第十二話
お待たせしました。第12話です。
「「「「「「「なっ……!?」」」」」」」
幹部構成員7人が驚愕の表情を顔に貼り付ける。
当然だ。さっきまで戦闘不能と思われていた新兵たちが、炎の中から飛び出してきたのだから。
「あの新入り達が炎の中から出てきやがった!」
「すごーい!」
「バカな!一体どうやって……っ!?」
その時、副団長は気づいた。
炎から飛び出してきた少年たちの中に、先程まではいたはずの氷のグローブの少年がいないことに。
「(まさか……)」
「あ、焔ちゃんが!」
楓が叫ぶのと、焔が炎を放つのが同時だった。
するとどうだろう。信司が誠の前に躍り出て、燃え盛る剣を火球めがけて振り下ろしたではないか。
直後、爆発の閃光で皆がわずかに目を細める。
そんな時、副団長は確信した。
「(そうか!あの特殊な魔法陣を持つ誠は奴らの切り札。故になんとしてでも誠を焔の懐へ潜り込ませるために自らが犠牲になってるのか!)」
仲間を信じる強き心と、抜群のチームワークが成せる技だった。
「っ!炎が消えた!」
桜花の声で我に返った副団長が再び戦いに目を向けた時には、誠が左の拳を振りかぶっている所だった。
「ついに肉迫しやがったか!」
茜の言葉にワンテンポ遅れて、誠の拳が振り抜かれた。
「「「「「おお!!」」」」」
思わず皆の口から歓声が漏れる。
「……メガネ君が背後にいる。」
秋穂の言葉に皆が焔の背後へと視線を向ける。
見てみるとアサルトライフルを回収した健太が、焔の背後にいた。
誠が何かを叫んだのを皮切りに、健太の自動小銃が火を吹く。
しかし、その弾丸たちは着弾する前にすべて溶解、消滅した。
「あ、やべ。」
副団長の言葉に、全員が視線は動かさず耳だけを傾ける。
「今ので焔の奴、リミッター外れたぞ。」
「「「「「「え?」」」」」」
今度は皆が視線も副団長に向けた、まさにその時だった。
焔の足元に炎の魔法陣が落ち、彼女がそれを右足で踏みつけたのだ。
その途端、炎の魔法陣が巨大化を始め、またたく間に闘技場を支配する。
「あいつまさか……リングもろとも吹っ飛ばす気か!?」
「お兄ちゃんダメ!」
桜花の叫びも虚しく、焔の右足が魔法陣に振り抜かれた。
瞬間、眩い光が闘技場を包み、客席を守っていた防御結界がミシミシと悲鳴を上げる。
「ヤバイ、結界が壊れるぞ!」
いくら物理、魔法問わずすべての衝撃を防ぐといっても結界そのものには耐久値が存在し、それが全損すると結界は亀裂を発生させ瞬く間に破れてしまう。
一般の客席にいた兵士たちはすぐにその場から逃げ、その直後、結界が破れて客席に炎が漏れ出した。
そして結界が完全に破れたとき、雫達の見ていた場景が炎の赤に染まった。
「うわっ!」
「あのバカ張り切りすぎだ!」
彼女たちのいる特別客席は、一般客席とは違い、先程破れた特殊結界に加え、摂氏2500度の温度に耐えられる耐熱加工を施した強化ガラスを内側に配置しているため、ここまで炎が漏れ出すことはなかった。
数秒後、炎の赤が消えた。
「ど、どうなった?」
副団長が恐る恐る眼下に目をやり―――ポカンと口を開けて固まった。
焦土、とはこのことを言うのだろう。
リングの中の土。そして壁。先程まであった階段状の観客席。
そういったものが完全になくなっており、あとに残っていたのはただただ焼け焦げた大地のみだった
そんな闘技場(元)にポツンと佇む一人の美女、青山焔。
彼女の目の前と背後には無残に倒れ伏す3人と1人の少年達。
意識が飛んでいるどころか息をしているのかも怪しい。
あまりにも圧倒的すぎる決着だった。
「んー!やっぱここのラーメンは最高だね!」
「唐揚げもクオリティ高いよな。」
「……まぐまぐ」
3つのトレイの上に乗った各料理を、各々の感想を混じえながら食す尊、茜、秋穂の3人。
「いやぁ天川先輩、わざわざすいませんね?」
総団長の実妹である青山桜花は賭けに買ったのをいい事にこれみよがしにドヤ顔を見せつけ、
「いいの桜花ちゃん。気にしないで?ここでの階級はあなたの方が上なんだから……。」
対する雫は敗北感と財布の中身と比例した絶望感を味わうことになった。
「雫、大丈夫?」
「大丈夫よ、問題ないわこれくらい……」
心配してくれる親友に力なく返す。
今の彼女には、それまで放っていた大人の女性特有のミステリアスな雰囲気は微塵も感じ取れず、代わりにただただ落ち込むだけのかわいそうな人のオーラがどんよりと漂っていた。
彼女たちがいるのは第12独立魔術師団本部が誇る大食堂だ。
ここでは魔術師団お抱えの専属シェフたちが作る和洋中と言った様々なジャンルの料理を食することができる。
今この場には、青山昇(今は焔)以下幹部構成員合計8名が長テーブルに座っているだけで、ほかに人の気配はない。
それも当然だ。なぜなら現在時刻は午後1時30分。他の兵士は昼食などとっくに済ませて仕事に戻っている。
なぜ昼食の時間がこんなに遅れたのか。理由は簡単。副団長の説教が長引いたからだ。
と言うか、現在進行形で今も続いている。
「お前さぁ、全壊した闘技場の修復に俺がどんだけ魔力使ったと思ってる?」
「さ、さぁ……?」
「実に平常時の3倍だよ!なんだよこれ!?戦闘でもこんなに使わんわ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
彼、紅井薫は創造系魔法のエキスパートだ。
戦いによって破損した兵器や建築物などは、彼とその部下達の手によって修復される。
今回は原型が残らなかった事もあって、闘技場の設計図から見直しを図らなくてはならず、必然的に多くの魔力を使用してしまったのだ。
「ったく、おかげでこうやって…ガツガツ…大量に食わないと…ムシャムシャ…無くなった魔力が補充できねーんだよ!」
確かに副団長の目の前には、食べ終わった食器たちが積み重なっている。今もカツ丼のどんぶりの中身が消えそうだ。
「ふ、副団長……いくら私が賭けに負けたとは言えそこまでは……」
心配そうに言う雫に、副団長は返した。
「あぁ、気にしなくていいよ天川大尉。君が払うのは俺が最初に食った親子丼だけ。あとはこいつに払わせるから。」
「えぇ、そんなぁ!?」
「(私が払うのに変わりはないのね)」
突如、カレーの皿を空にした秋穂が口を開く。
「……それにしても今回入ってきた新兵たちは見所がある。」
その言葉に皆が深く頷いた。
「確かに、実力や戦術面はまだまだだが、根性とチームワークはありそうだよな。」
「中々に気合も入ってそうだしね~」
「まぁ、磨けば光る原石って感じかしらね。」
「まだまだ分からない……ってとこか。」
「育て甲斐はありそうよね。」
皆が皆、新兵たちに評価をつけ始める。
「信司くんの剣術は結構太刀筋がいいわよね。昔からやってたのかしら。」
「あのリーゼントくんの魔法も独特だよね~。応用性も高そうだし。」
「名前忘れたけど、あの黒縁メガネ。あいつの銃の扱い方は結構いいぞ?ナイフ戦術も良かった。」
そんな中、ぶっちぎりで評価が高かったのは、
「……あの金髪少年はすごかった。」
北条誠だ。
「確かに、彼の電撃魔法のセンスは群を抜いていたな。」
「なんやかんやで青山くんに一発入れたしね。」
「結局さ、あの魔法陣は一体なんなんだ?」
「どういうメカニズムなのかもさっぱりだよね~。」
「まさかお兄ちゃんの炎が消されちゃうとは思わなかったな……」
と、ここで楓が気になっていたことを口にした。
「ねぇ焔ちゃん。焔ちゃんとしてはどんな感じだったの?」
楓に話を振られ、困惑する焔。
「どんな感じって?」
「どういう風に炎を消された感じ?まさか、脳内で組み上げた術式を阻害されたとか?」
小学校から高等学校の過程終了時までの内容を学ぶF級からE級の下級魔術師は、魔法を発動する際には必ず杖や魔道書などを用いる必要がある。
だが、戦場で戦う魔術師の大体の者が所属する中級魔術師 。つまりD級からC級の魔術師ぐらいになると、脳内で術式を組み上げることで、一部の例外を除いて魔道書を必要とせずに魔法を扱うことができるのだ。
そして上級魔術師レベルになると、その術式を阻害する魔法まで出てくることがあるのだ。
楓の言う「術式を阻害された」というのはこういう事だ。しかし、焔は首を振る。
「ううん、そうじゃないの。術式は問題なく起動してたんだけど……なんて言うか「炎を形作るのに必要なモノ」が欠けちゃったみたいな?」
彼女の発言に、皆がますます首を傾げる。
「まぁ、そのへんは後で聞いてみりゃ済むことだろ。おい薫。新兵の具合はどうなんだよ?」
上官に対するものとはとは思えない言動に辟易しながらも、彼は答える。
「一命は取り留めたよ。こんな俺でも医者の端くれだしな。」
ちなみに彼は医療にも携わっている。
彼自身、治癒系魔法を使うことはできないが、応用性の高い自分の創造系魔法を活かし、今でも野戦病院などで活躍している。
「こんな強面の医者もいたもんだ。」
「うるせぇ。」
そんな強面の医者は、食べ終わった食器の山をトレイに丸ごと乗せると、そのまま返却口へ持っていく。
「これから患者の様子見てくるから。天川大尉、親子丼の支払いよろしく。」
そう言うと副団長は、医務室へと足を運んだ。
次回の投稿予定日は10月19日です。
お楽しみに




