鬼丸の友達
私は意を決して朱天君の後ろに隠れると、持っていたペットボトルから水を出して手を濡らす。
そして何食わぬ顔で前に出た。
「すみませーん、あれ、学校側から聞いてないですか?退魔師協会に『ガシマさん』の調査依頼が来てたんですよ!私、ここの卒業生ですけど……先生とははじめましてですね。」
言うと、女性は「あれ?そ、そうだった!?ご、ごめんごめん……私、去年から配属になった体育教師の魚沼です。よろしく。」と右手を差し出してくる。
しめしめと思いながら濡れた手で握手すると……魚沼さんの手のひらに鱗が浮いた。
「朱天君!この人人魚だ……!」
大声で言いながら握った手を高く上げる私。
魚沼さんはまずい、といった具合に顔を歪め私を突き飛ばし逃げ出した。
おろおろとしている花田さんの横から凄い勢いで朱天君が抜け出し、あっという間に魚沼さんに追いつく。
そして、殴りかかられたのを華麗に回避し、逆に慣れた動きで彼女の動きを封じてしまった。
「凄い朱天君!護身術なんかいつ習得したの!?」
尋ねると、朱天君は「こんな展開もあるかと思って来る前にMeTube見といた!」と答える。
「相変わらず凄いね……」
そのポテンシャルに驚いていると、花田さんが怪訝な顔をしながら追いかけてきた。
その険しい顔を見て、「あ、その……すみません、俺、出しゃばって……」と呟く。
朱天君からすると、仕事で功績を上げることにすら恐怖心があるのだろう。ただでさえ花田さんは主導権を握りたがるタイプのように見えた。
(朱天君を傷つける気なら、私が許さない……!)
身構えていた時、花田さんはぱっと笑顔になり「すげぇじゃん2人とも!」と口にする。
「え……」
思っていた反応とは違い、朱天君も私も呆気に取られてしまった。
「茂木さんもよく人魚って気付いたし!?朱天君めっちゃ動けるし強いのな!なーんだ!あんたらめっちゃシゴデキじゃん!」
(もしかして……礼儀がなってないだけで、この人そんな悪い人じゃないのかな?)
なんて思いながら朱天君の顔を見ると、彼の目はキラキラと輝いている。
(ひとまず……よかった、かな?)
1件を終えて退魔師協会に報告してから帰宅する私たち。そして父から貰った茶封筒を覗いた朱天君は、「これなら……辞めなくていいよ、学校!」と嬉しそうに呟いていた。
――それからというもの、私たちは退魔師協会からの依頼を沢山受けるようになる。
そして花田さんとの関係も切れなかった。彼は私たちまだ受けることのできない高難易度の依頼を受けては「一緒にどうか」と頻繁に誘ってくれる。
しかも朱天君と花田さんはプライベートでもよく遊ぶようで、朱天君は持ち前の面倒見の良さから花田さんに色々教えてあげたりしているようだ。
いつものようにトークルームを確認していると、花田さんから任務に誘わる。しかしその内容がいつもより難易度の高い任務であることが分かった。
(これはちょっと……加賀魅先輩連れて行った方がいいかもな。)
加賀魅先輩と朱天君を連れ、魔者が勝手にねぐらにしていると噂の廃ビルまでやってくる。
しかし、またしても花田さんはやってこない。
「……太一君、遅いな。」
朱天君が時計を見ながら呟く。
「ねー……俺眠いし……先に討伐してよ?花田とかなんとか、いなくてもなんとかなるでしょ。」
加賀魅先輩が目を擦りながら言うので、先にビルへ入り任務を進めることにした。
結論から言うと加賀魅先輩の言う通りで、先輩と朱天君があっという間に魔者を制圧してしまう。
「おっす〜。あれ!?もう終わっちゃったの、早いね!?」
加賀魅先輩と朱天君が魔者を拘束していた時、花田さんがふらっと現れ呑気にそう口にする。
「……何、誰。」
加賀魅先輩が冷たく言い放つと、花田さんは「あ……この人?最強の使い魔って……す、すんません……遅れました。」と言いながら縮こまった。
「いや俺に謝られても困るし、2人にも謝りなよ……あと、拘束くらい手伝ったら。」
加賀魅先輩は珍しく厳しい態度で吐き捨てると、少し離れた場所に移動してしまう。
「あー……太一君、俺んとこ手伝ってよ。」
呆然と立ち尽くす花田さんに朱天君が声をかけると、花田さんはまたヘラヘラとした態度に戻り朱天君に駆け寄った。
「いやーまじ凄かったしこの前!妹がぬいぐるみ欲しがってるって言ったら爆速で取ってくれてさー。しかもこの前鬼丸といたら逆ナンされちゃったし!」
拘束中、ペラペラと喋る花田さん。遅れて来た人の態度じゃないのもそうだが、内容も少しだけ心に引っかかった。
(なんか……友達と遊んだエピソード話してるん……だよね?)
違和感を覚えることもあったが、朱天君が楽しそうな手前あまり口を出す気にもなれない。
退治した魔者を全て縛り上げてから息をつくと、「よし、今回の任務も終わったし報告行くか……そうだ太一君。」と花田さんを見る。
「んぁ?」
「30分以上の遅刻、今日で4回目。普通に来るの目標にしない?」
朱天君が言うと、花田さんはヘラヘラしながら「でも俺社不だしクズだからさー」と笑っていた。
「『社不だから』『クズだから』何なの?そうやってできないのを自分のハードル下げることで解決しようとすんの、勿体ない。太一君やればできるんだし。」
朱天君は真っ直ぐな眼差しで花田さんを見つめる。その時ヘラヘラしていた花田さんの笑顔が、ようやく少し引き攣った気がした。
言葉はきついが……最終的に遅れたりすることで後々困るのは花田さんだ。堂々注意してくれる朱天君はかなり優しいのかもしれない。
花田さんはその日、解散する時まで一言も発さなかった。
「花田だっけ?あいつなんかおかしいよ。あんま関わらない方がいいかも。」
朱天君、花田さんと別れた帰り道。駅のホームにて加賀魅先輩が不機嫌に言う。
「え?ああ……確かにあの人、なんか妙ですよね。」
花田さんは朱天君に嫉妬したりしない人だが、何かが引っかかる。嫉妬はしない代わり、もっと面倒な状態……朱天君の才能にタダ乗りしている、みたいな……そんな感じがした。
「一旦あいつとの仕事は全部断っていいんじゃない?鬼丸、褒めてもらえてちょっと嬉しそうだし。あ、電車来たから俺はこれで!」
加賀魅先輩はそう言い残して電車に乗り込んだ。
……
帰宅後、リビングのソファに座りスマートフォンをいじっている麗華さんに「ただいま帰りました。」と挨拶する。
麗華さんは私を見ると、バツが悪そうに顔をしかめた。
「な、なんですか!?もしかして臭かったとか……」
「違うよ。さっき退魔師協会から注意喚起があったんだ。ほら、説明してあげるからおいで!」
私は麗華さんの隣に腰掛け、促されるまま彼女のスマートフォンの画面を覗き込む。
「ほらこれ、退魔師協会で配ってた純銀のクロスとか数珠あるでしょ?それがフリマアプリに出品されてんのよ。で、こういうのはお控えくださいって警告が回ってたわけ。」
麗華さんが見せてきたスクリーンショットには、本当に退魔師協会から配布されたものが出品されているページが映し出されていた。
「うわ……ひどい。モラルないですねこの人。」
「で、ここからが問題。そのユーザーが気になったからちょいページを覗いて見たんだけど……このタイダイに見覚えない?」
私は「T」というアカウントが出品している商品の中に見覚えのあるTシャツを発見してしまう。
そして、大量に出品された「ぬいぐるみ」を見て、思わず口を被ってしまったのだった。




