第十三話
お待たせしました。第十三話です。
どうぞ
「……あれ?」
目を覚ますと、無駄に清潔感のある見知らぬ天井が俺の視界を埋め尽くしていた。
確か意識が飛ぶ前は俺は焔さんに一撃を与えて、逆上した焔さんから信司と悠斗を守ろうとしたはずだ。
不意に、俺の全身を痺れるような痛みが走った。
自分の体に視線を移すと、俺は全身にライトグリーンの包帯を巻いて、白いベットに横になっていた。
「(なるほど、俺は助かったんだな……。)」
しみじみそう思う。本当に生きてるのが不思議だ。
ゆっくりと状態を起こす。
案の定、ここは医務室のような場所らしく、学校の保健室みたく俺のいるベットはカーテンに包まれている。。
ベットから起き上がった俺に、たまたま同じタイミングで入ってきた看護師らしき人物が声をかける。
「あ、起きたわね。」
「あぁ、どうも。」
俺は反射的に頭を下げた。俺はここじゃ新兵。一番の下っ端だ。
敬礼をしたいのは山々だが、全身を走る痛みが割と強いので出来ない。
「大丈夫?」
「えぇ、若干痛みは残りますけど……」
「そう、なら良かったわ。先生、北条くんが目覚めました。」
カーテンの向こうにいるのであろう「先生」に声をかけた後、看護師は言う。
「それにしても良かったわね。ここに優秀な医者がいて。」
俺はその言葉の意味がよくわからなかった。だが、先ほど看護師が呼んだ「先生」がその人物を指すのは分かっている。
確か、戦いが始まる前に「最悪腕のいい医師がいるから死ぬことはない」とも聞かされていた
俺の思考がまとまるのと同時に、その「優秀な医者」がカーテンの奥から姿を現す。
「よっ」
「副団長!?」
医者の正体は紅井薫副団長だった。
「おう。」
「え!?副団長って医療に携わってるんですか!?」
「どっちかっつーとこっちが本業だな。」
「そうだったんですか……。」
副団長の意外な一面を目の当たりにした驚きが冷めぬうちに、彼は俺の労をねぎらってくれた。
「とりあえずお疲れさん。大変だったろ?」
「まぁ……はい。」
言いながら副団長は俺のベットのそばにあった椅子に腰掛ける。
「多村くんと野上くん。そして君は全身のやけどがひどくてな、皮膚の細胞がほとんど死んでたんだぜ?」
副団長の言葉に軽く戦慄した。おそらくその時の俺たちは見るのも憚るような顔をしていたのだろう。
「まぁ、新井くんは治癒系魔法を習得していたおかげで治りが早かったけどな。」
さすが健太だ。と俺は内心あの黒縁メガネを賞賛する。
「でまぁ、俺も一応医者の端くれだから全力で治させてもらったわけだが……」
そう言って副団長は鏡を渡す。
「満足していただけるかな?」
俺は鏡に映った自分の顔を見た。
頬の少しだけ痕があるものの、俺はほぼ完璧に元の顔を取り戻していた。
「すごい……これホントに一度は焼け爛れたんですよね?」
「あぁ、若干残ってしまったその痕だが、あと一日経てばそれも消える。」
本当に焼け爛れて原型が残らなかった顔からここまで再生させたのなら、副団長の腕は相当にすごい。
だがその時俺は知らなかった。副団長がかつて俺たちの祖国である日本で「若き名医」として名を馳せていたことを。
「それより北条くん。ひとつ聞きたいんだが」
「あ、はい。なんですか?」
いや、無理に話すことはないんだがと、前置きを入れつつ副団長は俺に問うた。
「君の右手の甲に出現した魔法陣。あれは一体なんだ?」
「……。」
―――何だよ、何なんだよその右手は!?
―――この化け物が!
―――私の子に近づかないで!
「……北条くん?」
「あ、すいません。ちょっとボーッとしてました。」
俺は右手に巻かれた包帯を解くと、右手を前に突き出し魔力を込めた。
極彩色に輝く魔法陣が出現し、ベットの周りを照らし出す。
「物質変換魔法。俺の奥の手です。この状態の右手で物体を構成しているあらゆる物質に触れると……」
そこで俺は解いた包帯に右手で触れた。
すると包帯を構成する素粒子が分離し、新たな形を形成していく。そして、先程まで包帯だったそれは、一個のボールになった。
「素粒子レベルで対象の物質の形状やその物質が持つ性質を自由自在に変化させる事ができるんです。」
もう一度触れてボールを包帯に戻す。
「応用としては触れた物体に状態変化を促したり、空気中の物質を化合させて新しい物質を創り出したりといった感じですね。」
副団長は驚きを隠せないのか、目を見開いている。
「すごいじゃないか!そんな高度な術式があるなんて知らなかったぞ!」
「いや、問題点は結構あるんですよ。」
俺は右手に対する魔力の供給を止め、魔法陣を消した。
「まず扱い方が非常に難しい。これを使って何かするときは、必ず頭ん中で高度な術式を構築しないといけないんです。ぶっちゃけ俺でさえこんな力を扱えてるのが不思議なくらいです。」
「なるほどな……。」
「次は燃費の悪さです。魔法陣は出現させてるだけでアホみたいな魔力を食うんです。俺も10分間出し続けてたら魔力が底を付いちゃいます。」
「ん?ちょっと待て。じゃあ君が先ほど見せた戦いは……」
「えぇ、なんせ相手が相手ですからね。魔力の残量なんて度外視して短期決着に持ち込むつもりでした。」
「って事は業魔と戦う時は……」
「なるべく使わないようにしようと思ってます。」
「そうか……」
俺の答えを聞いた副団長は、なにか考えるような素振りを見せ、数秒後椅子を立った。
「話を聞かせてくれてありがとう。とても興味が湧いたよ。」
「いえいえ。」
「じゃあ俺は仕事が残ってるから、君はもう少しここで休んでいてくれ。」
「分かりました。」
そして副団長は、カーテンの奥へと消えていった。
「あーメンドくせぇ!」
青山昇は団長室で書類の処理に追われていた。
今回「魔術連合国家軍」の本部へ提出する書類は新兵4人に関係したものだ。
「なんだってこんなメンドくさいことをせにゃならんのだ。」
ひとりでにつぶやくと脳裏から女の―――もう一人の自分である青山焔の声が聞こえる。
『団長っていう仕事上仕方のないことでしょ。』
「だってお前さぁ、普通なら新兵に関するデータなんていらねーだろ?もらっとくだけもらってぜってー使わないよあいつら。」
『そう言いながらもちゃんと書くのね。』
「そりゃ仕事だからな。愚痴りはするがやるこたぁやるよ」
そう言いつつ一枚の書類の処理を終わらせた昇。残るはあと4枚。
さぁやるぞと目を通すと、その書類は新兵4人のプロフィールを書けというものだった。
「いやめんどくせーんだよ!」
『ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ。』
思わずペンを叩きつける昇を、焔がなだめる。
もし彼女に肉体があればまだ違ったのかもしれないが、今の団長室にはただただシュールな光景が流れてる。
「なんでわざわざこんなこと知りたがるんだ上の連中は!俺たちがどこでどんなやつ雇おうがテメーらに関係ねーだろうがよぉ!」
『そんなこと言ったって仕事が無くなるわけじゃないんだから我慢しなさい。」
結局焔に負けてしまい、はぁ、とため息を吐きながらしぶしぶ書き始める昇。昨日、目を通した新兵のプロフィールを思い出しつつ筆を進める。
「新井健太。15歳。治癒魔法と創造魔法を得意とする。戦闘スタイルは魔銃士。あとナイフを使用した軍隊式格闘術にも精通と。」
『あの動きはかなりの手練よ。私もテンパっちゃったわ。』
「確かに。ナイフを持った瞬間に雰囲気が変わったもんな。」
昇は、洗練された動きで焔の喉を狙い、躊躇なくナイフを振り抜いたメガネの少年を思い出しながら報告書を書き上げる。
「ええと、次は……野上悠斗。15歳。中級の氷結系魔法「氷結手甲」を用いた近接戦闘を得意とする魔闘士と。」
『盾としての応用も効くみたいよ?』
「あぁ、どうもそうらしいな。ただ彼の場合はもう少し基礎体力をつけたほうがいいかもな。」
続いて老け顔少年のプロフィールを書く。
「多村信司。15歳。中級の火炎系魔法剣技「炎剣」の使い手。実家が代々魔剣士の家系だったらしく、剣の腕には見込みアリ。」
『私の火球を躊躇なく叩き切ろうとした度胸も評価してあげて。」
「そうだな。彼の場合はそのメンタルと共に、より一層剣の修行に励んでもらいたいな。」
そして、最後は彼の報告書だ。
「……来たな。」
『今回一番注目すべき子ね』
「北条誠。16歳。独学で編み出したとされる電撃魔法を用いる……魔道師?魔闘士?」
『一応は魔道師なんじゃない?』
「だよな。後はそう……あの右手だよ。」
昇は彼の右手に現れた極彩色の魔法陣を思い出しながらしばし考える。
「あれ結局メカニズムは何なの?」
『私にも分からないわよ。ただ、炎の燃焼そのものを阻害されたような感じだったのは覚えてるわ。』
「うーん……燃焼そのものが阻害か……。」
『いや、もういっそのこと、これについては書かなくていいんじゃない?』
突如焔がそんなことを言う。
「は?なんでだよ?」
『メカニズムも分からないんじゃ説明のしようがないじゃない。それに、あまりにも珍しい力だったら彼がモルモットにされちゃうかもしれないわ。』
焔が警戒したのは、彼のあの魔法陣を珍しがって集ってくる輩がいる可能性だ。
確かに上層部の変な奴らに目をつけられたら、検査の名目で問答無用で本部に飛ばされた挙句、四六時中実験に付き合わされてしまうのが目に見えている。
「……確かにそうかもな。よし、黙ってよう。」
そうして昇は書類をすべて片付けると、団長室を出た。コーヒーが飲みたくなったからだ。
次回の投稿予定日は10月21日です
お楽しみに




