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第八話 テスタスの計略 剣聖アリッサ2

コンコン

「どうぞ。」

部屋に入ってきたアリッサの姿を素直に直視していいものか、それとも少しづつ目線を送ろうか、少し迷ったが俺は素直に直視することにした。

「・・・お待たせ。」

ああ、やっぱり。

「アリッサ、ちゃんと鏡視た?」

「?見てないけど。」

どうして見ないんだろう。

「上着、ボタンがずれてるよ。」

「・・・本当だ。」

アリッサは上着のシャツのボタンを掛け違えていた。

それも盛大に。

あまりにかけ間違えているから胸元が完全に見えてしまっている。どうして気づかないんだろうか。

「・・・お茶、いいにおいだね。」

アリッサはボタンを閉めるために一度外した後、茶葉の匂いを感じたようでそのまま俺の方へ歩いてきた。

「先にボタンを閉めた方がいい。前が完全に開いているよ。」

「・・・そっか。忘れてた。」


アリッサはボタンを閉めなおし、シャツをちゃんと着ることができた。

俺は一安心してポットにお湯を注ぐ。

茶葉が踊るように湯の中で混ざり合いながらゆっくり開いていく様子をアリッサは興味深そうに見ていた。

その様子が無性に微笑ましくて眺めていると、

「お茶、私が淹れるね。」

と言っておもむろにアリッサがポットに手を伸ばす。

「あ、俺が!」

ガチャン

・・・遅かった。

アリッサは手を滑らせ、ポットを落としてしまった。

「・・・こぼれちゃった。」

「火傷はしてないか?」

「・・・大丈夫。でも、拭かなきゃ。」

アリッサは自分のシャツの袖を使ってこぼれたお茶を拭こうとする。

「駄目だ!」

俺が強く怒鳴りつけるとアリッサはビクっとして手を止めた。

「あ、ご、ごめん、なさい。・・・私。」

怒られたと思ったんだろうか、シュンとしてしまった。

「袖で拭いたら腕についちゃう。火傷をしてしまうよ。」

「・・・ごめんなさい。」

「気にしないで。多めに買ってあるからお茶はまた淹れればいい。それよりアリッサが火傷しなくてよかったよ。でも今回のお茶は俺が招待したんだ。アリッサはゲストなんだから任せてほしいな。」

「・・・うん。あ、ありが、と。」

アリッサは唇を噛んで俯きながらこたえる。

やっぱり落ち込んでいるのだろうか。

ドヤネンの話をしようと思っていたが、こんな時に第3者を悪く言っても効果は薄いだろう。


「どうぞ。」

淹れたお茶を出すとアリッサは小さくお辞儀してカップを持った。

「・・・ご、ごめんね、私、不器用で。」

「誰だって失敗することはある。気にして委縮していたら逆にそのことに引っ張られてまた失敗してしまうかもしれない。今はお茶を楽しもう。」

「・・・ん。」

アリッサはとてもいい子だ。だからこそ不憫にも思う。

魔王討伐の戦士に選ばれてしまったことが。

そして・・・。

「・・・私、いつも皆に、迷惑かけてて、本当は、料理とか、したいんだけど・・・。」

ビチャビチャビチャビチャ

「アリッサ、カップ傾いてる!こぼれてるよ。」

「・・・え?ああああああ。」

テーブルに広がる香りに気づいたアリッサはカップの平衡を戻そうと勢いよくカップを傾けた。

反射的に傾けなおしたカップは平衡を通り過ぎて反対側へ、すなわち俺の方に向けられた。

そしてそのカップに残っていたお茶が俺の顔目掛けてものすごい速度で飛んできた。

ビシャ

「あっっっつっ!」

先日、巨大なポイズンドラゴンの前足を一撃で両断した凄まじい力でとんできた熱湯は、熱いと言うか、もう痛いの域だ。

「あ、あわわわっわあわ。」

アリッサはパニックになって椅子から勢いよく立ち上がった。

ガンッ

立ち上がるアリッサの膝が凄まじい力でテーブルにぶつかり、テーブルは物凄い勢いで天井に向かって舞い上がった。

そしてテーブルの上にあったポットが、先ほどの熱湯を受け顔を押さえ蹲っていた俺の頭に命中する。

「イテっ。」

そして中に入っていた熱湯は体をなぞる様にたれてきた。

「あっっっっっ・・・!」

服の中に入り込んだ熱湯は体をどう搔きむしろうとも全く冷めない。

肌に触れる温度は全く下がらない。

俺は床をのた打ち回りながら服を脱ごうとする。

「あ、だ、だいぢっっぃ!」

俺を心配して駆け寄ったアリッサの上から、先ほど跳ね上げたテーブルが降ってきた。

ガンッ!

「あっ・・・。」

アリッサは降ってきたテーブルにぶつかった衝撃で俺の上に倒れこむ。

アリッサに押さえつけられる形になった俺は服を脱ぐこともままならないまま、何が起きたのかわからないままに上半身を真っ赤に染めた。




「あ、ご、ごめ、わた、あ、えっと、ど、どうしよぅ・・・。」

「ああ、構わないよ。気にしないで。」

上半身がヒリヒリしている。早く回復魔法をかけたい。

「今日はもう休むことにするよ。アリッサは気にしないで部屋に戻って。」

「え、でも、わた、どうしよう、あ、薬。」

気遣いは嬉しいけど早く帰ってほしい。

「大丈夫。念のため後で体を見てみるけど、何かあっても魔法で治すから。気にしないで。」


結局、アリッサの取り込みはできなかった。

アリッサは本来は戦いを嫌い穏やかな暮らしを好んでいる。しかし神の祝福の弊害か、それとも彼女の生来のものなのか。家庭的な行動をするとき呪いのごとき不器用を発揮する。

不憫だ。

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