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ウエディングドレス

私と加賀魅先輩は、授業終わりに校門に集合する。


「よし、行きましょうか。」


先輩と合流するなり、足早にバス停まで歩いていく。今日はとある場所を予約しているため、あまりゆっくり談笑してもいられなかった。


バスに揺られ10分と少し。目的地に着くと、加賀魅先輩は建物を見るなり青ざめてしまう。


「キッゾニア!!!茂木さん俺のこと何歳だと思ってる!?」


震えながら声を荒らげる先輩をどうどうと鎮めてから「今、高校生以上も参加できるキャンペーンを開催してるんですよ。別に先輩を幼児認定してるから連れてきたわけじゃありません。」と説明した。


「ほんと……?」と加賀魅先輩が不安そうに確認してきたので、私は「はい、先輩のこと、ちゃんと大人の男性だと認識しております。ここで職業体験すれば、先輩のやりたいこともワンチャン見つかるかと思いまして。」と答える。

先輩はそれを聞いてケロッと笑顔を見せた。


「でもさぁ、ここって職業体験とか言いつつ一応レジャー施設でしょ?俺大人の男だからさ、ちょっと楽しみきれないかもね。」


先輩は自信満々に言い切ると、鼻歌混じりに建物へと入っていく。


(幼児……やはり幼児だ。)


私はそんなことを考えながら後を追った。


「ねえねえ見てー!このパンすっごいふかふかに焼けた!」

「この変なメガネでも俺かっこよくない!?惚れた!?」


加賀魅先輩は入る前のイキりは何だったのかと言わんばかりにキッゾニアを満喫している。

職業適正に関して言えば、彼はセンスがいいのでアパレル系の営業も上手いし、料理もできるから飲食店系にも適正がありそうだ。


「あ、レジの計算合わない……」


逆に、事務系の仕事は壊滅的だった。


「先輩、結構色んなとこ体験しましたけど、どこが1番楽しいとかありました?」


そう尋ねると、「難しい計算がないとこはみんな楽しかったよ。」と想像通りの答えが帰ってくる。


(ふむ、適正は分かったし一旦退くか。)


キッゾニアから出ると、次は街に連れ出しカフェやアパレルショップを回る作戦に出た。


カフェで「このコーヒーならどのケーキが合いますか?」と聞いてみたり、アパレルショップに赴き「私に似合うのはどれですか?」と尋ね反応を見る。


加賀魅先輩はわかりやすい説明と共に、とても需要に合ったオススメをしてくれた。特に、アパレルに関しては本人のビジュアルも後押しして「こんなオシャレな人が言うなら」といくつか実際に購入してしまったくらいだ。


(うーん、やっぱり加賀魅先輩が就職するなら服飾系……器用なら美容系もありかな?でも美容系は女性のお客さん多いだろうし……)


買い物を終えてショッピングモールをぶらつきながら頭を悩ませている横で、先輩は幸せそうに微笑んでいる。


「……あの。真面目に将来を考える時間なんですよ?何をそんなに浮かれてるんですか。」


呆れながらぼやくと、加賀魅先輩は満面の笑みで「茂木さんと遊んで、カフェ行って、服選んでー……今日めっちゃ楽しい!って思ってた!」と答えた。


「もー……デートじゃないんですからね。」


そう咎めたところで、私は特別展示のブースを見つけてしまう。

そこにはデザイナースクールの生徒が作った様々な衣装が並んでいた。


そこで一際目を引くのは、ランウェイの大トリを飾ったとされる純白のウェディングドレス。

マネキンの頭の上に置かれたティアラとヴェールのせいか、花嫁にも見えたしお姫様のドレスにも見えた。


「わー……綺麗ですね。キラキラしてて、ふわふわで……!」


まるで花に誘われる虫みたいに、私はウェディングドレスに吸い寄せられる。


「……茂木さんが着たら、似合いそうだよ。」


横で見ていた加賀魅先輩がそう呟く。


「え?え……、そうかなあ?」


そう答えるのと同時に、ウェディングドレスの後ろから男性の学生さんが現れ「わかります、絶対似合いますってー!」とフランクに声をかけてきた。


「うわっ!?ど、どうも。」


「えー、おふたりともカップルですかあ?憧れちゃいますよね、こういうウェディングドレス。」


学生さんは私と加賀魅先輩を交互に見てからそう語りかけてくる。


「え!?いやカップルじゃないです!普通に友達っていうか!」


そう焦って訂正すると、学生さんは半笑いで「あー……ね、そっすよね、やっぱ。」と歯切れの悪い返事をした。そして、どこか嘲笑するような眼差しをこちらに向けてくる。


(ん……?)


「これ、前の年の卒業生が作ったウェディングドレスなんすけどー!ほら、学生制作の分際でめっちゃ宝石とか散りばめちゃったから?誰も買わないんすよね。目立つから今回は置かせて貰いましたけどー。」


学生さんは、私に向けたものと同じ視線をドレスに向けながら言う。


「……買うとか、できるんですか?」


ふいに加賀魅先輩が尋ねると、学生さんは「できますよ!でもこれ……ふふ、なんと200万するんです。あはは!トータルだと400万すよ、400万!誰が買うんだよって思いません?ウケるでしょ。」と続けた。


(何こいつ……人が作ったものバカにして。)


加賀魅先輩は「そうですか」とだけ答えてから、名刺を引き抜き私の手を引いてその場を立ち去る。


「ねえちょっと、あの2人がカップルなわけないじゃん。」

「ごめんごめん、流石に女のランク低いか。」


その時、学生たちの心無い言葉と笑い声が聞こえてしまい、顔がどんどんと下を向いた。


(忘れかけてたけど……やっぱり私、先輩と一緒にいると悪目立ちするよね。)


きっとあのウェディングドレスを着ても同じ。圧倒的に綺麗な物を身につけても浮いてしまうだけだ。


(着てみたいなとか思っちゃって、恥ずかしい。)


自己否定スイッチが入った時、加賀魅先輩が「ねえ、今まで見てきた中で1番お金稼げるのって、どれ?」と尋ねてくる。


「え?えーと……お医者さん?先輩に向いてそうな範囲ならバリスタかな、資格取ればかなり安定するかと。」


なんの気なしに答えると、「それ、時間かかるやつでしょ?早めになれて給料高いのは?」と再び条件を設定してきた。


「え……えー……歩合制の営業とか、かなあ?先輩商品勧めるの上手いし。予測になりますけど、卒業すぐに就職するなら初任給手取り15万あたりかと……」


「うーん、物足りないな。」


(急に金を求めだした……?一体どうしてしまったんだろう?)


困惑していた時、ショッピングモールの出口付近で「そこの男性……黒髪の彼!ちょっといいですか!?」と声をかけられる。


振り向くとそこには、やけにかっちりとしたスーツを着込んだ中年男性が立っていた。


「わあ……!スタイルもいいけど、顔もかっこいい ですね!私、こういう者になります。」


私と加賀魅先輩に差し出された名刺には、「TIMEプロ 代表取締役」と書かれている。


(タイムプロ!?めちゃくちゃ大手の芸能事務所じゃない!)


詐欺を警戒し、「TIMEプロ 代表取締役」と検索をかけるも、出てきた写真は目の前の男のもので間違いなかった。


「あなた、凄くオーラを感じます!私スカウトはあまりしないのですが、思わず声をかけてしまいました。良ければ今度お話でも。」


男が熱量高くまくし立てるので、私は加賀魅先輩の顔を見やる。彼は少し考える素振りを見せてから、「ここに入ったら稼げますか?」と男に尋ねた。


「え!?ちょっと先輩!?」


男は驚きつつ、「……ええ、かなり好条件で迎える予定ですよ。もし良ければ、試しに読者モデルの仕事をしてみませんか?他社タレントの不祥事があって、丁度掲載枠に空きが出たんです。」と提案してくる。


「……話、詳しく聞きたいです。」


加賀魅先輩は思ったよりも好意的に、そう返事をした。

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