第十三話 ドヤネンの真実1
町に着いて数日。
宿の部屋がドヤネンとの相部屋だった俺はある日の夜、一対一で酒を酌み交わす約束を取り付けた。ドヤネンが自主的にパーティーを抜けるように促すためだ。
「ぼ、僕、お酒なんて飲んでいいのかなぁ・・・。」
「なぜだ?お前はもう16を過ぎているだろう?」
「う、うん。僕は・・・、そうだね。でも、うん。」
「何をわけのわからんことを言っている。さあ飲め。これも大人の嗜みだ。」
なぜか愚図るドヤネンを促し乾杯をする。
ドヤネンは口をつける程度で飲むペースは随分ゆっくりだ。
まあ酒との付き合い方までとやかく言う事ではないが。
「最近の魔王軍の攻撃は苛烈を極めているな。」
「そ、そうだね。勇者のパーティーってことが知られ始めているんじゃないか、な。」
「確かに。今までは奇襲が成功していたが、今では奇襲をかけられる側になってきている。何か考えておかねばならないだろうな。・・・だが今日は折角の機会だ。旅のことは忘れ、大いに飲み、語り明かそうではないか。」
「う、うん。」
ドヤネンに更に酒を勧めると共に自分もいくらか飲み進める。
俺は今夜、酒に酔ってつい本音が出たという体でドヤネンに真実を突きつけ、心理的に追い込むことにした。
飲み始めてから随分と時間が経った頃、俺はドヤネンに切り出した。
「ドヤネンよ。お前は最近の戦闘についてどう思う?敵の攻撃は日に日に激しくなっていくというのに、我らの戦力が増強されるわけではない。もしこれで誰かが大怪我でもしてみろ。そいつは即お荷物になってしまうだろう。役立たずを庇いながらの旅は不可能だ。厳しいようだがもうそこまできていると思うのだよ、この旅は。」
「うん、そうだよね。僕にも直接戦う力があったらなぁ。こうなるってわかってれば・・・。」
ん?お前のことを言っているんだが?
どういうことだ?これだけ言われてまだ自分のことだと思えないというのか?
見るとドヤネンの顔が真っ赤になっている。まだ一杯も飲んでいないと思うが、弱いのだろうか。これ以上すすめるのは止めておくか。
「全くだ。戦う力がないというのはドヤネンよ、お前の問題だぞ。なぜお前は戦闘力を持っていないのにこの旅に同行したのだ?それにこれだけ一緒に旅をしていながらなぜ戦闘力が全く身につかないのだ?俺にはそれがわからん。」
戦う力を持っていないのはしかたがない。しかしこれだけ一緒に旅をして色々な経験を積めば自ずと何かしらの力を得るのが普通だと言うのに、ドヤネンは全く強くならん。
「それはちょっと言いにくいんだけど・・・。」
「なぜだ?何かやましいことでもあるのか?」
どうせ己の怠慢だろう。
努力を怠る人間の言い訳はなんと醜いものか。
「それは・・・、言っても信じてもらえないかも知れないから・・・。」
「何を言っている。信じるかどうかは俺次第だ。それを語る前から疑うということは俺を疑っているというのと同義だぞ。」
我ながら適当な言葉を並べているという自覚がある。
しかし見るからに酔っぱらっているドヤネンには十分な説得となったようだ。
「そう・・・だよね。ごめん。・・・話すよ。でも皆には言わないでほしいんだ。僕とテスタス君だけの秘密にしてほしい。」
そう言うとドヤネンは長々と語りだした。
その内容は俄かには信じ難い話であったが、それを語るドヤネンの表情から嘘ではないことはすぐにわかった。
認めたくはないが、一緒に旅をしていると、そのような下らんことをする人間かどうかくらいはわかってしまうものだ。
「僕はこの世界の人間じゃないんだ。異世界から転生をしてきた異世界人なんだ。僕の本当の名前は土野 燃。ドヤネンっていうのは僕のゲームでのユーザーネームなんだ。」
「そう。この世界に転生したんだ。前の世界で僕は・・・色々あって家に引きこもり気味になってたんだけど、たまたま外に出たんだ。そしたら道を渡ろうとしてる女の子がいて。その子は何も疑わずに普通に歩いてて。でも、少し先にある信号が黄色になった時、急アクセルをした車が見えたんだ。・・・僕は・・・僕が覚えてるのは車道に出てしまった女の子を歩道まで突き飛ばした、その瞬間の光景だけ。」
「その時に僕は死んだんだと思う。気が付いたら神様って人がいてね。異世界転生させてくれるって言ったんだ。望む力をくれるって言ったんだけど、その時の僕は他人が怖かったから、他の人にも関わらないでも生きていけるようなスキルばっかり選んでしまって。でもやっぱり誰かに必要とされたいとも思って。中途半端なスキル構成になった。まさかこうなるってわかってたら、もっと戦いに活かせるスキルを取っておけばよかったって後悔してるよ。」
「皆は凄く優しくて、感謝してるんだ。こんな僕を仲間に入れてくれて。僕はやっと人と接するのが怖くなくなってきて。戦闘系のスキルを全く取ってないから戦う力はないけど、でも、こんな僕でも少しでも皆の役に立ちたくて。」
「僕、皆みたいに努力をしてこの力を得たわけじゃないんだ。だから申し訳ないなって思ってて。僕は本当に駄目な人間なんだ。だけど、諦めることで現状に満足したくなくて。」




