第十五話 苦悩そして心変わり
俺は衝動的に部屋を出た。
どこか行く当てがあるわけではない。
ただ、あの場にいることはできなかった。
廊下に出ると、ちょうど浴場から帰ってきたリーシアとアリッサが向こうから歩いてきた。
「あ、テスタスさん、そんなに急いでどうしたんで・・・きゃ!」
話ながらリーシアが何もないところで躓いて前のめりになる。
「おっと。」
だが俺はリーシアが転ぶことはわかっていた。
そして、受け止めるように支えるだけでは押し倒されることも予測していたので、逆に押し倒すような勢いで支えたのだ。
「あ、ありがとうございます。」
「いやなに、足元には気を付けて。アリッサも、今日は冷えるから寝冷えには注意したほうがいい。」
「え、あ、うん。」
二人と別れロビーに行くとジャスティーンとノコがいた。
「何にしようかな。ノコはどうします?」
「――――――――――――。」
「おススメですか。でもこのおススメ、ほっぺたが落ちる美味しさって書いてあります。ほっぺたが落ちたら大変ですよ?」
「―――――――。――――――――――――。」
「そうなんですか?だったらどうしてこんなこと書くんでしょう。」
どうやら夜食でも食べるつもりなのだろうか。
まあ俺には関係ない。二人の事を横目に宿を出た俺は人気のないところに行き、腰を下ろした。
ドヤネンの話を聞いた。
まさかあいつにそんな過去があったとは。そんな理由があったとは。
その言葉が真実とするならば、奴は、なんと、なんと・・・
素晴らしい人間なのか。
詳細なことは今一つわからなかったが、奴が少女を庇って命を落としたことだけはわかった。
なんと見上げた男よ。
そして神から望む力を与えられたと言う。それは人間性を認められてのことだろう。
凡百な人間ならば比類なき力を願い、その力でもって覇を唱えるだろう。
もしくは無双の力を持ちながら何の責任も持たず気楽に生きるかだ。
しかし奴はその力を欲しなかった。それはなんと高潔な精神だろうか。
力を持たないにも関わらず我々と共に魔王に立ち向かうその心意気は正に勇気ある者。
いや、何の力も持たぬドヤネンこそが真の勇者だと言える。
そんな勇者を、俺は何も知らぬとはいえ追放をしようとしていたなど、なんと浅はかだったのか。
自分で自分が恥ずかしい。
・・・ああ、涙が止まらぬ。
おおドヤネンよ。勇者ドヤネンよ。
俺はお前と言う男と出会えたこの幸運を神に感謝するぞ。
もう追放などということは考えぬ。
俺はお前と共に歩んでいきたい。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
しばらくして頭の冷えた俺は部屋へ戻った。
もう随分と遅い時間だが、ドヤネンが起きていたら何と言おう。
そう思って部屋の扉を静かにあけると、なんとドヤネンは寝ていたのだ。
俺は心から安堵した。
もしドヤネンと顔を合わせてしまったら、この心より溢れる涙を止められる自信がない。




