第九話 テスタスの計略 魔女ノコ1
アリッサの取り込みは失敗した。とにかく、早く誰か一人だけでも味方にしなければならない。
一先ずアリッサは先送りにしておいて次はノコのところに行こう。
ノコは天才的な魔法使いだ。
年齢は10代なのだが、もっと幼く見えるほど小柄な女性。
回復魔法を使うことはできないが、その他の魔法全般、特に攻撃魔法に関しては俺をも優に凌ぐ程の豊富な種類を使い分け、しかもその威力は凄まじい。
その絶大な魔法力をもって、魔法という概念そのものとして魔女と呼ばれている。
まるで幼女のような見た目のノコだが、もし本気になれば小さな村程度なら数秒で焼き尽くせる程だ。
だからこそノコは自身の強すぎる力を制御するために常に自身を律している。
強い力を持っても驕ることなく、人々のために戦っているのだ。
そんなノコの優しさ、自律心、理知性は尊敬に値する。
知識こそ勉学を重ねた俺の方が優れている場面はあるが、こと判断と決断力に関しては俺もノコに頼ることがある。
パーティーの皆も本当にどうしようか困ったときノコに意見を聞く。パーティーの皆がその判断を頼りにしているのだ。
そんなノコを取り込むことができればドヤネン追放への大きな一歩となるだろう。
宿にてノコを探すがどこにもいなかった。リーシアに聞くと町に出たらしい。
普通なら探す当てがなければ諦めるところだが、ノコは買い物好きではない。
恐らく行先は・・・。
町のシンボルになっている大きな木、その木を囲む広場に行ってみる。
広場の隅、あまり人目につかないところを探してみると、ひっそりとした木陰、その下にある石に腰かけて幼子が本に目を落としていた。
「やあ、ノコ。偶然だな。」
ノコは俺の声を聞くと本から目を移し、少し気怠そうに俺を見上げた。
幼女と見紛う背格好をしているノコだが、その表情はとても大人びている。
切れ長でクールな目に見つめられると全てを見透かされているような気持になる。
「――?―――――。」
ん?何て?
「読書の邪魔をしちゃったかな。」
「―――。」
何て?
「そろそろ昼だ。せっかく外で会ったんだし、一緒に食事でもしないか?さっき良さそうな店を見つけたんだ。」
「――――――――――――。―、――――。」
ノコはそう言って立ち上がる。
だから何て言っているんだ?
「―――――?――――。」
これは・・・、OKって感じのことを言っているのかな?
「じゃあ行こうか。それにしてもいい天気だな。こんな日は確かに外に出たくなる。」
「―――。―――――――――――――――。」
ああ、彼女が何を言っているのか全くわからない。
彼女、ノコはその見た目のイメージ通りと言うか何と言うか、声が高い。
高すぎて超音波といっていいレベルだ。
わかる人にはわかるらしいが、俺には何と言っているのか全くわからない。
その特徴的な声は町に入ると心無い人に陰で笑われることもよくある。
彼女はその場では気にもとめていないかのように振舞っているが、夜1人になると枕を濡らすのだ。
俺はその姿を見てしまったことがある。
理知的である彼女も、その心は純真な少女のものだということだろう。
それでも彼女は自分自身は人に恥じる人間ではない、と気丈に振舞っている。
のだと思う。
会話が成り立たないので推測の域を出ない。
しかしその気高い精神に、理知的な性格に、そして愛らしくも美しい容姿に、心惹かれない男はいないだろう。
それは賢者と言われる俺も例外ではない。




