第十話 テスタスの計略 魔女ノコ2
店に入りメニューを開く。
外観同様、中々に雰囲気のいい店だ。
豪華すぎず、小ぢんまりと落ち着いた感じは小料理屋としての矜持すら感じる。
「ノコは何にするか決まったか?」
「―――――――。――――?」
語尾が上がった?ということは疑問形・・・、ってことは
「俺は無難に今日のおススメにしようかな。美味しそうだし。」
「―――。――――――――――――。」
このくらいの長さで終わる言葉・・・。
同じのにする、って言ったのかな。・・・多分。
「じゃあもう注文していいかな?」
「―――。」
間違いない。同じの、だ。
「すみません。注文を。」
俺は店員に今日のおススメを2つ注文する。
注文が済み、メニューを閉じたとき、
「―――――――――――。」
ノコが口を開いた。店員に向かって。
それを聞いた店員は「え?」と目を泳がせながら聞き返した。
マズイ。
この年配の店員もノコの声を聞きとれないのかも知れない。かくいう俺も全くわからない。
「―――――――――――――。」
ノコはもう一度注文らしきことを口にするが店員は全くわからないようだ。
これはなんだ?何を注文した?俺はすでにメニューを閉じてしまった。今また開いたら不自然じゃないか?だからと言ってもメニューを見なければ類推することも難しい。
「――――――。―――――――。」
そう言って、ノコは少し悲しそうな顔をした。
自分の言葉が、声が通じていないのだと察したのだろう。
彼女にこんな顔をさせていいのか?
いいわけがない。
俺は身を乗り出し、
「ん?ノコはまだ追加で頼むのか?」
と、今気づきましたという体で間に割って入りながら、メニューの付近、どことも言えない場所に人差し指を漂わせた。
「――。――――、――――――――。――、―――――。」
そう言ってノコはメニューの一部分を指さした。
彼女は一度諦めるような素振りを見せた。なら、
「頼まないのか?でも言われてみると俺もこれとか気になってきたな。頼んでいいかな?2人で半分ずつ食べよう。」
「―、―、―――――。」
「・・・すみません、この揚げ物とハーブのトースト、あとスープ二人分も追加でお願いします。」
明確にはどのメニューかが判別できなかった。ならその周辺のものも頼んでしまえばいいのだ。
店員は席を離れた。ノコの態度を見るに間違いはなかったハズだ。何とか乗り切ったかな。
「―、―――。」
「ん?」
何か言ったのか?やけに高い上にか細いせいで本当に聞き取れない。俺はつい無意識に聞き返してしまった。
「――――。」
ダメだ。全くわからない。前後の会話がないと本当にわからないぞ。
ノコの表情から予想しようにも目を泳がせながら俯いているだけだ。
よく見ると耳が少し赤いが、そんなことは何のヒントにもならない。
ダメだ、わからない。
・・・とりあえず小さく笑顔をすることにした。
相手が何と言っているかわからない時は小さく笑顔、これに限る。
するとノコは少し身じろぎした後、
「―、―――――――――――。」
と言って席を立ってしまった。
今度はなんだと思っていたが、その姿を見送るとトイレに向かって行った。
そうか、トイレに行きたかったのを言い出しづらかったのだな。
だがその後もノコは何かおかしかった。
何と言っているのかはわからないものの、その態度が変なのだ。
俺と視線を合わせようとせず、俺がノコを見るとすぐに目をそらす。しかし視線は感じるのだ。
何か距離を取られているような、それでいてこちらの様子をうかがっているような。
また、どうも俺と2人きりでいることを避けているような気さえする。
とにかくそんな状態がしばらく続いたものだから、ドヤネンの話を切り出しづらくなってしまった。
ノコを取り入れることができればと思ったが、今日のところは一旦諦める他なさそうだ。




