第三話 テスタスの計略 勇者ジャスティーン1
ドヤネン追放。
そのためにはドヤネンはいないほうがいいということをパーティーの総意としなければならない。
そう考えた俺は根回しを行うことにした。
ドヤネンが役立たずであることは揺るがぬ事実だが、パーティーの面々は皆心優しい女性たちだ。ドヤネンがいかにパーティーのお荷物であろうとも言い出しにくいだろう。
ということは、俺がすべきことは根回し。
ドヤネンをパーティーから追放するということを口にしても良心を傷めない、その空気感をつくるということだ。
いざ行動を起こすかと考えたとき、俺はまず最初に勇者ジャスティーンを懐柔することにした。
なぜなら彼女こそが神に認められ、神に祝福された人類の希望。パーティーの要だからだ。
もし彼女が強く希望したことであれば他の者がそれを覆すことは難しいだろう。
なにしろこのパーティーは彼女のパーティーと言っても過言ではないのだからな。
ある日、俺はジャスティーンを食事に誘った。邪魔の入らない環境で、一定の時間二人きりで話をするためだ。
いま滞在している町は交通の要衝となる大きな町。そのため町は栄え、飲食店の質も高い。
今回行く店はその中でもかなりの高級店だ。
本来ならば数か月前からの予約を必要とする店なのだが、俺たちの活躍を聞いた店主の好意により、この町に滞在している数日の間なら席を用意しておいてくれるとのことだった。
その好意を無下にすることもあるまい。
我々の活躍により受けた好意。それはすなわち我々の行っている魔王討伐の旅が特別なことだということの表れだ。
つまりパーティーに才能のない者がいることの違和感を与えることもできるだろう。
格式の高い店ならば邪魔も入らず店員の口も堅い。
説得には雰囲気も重要だ。このような細部まで抜かりなく行わなくては思わぬところで足をとられかねないからな。
俺は町のシンボルとなる時計塔の前でジャスティーンと待ち合わせをした。
それは同じ宿に泊まっている他のメンバーに、二人きりで会っていることを見られないためだ。
「時間まであと三十分、そろそろか。」
そう思い周囲を見回すと小走りでかけてくるジャスティーンを見つけた。
なんとも目立つ。
「ごめんなさい、お待たせしてしまって。」
そう言って現れたジャスティーンは今日も変わらず見目麗しい容姿をしている。
まさに神の造り給うた人類の最高傑作。
人々の思い描く理想の女性像そのものだ。
「俺も今来たところです。と言ってもたまたま前の予定が早く終わってしまっただけなので、お気になさらず。」
ジャスティーンは待ち合わせをするといつもかなり早く来る。
なんでも、人を待たせることが苦手らしい。
あるいは彼女の少し後に到着するべきだろうかとも考えたが、こちらが待たせたことを詫びても彼女は恐縮してしまうので、どちらにせよ大して変わらないのだ。
道中、これからドヤネン追放の話とすると思うと、この旅に関する話を、特に戦闘に関する話はあえて控え、まずは雑談で距離を縮めようと思っていたのだが、
「あの、ごめんなさい。」
「何のことですか?」
「私、この前の戦闘で迷惑をかけてしまって・・・。」
「迷惑など一切かかっていませんでしたが。」
「でも私、アリッサが回復に行った時の、ほんの少しの間ですら持ちこたえられなくて。勇者なのに・・・。」
「それは気にするようなことではありませんよ。そのために俺たちがいるんです。むしろ安心して背中を任せてほしいです。」
すぐに戦闘の話になってしまった。ジャスティーンは純粋で責任感が強いから些細なことも気に病んでしまう。こうなると流石に今すぐにドヤネンの話を切り出すには唐突過ぎるか。
とは言えこのままこの話を続けていては間を失う。
「それに、こう毎日戦闘ばかりだと心が荒んでしまいます。俺たちは何のために戦っているのか、何を守ったのか。一息つく時も必要ですよ。」
と、ありきたりな方便を言ってその場を誤魔化した。
他愛ない雑談をして少し歩くと目的の店についた。
予約待ちの高級店というだけあって中々の店構えだ。
入ろうと思ったが、ジャスティーンの様子がおかしい。
「どうかしましたか?」
「えっと、ここ、なんですか?」
「はい。そうですよ。・・・何かありましたか?」
「あの、本当に言いにくいのですが、私、こういうところはよくわからなくて・・・。」
こういうところ?
「できれば、その、もっと身の丈に合ったところというか、とにかくこういうところは、その・・・。」
よくわからないが、とにかくここは気に食わない、ということか?
ここ以上の店は中々ないと思うが、確かに世界を救う勇者だからな。
オーナーへの義理立ては今度俺が適当に来て果たすとしよう。
「わかりました。では別の店にしましょう。」
さて、どうしたものか。
他にジャスティーンが満足してくれそうな店は・・・。
記憶を総動員させこの町の飲食店を検索する。
・・・いくつか候補はあったが、また店の前で嫌だとなると無駄足させてしまう距離が長い。
まずは望む店や料理の系統だけでも聞き出して・・・。
「あの、実は気になっていたところがあるんですが、そこでもいいでしょうか?」
なるほど、既に目的の店があったということか。ピンポイントでそこを当てなければならないとは、エスコートするにもレベルが高いな。流石は神に選ばれた勇者ということか。
「ええ。私もそこに興味が出てきました。行きましょう。」
しばらく歩いた先は、明らかにレベルの低い店が立ち並ぶエリア。
バラック小屋とも言うべき建物、細い路地、道にまでせり出しているテーブル、客はいかにも金も学もなさそうな男たち。
このようなところに隠れた名店が?そう思っていたが
「ここです。どこにしましょうか?」
と言われてしまった。まさかこの掃きだめの中から隠れた一流店を探し当てろと言うのか?
もしや俺は今、試されている?
どこだ?軒先を見渡すが、どこも違いがあるとは思えない。客は向かいの店の煙を浴びながら酒を飲んでるような奴ばかりだ。まさか地下?2階?そう思ったが、それらしきものはない。
こうなったら一か八かだ。
「ここはどうでしょうか?」
俺は最も客の入っている店を提示した。
「はい。ではここにしましょう。」
自信はないがジャスティーンの顔を見るに一先ずは合格?と思っていいのだろうか。




