叫ぶ誠の右手には、極彩色の輝きが生まれていた。
同じく、降下に成功していた信司は、地上の業魔に悪戦苦闘していた。
「くそっ!何体いやがんだ!?」
「ゴゥ……」
目の前にいる10体を超える「猿型」と呼ばれる業魔の群れ。
名前の通り、すべての個体がサルに似た形をしている。
だが、体格は2メートルから3メートルほどで、どちらかといえばゴリラといった方が近いのかもしれない。
一体一体の戦闘力は大したものではなく、戦場初経験の信司でさえ、先ほど5体目を斬り殺した所だ。
しかし、猿型の真骨頂は単一での戦闘力ではなく、複数の個体が連携を取ることで生まれる集団的な強さだ。
「「「ゴゥア!」」」
雄叫びと共に猿型の個体たちがに信司に踊りかかってきた。
「クソッタレがぁ!」
両刃の剣を握り直し、術式を組み上げる。
柄から魔力を注ぎ込み、父から受け継いだ魔法剣技「炎剣」を発動させた。
刀身全体がまたたく間に赤い炎を纏う。
「せいっ!」
信司は愛剣を構え、真正面の一体めがけて、袈裟斬りに剣を振り下ろした。
業魔が振り上げた右手に、刃が接触する。
本来なら刃も通さない業魔の皮膚を、高温の刃が容赦なく溶断し、右腕を斬り飛ばす。
「ゴァァァ!?」
刃はそのまま業魔を襲い、右の肩から胸を、胴を引き裂いた。
肉や骨、内蔵などを断つ時に感じる言いようのない感触が手首に伝わる。
最後まで刃を振り抜いた後、一歩遅れて個体の肉体から赤い液体が吹き出す。
死骸となった業魔が後ろへ仰け反り、背面から倒れて動かなくなった。
「次ぃっ!」
信司は一体目の後ろから飛び出してきた二体目の首元に刃を突き刺した。
「うおおおおおっ!」
そのまま強引に刃を横に動かす。刃は二体目の首の骨を両断し、首から上を宙へと舞いあげた。
二体目が倒れ伏す前に、三体目が横から接近してきた。
「次はお前か!」
信司は三体目を斬るために剣を構え直し、振りかぶった。
しかし、
「!?」
不意に右足が動かなくなった。何やら圧迫されている感覚もある。
右足を見てみると、斬殺したと思われた一体目が、左腕で信司の右足を掴んでいた。
「こ、コイツ!」
信司はこの時、初歩的なことを忘れていた。
業魔の生命力は人間の比ではなく、的確に弱点を付かなければ絶命させるのは難しいことを。
「ゴァァァァァ!!」
反応が遅れた信司の眼前に、三体目の猿型が腕を振り上げて迫る。
剣を振り抜こうとするが、間に合わない。
「しまった!?」
その時だった。
ズバン!と。
信司の身体を潰すはずだった三体目の業魔が、縦からバッサリと両断された。
左右の半身がそれぞれの方向に倒れ、その先に立っていたのは一人の美女。
耳が隠れる位の短い白髪に、頭頂部から飛び出した二本のアホ毛。
女性用の軍服の上から漆黒のコートを羽織り、肩に担いでいるのは一振りの日本刀。
「危ない所だったな~信司。」
「相沢……隊長?」
そう、そこにいたのは彼が所属する部隊である「相沢中隊」を束ねる相沢尊その人だった。
「お前は下がってな。あたしがサクッと終わらせるから!」
そう言うと尊は肩に担いだ得物を振りかざし、業魔たちへ切っ先を向けた。
「「「ゴゥァァァァ!!」」」
猿型の群れが、尊へと迫る。しかし尊は顔色ひとつ変えることなく剣を構えると、横薙ぎに振った。
無駄な力の入ってない、綺麗な弧を描いた一振り。
その一振りは、先頭にいた二体の個体の上半身と下半身を分離させた。
「まだまだ!」
その後、臆せず業魔の群れに突っ込む尊。
待っていたとばかりに猿型の個体たちが四方八方から迫る。
「隊長!」
しかし、尊が刀をまるで小枝のように振りまわず度に、業魔たちの肉が斬られ、骨が断たれ、臓物が裂かれる。
それはさながらザコを豪快に吹き飛ばす無双ゲームのような光景だった。
「すっげえ……」
そして、彼が気づいた時には、すでに業魔の群れは全て屍となっていた。
振り返った尊の顔には返り血が付着していた。
「信司~、一度後退するからあたしに付いて来て?」
「あ、はい!」
と、そこで気付いた。
いつの間にか足にかかっていた圧迫感が弱くなっている。
「あれ?」
地面の業魔の腕が足を掴んでいるのは変わりないが、その業魔が動かなくなっている。
既にこときれていたようだった。
「(死ぬ寸前まで掴んでいやがったのか……)」
業魔の執念に身震いしながら、信司は剣で業魔の左腕の肘から下を断ち切った。
「じゃ、行こっか。」
「了解です!」
尊の後をついて行った信司は、部隊と合流を果たし、再び戦場へと赴くのだった。
次回の投稿予定日は12月3日です。お楽しみに




