第十七話 翻意と新たな決意
「一時はどうなるかと思いました。テスタスさんはどうして気づいていたのですか?」
「確かに奴の擬態は一見完璧に見えます。しかし目を凝らせばどんなものにも欠点というものはあるものです。道中見かけた岩がこの地域の風土にしては不自然な形をしていたのです。それと、さっき手近な岩に石を投げ傷をつけたのですが、その時についた傷が他の岩にもついていました。恐らく奴らの本体は一匹だけで、他は分体だったのでしょう。とすると一匹一匹倒しても切りがありませんから、ノコに全てを焼き払ってもらったのです。」
「へーー、なんだか凄いですねぇ。」
ノコの爆発魔法で周囲は完全に荒野と化していた。爆心地であるノコの近くであっても、リーシアの結界魔法がなければ俺たちもただでは済まなかっただろう。
真に恐るべきはこの仲間達だ。味方で良かったと心から思う。
しかし何か引っかかる。
何だ?
「凄いね、ノコさんの魔法は。あんなにいたモンスター達が跡形もないや。」
ドヤネンはそう言いながら様子を窺う。
跡形もない?いくらノコの魔法が強力といっても、あれだけいたモンスターが?と言うことはアレは本体が死ぬと消えるタイプなのだろうが。
それにあれだけの数に囲まれていたことにも引っかかる。
そもそも、あれだけの数の岩があったか?
何か・・・、何か嫌な予感がする。
俺が念のため周囲を見回していた時、
「うわぁ!」
ドヤネンの声に振り返ると、さっきのカマなんとかが地面から飛び出しドヤネンに鋭い爪を突き刺そうとしていた。
「ドヤネン!」
まずい、間に合わない・・・。
ドス!ブシュゥ!
強い勢いで人の肉を貫く音がした。
ドヤネンの胸は無残に貫かれたかに思えた。しかし
「アリッサ!」
アリッサが敵とドヤネンの間に入り、身を挺して庇っていた。
「く、うぅ・・・。」
「ア、アリッサさん!」
ドヤネンを庇ったアリッサは肩口を貫かれ、その場に倒れた。
まずい、ここまで接近されては俺とノコの魔法は味方に当たってしまう。
アリッサの怪我を見るにしばらくは戦えん。
未だドヤネンも敵の近くにいる。
「カッカッカッカ・・・。よくもやってくれたなぁ、まさか俺様の術を破るとは思わなかったが、まぁ問題はない。結果的に貴様らを始末すればいいのだ。」
「や、やめろ!!」
俺は夢中でドヤネンとアリッサへ手を伸ばす。
もし俺の手が届いたとしても非力なこの腕では何も守れない。
だが無意識に体が動いていた。
その時「・・・心配ありません。」というジャスティーンの声が聞こえた。
「まずは一人ぃ!!!!」
カマなんとかがその腕を振り上げた時、
「ア、ギャ、ガァァァァ・・・・。」
奴はその場で真っ二つになって倒れ伏した。
一瞬何が起こったのかわからなかった。
瞬きする程の間にジャスティーンが敵を切り伏せたのだ。
「アリッサさん、大丈夫ですか?リーシアさん、回復魔法を!」
そのあまりの早業に、仲間たちが助かった安堵に、俺は茫然としてしまった。
リーシアが魔法でアリッサの治療をしている。あの傷では魔法で治し切るのは難しいだろうが、時が経てば完治もするだろう。
「―――――、――――――――。」
「ああ、やつの能力は擬態のみではなかったのだ。恐らく存在を認知されにくい能力もあるのだろうな。だから気配の察知すらできなかった。あれだけの数の岩に囲まれていても違和感がなかったのがその答えだ。掃除屋を自称するのも頷ける初見殺しだよ。俺も町でこの地域の風土に関する本を読んでいなかったら危なかった。だがもう安心だ。ここに死体があるからな、本体と見て間違いない。」
恐ろしい相手だったが、手札を切り終えた暗殺者が悠長に姿を晒す。強さへの自信が身を滅ぼしたな。
リーシアが賢明に回復魔法を使っているその横で、ドヤネンはオロオロとしていた。
アリッサは負傷したものの致命傷にはなっていない。
今回はまあいい。
だが今後が心配だ。
ドヤネンは弱い。
今後俺たちで守れるかどうか・・・。
それにドヤネンを庇って今度こそ誰かが命を落としてしまうかも知れん。
死者を出してからでは遅いのだ。
・・・ドヤネンの追放。
俺は以前とは別の意味でそれを行うべきであるとの決意を新たにした。
もう猶予はない。
事ここに及んでは根回しなどと悠長なことを言ってはいられん。
強引でも構わん。
皆に、そしてドヤネンに何と思われても構わん。
俺は嫌われ者になってでも、お前を守る。
幸い、次に向かうのは今まで魔王軍の攻撃を退けているという大きな国だ。
噂に聞く名高い神聖騎士団に協力を仰ぐのが目的だったが、この国ならドヤネンも生きていくには困らんハズだ。
滞在中に追放をするために、早急に皆の同意を得なければ。




