読めない男
「な……ちょっと待ってそれどういうこと!?」
私は朱天君にずいっと近付き問い詰める。
「うわ、近い……!いや、見たでしょあの感じ、あんまり裕福じゃないんだって。俺もたまにバイトしたりするけどさ、大学行く余裕とかそんなにないんだよね。」
「いやでも、わざわざやめなくたって……高校は卒業しておいて損ないよ!」
「俺こういう時のためにもう高卒認定資格持ってるから、働きながら通信大学出るのもありかと思うんだよね!そしたらその分生活楽になるし。」
(い、いつの間にそんな……)
「でも勿体ないよ、朱天君は凄い頭いいし、何でもできるし?将来大企業とかに全然務められる人じゃんか。
もうちょっとだけ考えてみようよ!要はさ、お金を稼ぎつつ学業を両立できればいいんだもんね!」
朱天君の将来の為も勿論あるが、彼まで居なくなってしまったら私はもう生きていけない。なんとか頭を回転させていた時、街灯を反射して光る朱天君の耳飾りが目に入った。
「……あ。」
私は現在、加賀魅先輩と共に退魔師としての仕事をこなしている。そして危険な任務を達成した時、加賀魅先輩に分厚い給料袋が渡されていたのを思い出した。
(毎回ではないけど、ごくごくたまにあるんだよな。轟鬼の件を解決した時も私かなり貰っちゃったし……もしや、退魔師はお金になるのでは!?)
「……朱天君!駅までって話だったけどこの後うち来ない!?いい話があるの!」
傍から聞くと怪しい勧誘にしか聞こえない誘い文句だが、朱天君は「まあいいけど。」と了承する。そして近くのクレープ屋さんに立ち寄ると、何個か買い込んだ。
「気を遣わせちゃってごめん……」
「いいよ、俺が好きで寄ったんだし。」
「ここのクレープ美味しいよね!四角いから食べやすいし、もちもちしてて!……あ、来週から桃フェアやるんだ。旬だな〜」
私はチラシを抜き取ってから自宅へ向かった。
「え?仕事余ってないかですって?」
私は帰宅してすぐに母を頼る。朱天君は「お邪魔してます。」とだけ言うとクレープの入った箱を母に差し出した。
「あらー!美味しそう、わざわざ悪いわね。」
母はニコニコしながら冷蔵庫にそれをしまい、虹色の皮のクレープを上の棚に隠す。
(誰も取らないわよ……)
同級生男子が隣にいるというのに食い意地を隠さない母を恥ずかしく思いつつ、私は「朱天君も使い魔だし、戦闘の素質はあると思うんだ。あと、頭もめっちゃいいの!仕事を任せて貰えないかな?」と尋ねた。
「あるわよ、丁度。ちょっと変な案件だけど……他の退魔師とペアでやるから難易度は高くないかな。」
「ほんと!?やりたい、やらせて!」
私はぴょんぴょん跳ねながら母に懇願する。
「そうね、私他の案件が重なって断ろうかと思ってたし……推薦してみる。」
母がそう言ってくれたことで、私と朱天君は顔を見合せガッツポーズをした。
……
母が譲ってくれた任務は、私たちの通う「駕島高校」の付属、「駕島中学校」に「ガシマさん」という怪異が出るという噂があるので調査してほしいというもの。
麗華さん曰く「怪奇現象の原因は大抵魔者」。オカルト的な事案まで退魔師協会に相談が来るらしい。
朱天君の相談を聞いた翌日に退魔師協会から許可が降り、私は正式にその任務に就くことになる。
夕飯を食べながらその報告を受けた時、麗華さんが「誰とペア組む予定なの?」と母に尋ねた。
母が「えっと、花田くんって子。知ってる?」と答えると顔を歪める麗華さん。
「花田、あいつちょっと評判悪いから気をつけて。昔はあんなんじゃなかったんだけど……」
麗華さんは警戒したような態度でそう耳打ちした。
――任務当日、私と朱天君は駕島中学校まで赴く。そしてしばらく待っていたが、花田さんらしき人は待ち合わせ時間を大きく過ぎても現れない。
「待ち合わせ時間、間違えた?」
「いや……合ってると思うぜ。俺も確認したもん。」
30分程待機していると、フラフラと同世代くらいの男がこちらに歩いてくる。
緩いパーマをかけたプリン頭の彼は、ヨレたスクールシャツの下に目がチカチカするようなタイダイのTシャツを着込み、コンビニに履いていくようなサンダルを履いていた。
(あれ……これから任務……だよね?)
「おっすー、退魔師ちゃん?うわJKかよ。テンション上がる〜」
この人が花田さんではありませんようにと願ったが、セリフ的にも彼が今回のバディで間違いないようだ。
「お、お疲れ様です、茂木桃子です!こっちは使い魔の朱天君。」
「はじめまして!」
朱天君が握手を求めると、「あ、おれ社不だから堅苦しい挨拶とか無理。逆に?そっちもタメでいいよ。俺花田太一、たいちくんとか呼んでいいから!え、てか女の子何歳?」と朱天君に目もくれずこちらに問いかけてくる。
「17です……けど……」
「うわ1個下!?じゃあ俺リーダーな!それ、噂の最強の使い魔?」
「いえ、彼は今日初めて実戦に参加する予定の使い魔です。」
答えると、花田さんはなぜか胸を撫で下ろし「あーね、今日いないんだ……じゃあ俺先導な!任せてよ。」とグッドサインをしてみせた。
「ちと遅れちゃったけどね〜?ほら、遅れてごめんとかそういう雰囲気出てくるときまずくなるじゃん。から今日は楽しくやろうな!」
花田さんは校門の柵を開けるともはや言い訳なのかもわからない語句を並べ学校の中に入っていく。
「なんか、変わった人だね……」
青い顔で朱天君が言うので、私ははっきり「もうちょいはっきり言ってもバチは当たらないよ」と告げた。
すると朱天君は小声で「あれ遅れた側のセリフか?」と疑問を口にする。
「絶対違う……今日、ちょっと嫌な予感がするわ。」
緊張した面持ちで花田さんに続く私たち。中学校の中に入ると、人のいない暗い玄関に出た。
「ガシマさんの噂だけどさ。足のない怪異が追いかけてきたとか襲ってきたとか、そんな報告が入ってんだって。」
資料を眺めながら概要を伝える花田さん。
「足の無い怪異かあ……それが魔者とするなら、下半身ヘビの魔者とかいましたよね。」
私が言うと、花田さんは「そうなの?怖いね!」とズレた回答をする。
「……今学校の掲示板で見つけたんすけど。ガシマさんって魔力を要求してくるんですね。『魔力を差し出さないと襲われる』って書いてあります。」
朱天君は自分で調べた情報を新たに提供してくれた。
「えっ!何それ重要じゃない!?」
私も駕の高校の掲示板アプリを開く。
「ほらそれ、『駕島高校都市伝説スレ88』ってやつ。そこに『付属の中学でガシマさんって変なおばけがいる』って書いてあるし、付属組の子が結構反応してる。」
「ほんとだ……しかも盛り上がってるの、私たちの1つ下の世代の子だけだね。」
「ガシマさんは場所でいうとC棟?付近によく出るらしい。」
朱天君が追加で情報をくれたので、懐中電灯を点け「私付属組だから場所わかる、行ってみよ!」と2人を先導する。
C棟は体育館などの運動スペースが集まるエリアで、教室らしい教室は1つもない場所だ。
(そんなとこで魔者は何を……)
考えていると、廊下でキュッ、とゴムが擦れる不快な音が響いて振り返る。
「びっくりしたぁ……!めっちゃ濡れてんだけど床!」
花田さんが喚くので懐中電灯で床を照らすと、C棟に続く廊下が点々と床で濡れていた。
「雨漏り?最悪だなこの学校。」
(濡れた床、足の無い怪異、C棟に現れ、魔力を欲する行動……)
ハッとして、私が2人に正体がわかったと話そうとした時。C棟に続く扉から人影が現れ私と花田さんは悲鳴を上げる。
「わっ……なーに、君たち何してるの?」
よく見ると、見覚えのないジャージ姿の綺麗な女性が立っていた。




