第十四話
おまたせしました。第14話です。
第一章「入団、魔術師団」はこれで最後です。
それではどうぞ。
翌日の朝。俺は目を覚ました。
嫌な夢を見ていた昨日の朝とは違い、心地よい目覚めだった。
だが、相変わらず疲れは抜けない。空腹もそろそろ限界だ。
「(魔力を使いすぎたな……)」
魔力は気力と同義である。
さらに魔力を魔法へと変換する際には体力も使うし、発動させた魔法を制御するには精神力も必要となる。
故に魔法を使いすぎれば当然疲れやストレスもたまるし、腹も減る。
「(なんか食いてーな……)」
そんなことをぼんやり考えてると、カーテンを割って、奥から看護師が入ってきた。
「あ、おはよう北条くん。」
「はい、おはようございます。」
「体は動かせる?」
看護師に聞かれて、俺は手術衣を着た自分の体を動かしてみた。
疲れはあるが動かせないことはない。
「はい、大丈夫です。」
「良かった。じゃあ早速で悪いんだけど……」
看護師は俺の目の前にある物を置いた。綺麗に畳まれた軍服だ。
「これ……」
「そう、あなたの軍服。これに着替えてちょうだい。着替え終わったら言って。」
そう言うと看護師はカーテンの奥へと消えた。
いつ回収したんだろうという疑問をとりあえず頭の隅に押しやってから手術衣を脱ぎ、軍服に着替え始める。
「(この服に着替えさせるってことはいよいよ合格発表か……)」
スラックスを履き、ベルトを締める。
「(緊張するな……)」
ワイシャツを着てネクタイを締める。
「(合格……してるかな?)」
最後に軍靴に足を通して着替えを完了させた俺は、カーテンを開いてそれを報告。
「着替え終わりました。」
「OK。それじゃ、私に付いて来てくれる?」
「はい。」
看護師は頷くと、そのまま踵を返して歩き始めた。
俺はこの後団長室に呼び出されて、合格か不合格かを告げられた後に、配属先を聞かされるかお帰り願われるかのどちらかだろう。
「(ええい、考えてても仕方ない。合格してますように!)」
心の中で祈りながら俺は看護師の後を追った。
数分後、俺は同期である信司、悠斗、健太の3人と合流し、看護師に言われるがままついて行った。
たどり着いた場所はここの設備でもかなり広い部類に入ると言う大食堂だ。
そしてそこに入った途端。
パンッ!という破裂音と共にクラッカーが鳴らされた。しかも大量に。
それはもう破裂音というよりは轟音に近かったかもしれない。
鳴らしたのは昨日俺たちの自己紹介を聞いた精鋭メンバーたちだった。
俺が何か言う前に、奥の方にいた青山団長が言った。
「えー、それでは皆さん!ご唱和ください!せーの!」
「「「「「北条くん、多村くん、野上くん、新井くん。士官試験合格おめでとーっ!!」」」」」
「え?は?え?」
「なにこれどういうこと!?」
「何が何だか……」
3人もこの状況が出来ていないようだ。俺も理解できない。
そして混乱も収まらぬまま俺たちは中央の席に座らされ、右手にドリンクも持たされた。
「かんぱーい!」
「「「「「かんぱーいっ!!」」」」」
俺は背後にいた兵士に質問した。自分を取り巻くこの状況について。
「あの……これは?」
「あん?見て分からんのか?君たちは合格したんだよ!」
「そうそう!いやー、士官試験に受かって良かったね。」
「これで明日からは俺たちと同じ職場で活躍できるぞ!」
……いま先輩たちが言った事が事実なら、俺たちは見事青山団長から認められ、明日からは士官として活躍できるということだ。
いや、それは嬉しい。嬉しいのだが何か違う気がする。
俺がイメージしていたのは団長室あたりに呼び出されて、緊張と不安の中順番に合格発表を告げられると言ったものだった。
こんな和気藹々とした雰囲気の中でやるものじゃない。
「(なんか違うな……)」
そう思いつつコップに入ったオレンジジュースを一気に喉へ流し込む。
喉に負担をかけないよう作られたジュースの冷たさと優しい甘みが空っぽの胃袋に響いた。
「あ、そういや何も食ってないんだった。」
改めて見てみると、テーブルの上には様々なご馳走が並んでいた。そしてあちこちでは精鋭メンバーたちが料理にがっついている。
なんかもう色々どうでも良くなった俺は目の前にあったフライドチキンに手を伸ばした。
パーティの席に出た料理があらかた片付いた頃、マイクを持った昇が大食堂の中心に立ち、高らかに宣言する。
「えーそれでは!新兵4人の階級と配属先を発表しまーす!!」
「「「「「イェーイ!!」」」」」
かなりハイなテンションで場を盛り上げる昇だが、すぐに焔からお声がかかる。
『そんなテンションでいいの?』
「(いいんだよ、これくらいで。)」
適当に焔をあしらいつつ、昇は老け顔の少年に声をかけた。
「えーまずは……多村信司くん!」
「は、はい!」
ガチガチになりながら返事をする信司に昇が近づく。
「君を……相沢中隊の伍長に任命します!」
「「「「「おおー!!」」」」」
『私もそうだと思ってたわ』
「(あぁ、彼の太刀筋は中々に見所があるからな。尊のやつがその辺をうまく鍛えてくれるだろうよ)」
相沢中隊は相沢尊が隊長を務める部隊だ。
男女比は6対4で、隊員は主に「魔剣士」が多い。
昇は炎剣を扱う彼の才能に着目し、その才能を十分に活かしきるためにこの部隊を選択したのだ。
「いやーようこそ!相沢中隊へ!歓迎するぞ~?」
「ありがとうございます!」
昇の目の前では尊が手を伸ばし、それをしっかりと握った信司が何度もそれを上下に振っている。
「さて次は……新井健太くん!」
「はいっ!」
張りのある返事を返して健太が昇の前に出る。
「君を浜崎中隊の軍曹に任命します!」
浜崎中隊は浜崎茜が隊長を務める部隊だ。
隊員メンバーはほぼ男性で、いずれもが兵士然とした屈強な男達である。
しかし昇が浜崎中隊の名を口にした途端、大食堂全体に重い空気が流れ始めた。
あちこちから囁き声が聞こえる。
「浜崎中隊……え?今浜崎中隊って言った?」
「あぁ、言ったな……。」
「団長は一体何を考えてるんだ……?」
「あの子可哀想……」
「えぇ、下手したらもう二度と会えないかも……」
「え?え?え?」
あちこちからあがる哀れみや同情の声に戸惑う健太。
『まぁ、こうなるでしょうね。』
「(仕方ねえよ。茜はちっとばかしスパルタだからな。)」
昇自身こう言っているが、彼女の訓練の厳しさは尋常ではない。
その激しさは実際に彼女の部隊に任命された者のほとんどが訓練過程で心が折れ、すぐに配属先の変更を申請するほどだ。
しかし、その訓練の甲斐あって彼女の部隊にいる人間は、各中隊の中で一番死亡率が低い。
隊員達曰く、
「死より怖いものを俺たちは知っている。」
だそうだ。
昇としては彼の銃器の扱い方やナイフを使用した格闘術における才能を評価した上で、この部隊に配属させると決めたのだが、そのような悪い噂しか聞かない浜崎中隊に何も知らない新兵を配属させてお前は何がしたいんだ的な視線を浴びせられるのも無理はない。
そんなことなど露程も知らない健太は自ら茜の前に進み、
「今日からよろしくお願いします!」
「おぉ、よろしくなヒヨっ子。」
と律儀に頭を下げに行った。
無知って恐ろしいな。と言うような顔を皆がしている。
『……大丈夫なのよね?』
「さて、じゃあ次は……」
『聞きなさいよ!』
脳内に響く焔の声を軽くシカトしつつ、昇はリーゼント少年の名を呼ぶ。
「野上悠斗くん」
「はい!」
元気よく返事をした悠斗は期待に胸を躍らせながら昇の前へと来る。
「君を峯岸中隊の伍長に任命します!」
峯岸中隊は峯岸秋穂が隊長を務める部隊だ。
男女比は5対5で、主に障壁などを張れる「魔道師」が多い。
前線に出て敵の攻撃から味方を守ることを得意としている。
『あれ?天川中隊じゃないの?』
天川中隊とは天川雫が中隊を務める部隊のことだ。主に氷結系魔法が得意なメンバーが集められているので、焔としてはてっきりそこに配属されるのだと思っていた。
しかし、昇は声を出さずに答える。
「(そうしたいのは山々なんだが、彼の実力じゃまだ足りないよ。)」
『そっか……みんなロシア遠征を生き残ってるものね。』
去年の2月。天川雫率いる天川中隊は、同じ「魔術連合国家」の一団体である「ロシア連合」の人々で構成された第9魔術師団からの救援要請を受けてロシアへと遠征を行ったことがある。
当時の天川中隊は100人近くの構成員が存在したため、正確には天川「大隊」だった。
しかし、寒冷地独特の進化を遂げた業魔の予測不能な動きによって彼女の部隊は壊滅的被害を受け、多数の死者を出した。
今の天川中隊は、皆がそのロシア遠征を生き残った実力者なのだ。故に、彼ではまだ実力が足りないとの考慮の元、昇は峯岸小隊を選んだのだ。
「……よろしくね。」
「はい!よろしくお願いします!」
ビシッ、と敬礼を決める悠斗に秋穂はのろのろとした動作で敬礼を返す。
「さて、最後は……北条誠くん!」
「はい!!」
自分なりに気合を入れて返事をした俺はなるべく緊張しているのを悟られないようにしながら団長の前へと進む。
だがそれとは裏腹に心臓の鼓動は高鳴り、額からは汗が滲み出ている。
団長の前に来た時には、無表情を保つのが限界だった。
「君を……」
そこで言葉を溜める団長。自然と周りも静まり返る。
嫌な緊張感が数秒流れて、散々もったいぶって団長が言った俺の配属先。そこは、
「君を、天川中隊に配属します!階級はなんと曹長です!」
「「「「「おおおー!!」」」」」
「天川中隊……俺が?」
信じられなかった。天川中隊はかの有名な「モスクワ攻防戦」をはじめとした様々な戦いを勝ち抜いてきたエリート部隊だ。
そんな部隊に俺なんかが配属されていいのだろうか。
目から熱いものがこみ上げ、視界が歪む。口元に手を当て嗚咽をこらえる。
ふと前を見ると、天川中隊の隊長が。教科書でしか知ることのできなかったエリートが俺に手を差し伸べてくれていた。
「おめでとう、北条くん。」
嗚咽をこぼさないように声を出そうとするが上手くいかない。先程とは打って変わった小さな声が口元からこぼれた。
「いいんですか……?俺みたいなのが……?」
天川大尉は俺に笑顔を向けながら言ってくれた。
「もちろんよ。ようこそ、天川中隊へ。歓迎するわよ?北条誠曹長。」
瞬間、俺の中で何かが決壊した。
目元から熱を帯びた雫がとめどなく流れる。全く定まらない視界の中、俺は天川大尉。いや、隊長の手を両手で握った。
「これからよろしくお願いします!天川隊長!!」
「えぇ、よろしく。」
俺は女が嫌いだ。女はどこかで俺たちを見下している。
だから俺は女を信用しない。でも、
「(この人なら……信じられる。)」
はじめて例外が現れた瞬間だった。
第一章「入団、魔術師団」は以上で終了です。
次回から第二章が始まります。
第二章の初回投稿予定日は10月の末を予定しております。
お楽しみに。




