私の家族
スタイリストさんは淡々と採寸を終えると「わお、思ったよりサイズ合ってるよ。これならドレス、あんまり直さず入るかも。」と口にした。
「ドレス……?」
不思議に思っていた時、アシスタントさんがいそいそと何かを運び「持ってきました!」と合図する。
振り返ると――そこにはあの特別展示で飾られていた、あのウエディングドレスがあった。
「セクハラになっちゃうから改めて事前確認ね、茂木さんあれ着たい?ウエディングドレス姿を結婚前に見られたくないって子もいるからさ。」
私はまた、フラフラとウエディングドレスに吸い寄せられる。白くて、フワフワで、白いバラを逆さにしたみたいなチュールに、煌めく宝石。
もしお姫様がウエディングドレスを着るなら、きっとこんなドレスだ。そう思える程華やかなドレスに再び心奪われる。
「……着たい……です。凄く……素敵だから。」
大勢に手伝ってもらいながら、ウエディングドレスを着用しようと試みる私。ドレス全体にボリュームがあり、想像よりも苦戦してしまう。
「よし!ちょっと歩いてずり落ちないか確認して。」
裾を少し持ち上げて貰いながら、私はぎこちない動きで歩き出した。するとスカートに散りばめられた宝石が煌めいて、それを見るだけで心が踊る。
「よし、大丈夫だね。メイクさん呼んで!」
スタイリストさんが呼びかけるも、入ってきたのは遥だった。
「ヘアメイクとメイクは僕が担当しまーす!」
遥は笑顔で言い放ってから、テキパキと道具を広げていく。
「大丈夫なの?」不安を口にすると、遥は「任せとけって。お前に何が似合うかは、幼なじみの僕がよく知ってるんだぜ。」と言いながらメイク道具を取り出した。
そして凄まじい早さでメイクとヘアセットを終えると、アシスタントさんたちと一緒にヴェールを装着する。
そして仕上げに、セットした髪の上にティアラを差し込んだ。
「……いいじゃん、めちゃくちゃ似合ってる!鏡見てみろよ。」
用意してもらった姿見を覗くと……そこには、憧れのドレスに身を包んだ美しい自分の姿が映っていた。
(凄い……!ドレスに負けてない。私、お姫様になっちゃった。)
「今日、加賀魅先輩はただ渡すだけのつもりみたいだから?着てるとこ見せてサプライズすることになったの。」
「えっ!?てことはドッキリ!?」
「そうなるな、放送はしないけど!」
遥がケラケラと笑い飛ばすと同時に、チャペルの扉が開く音がする。
「来た!合図したら出ていけよ。」
チャペルの中で花束片手にソワソワと円を描くように歩く加賀魅先輩を見つけ、緊張感に襲われる私。
遥の合図に足がすくんでいると、彼は私の背中を押しながら「大丈夫、自信持て。僕たちがお前を……世界一綺麗にしてやったんだから。」と告げる。
少し泣きそうになったのを我慢しながら、勇気を出して加賀魅先輩の前に出た。すると、私が泣くよりも先に先輩は静かに涙を流し固まってしまう。
「……変でした?」
尋ねると、加賀魅先輩は大粒の涙を流しながら「めちゃくちゃ……可愛いし、綺麗で……びっくりしたあ……!」と言う。
「それ……そのドレス……茂木さん、すっごいキラキラした目で見てて……俺、頑張ってお金稼いで買ったんだ……!」
先輩は、子供のように泣きじゃくる。貰い泣きしてしまい、私の目にも涙が滲んだ。
涙を拭ってから先輩に思い切り抱きつく。そして「嬉しいです、本当に。」呟くと、先輩も私を抱き返した。
「いいの?これだと俺との結婚式みたい……」
「いいんですよ、それで。」
「そっ……か……」
加賀魅先輩は息を整え、「茂木さん、俺ね……ずっと誰かに何かしてあげることって好きじゃなくて、面倒見てもらったりする方が楽じゃねって思ってたんだ。」と語り出す。
「……はい。」
「でも、茂木さんに会って初めて……この人に返したい、とか……何かしてあげたいって思うようになったんだ……これ、多分愛情なんだよね……?」
「……そうですね。」
「茂木さんは、俺に……恋も、愛情も全部教えてくれた人なんだよ。だから……だから、ね……絶対、幸せにする……!『俺が』、君を幸せにするから……!」
言い切ってから、また泣き出してしまう先輩。私がその涙を指で拭うと、彼は跪き「茂木さん、俺の……家族になってください!」と言って花束と小さな箱を渡してきた。
(まさか、指輪の箱?)と思い花束と箱を手に取る。しかしそれは指輪の箱ではなく、私の推し声優のサインが入った目覚まし時計だった。
「え!?こんなのどこで……!?ああそうか、ミスターコンの景品……」
「茂木さん、俺からそれ貰っても喜ばないかなと思ってずっと渡せずにいたんだけど……今日、もし来たら渡そうと思ってて。」
跪いたまま真っ赤な顔で俯く加賀魅先輩が可愛くて、私は彼を立ち上がらせると、優しく頬を撫でる。
「自分じゃいけないのかもしれない」なんて悩んで遠回りが続いた私たちは、想像よりもお似合いの2人だったようだ。
「……先輩、病める時も、健やかなる時も。私のこと好きでいてくれるって、誓ってくれますか?」
そう尋ねると、先輩は「誓うよ。」と答えて顔を近付けた。
絨毯に伸びる影が1つになった時、チャペルの鐘が鳴る。
それはまるで、2人の心が通じあったことを祝福するような音色だった。
★ ★ ★ ★
――7年後。
「加賀魅君、君のポスター届いたけど確認するかい?」
リビングで桃子の父が尋ねると、加賀魅は「え!?本当ですか!見ます見ます!」と満面の笑みで答えた。
加賀魅の卒業後、退魔師協会とTIMEは提携する。そして自身が魔者であることを明かし退魔師協会の広告塔に抜擢された。
加賀魅の高い好感度と知名度のおかげか、魔者被害は近年減少傾向にあるという。
「ポスター、せっかくかっこよく写ってるし飾っておくか。この辺とかどうだい?」
「いい感じです、お父さま!」
白い壁に加賀魅先輩の顔がデカデカと写ったポスターが飾られる。
その真下には宝石を散りばめたドレスを着た桃子と加賀魅の写真が立てられており……その隣の写真には、同じドレスを着た桃子と白いタキシードを着た加賀魅が、指輪を掲げながら微笑む姿が写っていた。
「あ、この写真!懐かしいなー。……お父さま、覚えてますか?俺茂木さんとキスしたあと、ドキドキしすぎて倒れちゃって、このお家に運ばれたの。」
「覚えてるよ。ウエディングドレス着た娘が泣きながら君を抱えてきた時は本当にどうしようかと思ったね。」
「あはは!今じゃ思い出ですねー……桃ちゃん、明日退院だし美味しいもの作らないとなー。お父様、何がいいと思います?」
「桃子は甘いもの好きだし、ケーキとかどうかな。」
「いいですね!お祝いっぽい!あー、またあの子に会えるの、楽しみだな〜」
2人は話しながら部屋を出る。暗くなった部屋の中で、蓄光の目覚まし時計がほのかに光っていたのだった。
ここで加賀魅ルート終わりです。 改稿中状態の文がかなり混ざっていたので修正しました。
次は鬼丸で終わりです。




