第五話 テスタスの計略 聖女リーシア1
ジャスティーンへの根回しは一先ず先送りして、次に俺がターゲットに選んだのは聖女と呼ばれる神官、リーシア。
彼女は教会の中でもかなり高い地位にいる。
それはとても異例のことである。
この若さであること、女性であること、出自が恵まれていないこと、それら全て一蹴してそれを成した。
それは彼女がそれらを補って余りあるほどの努力と、それに裏打ちされた神力魔法の使い手であるためだ。
その威力は絶大で、その分野においては賢者と言われる俺をも上回る。
圧倒的な堅牢さと回復魔法は正にパーティーの要と言っていい。
良識にも優れ、答えのない問題に直面した時は彼女に知恵を借りることも多い。
そんな彼女の言葉はパーティーの皆も無下にはできない。味方に引き入れることができれば心強いだろう。
清楚可憐な彼女はあまり外出を好まない。と言うより部屋で静かにいることを好む。
戦いなどとは無縁な気性なのだ。
いや、リーシアだけではない。このパーティーの少女たちは皆、神の加護などというものが無ければ本来はこのような過酷な戦いの旅に出るような人間ではないのだ。
だがその一方で俺は彼女たちこそ神に愛されるに足る人物だと確信している。
ままならないものだ。
「リーシア、いいかな。」
そう言ってリーシアの部屋の扉を叩く。
リーシアは大きな町に滞在する間、その町でしか手に入らないような本を買い漁って部屋にこもり、読書に耽っていることが多い。その勤勉さには頭が下がる。
だが決して力強いとは言えないリーシア一人だけでは大量の本を買い、運ぶのは一苦労するため、俺にお呼びがかかることがある。
今日はその約束をしていて、朝から町の書店を巡る予定だ。
約束の時間になったから、こうして迎えに来たわけだが・・・。
・・・少し待っているが返事はない。
時間になったら部屋に入ってきてくれという話だったし、返事がなくても構わないか。
「リーシア?入るぞー?」
俺は小さく扉を開け、覗き込むように中を見ようとしたが
ガッ「いたっ」
この感触、そして扉の向こうから聞こえた声。
恐らく扉を開けようとしたリーシアにぶつかってしまったか。
そう思った矢先に扉が勢いよく開かれる。
扉の先にいたのは驚いたのか尻もちをついているリーシア。
「いたた・・・、あ、テスタスさん。」
尻もちをついたまま笑顔で俺を迎えてくれるリーシア。
だが俺はその姿を直視できない。
尻もちをついたリーシアは長いスカートがめくれ、質素な純白の下着が完全に見えているのだ。
「リーシア、早く立ち上がった方がいい。」
目線を逸らしながらそう言うと
「え?あっ・・・。・・・はしたないところをお見せしてすみませんでした・・・。」
リーシアは顔を赤くしながら立ち上がった。
どうやら意図を理解してくれたようだ。
少し気まずい空気が流れるが、女性の多いパーティーにいると大なり小なりこういうことは起きるものだ。俺自身も慣れてきている部分がある。
「えっと、準備はいいかな?」
「あ、はい。えっと、では、行きましょうか。」
リーシアも恥ずかしいのかこのことを長引かせるつもりもないのだろう。
俺たちは二人で連れ立って町へ繰り出した。
「まずはどこへ行こう。目星はついているのか?」
「はい。まずは近隣の歴史書を多く揃えているところに行こうかと思います。」
他愛のない会話をしながら二人でゆっくり町を歩く。
「綺麗ですね。」
リーシアがそう言って見上げるのは満開の花を咲かせた木。
「本当だ。これは何という花なのだろうな。」
「なんでしょう。ミースクの木に似ているようですが少し違うようにも思えますし、もしかしたらこの辺りのものなのかもしれません。」
「ということは植物の本も?」
「ええ。欲しくなってしまいました。ふふ。」
これが幸せと言うのだろうな。
別に俺はこういう生活をしたいと思っていたわけではない。
それでもそう思わせてくれる魅力がリーシアにはあるのだろう。




