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広がる世界

こちら、共通から分岐した加賀魅のルートです。

「あーあ、大富豪また朱天君に負けちゃった。次は絶対勝つからね!」


猿方先輩が手札を机に放り出しながら言う。


猿方先輩の1件も片付き、麗華さんは私のお世話係としてこの学校に転校することとなった。そして猿方先輩もまた退魔部に入ることとなる。


「今日も遥君、来なかったね。」

ふと、麗華さんが心配そうに呟いた。


遥は部活に1ヶ月ほど顔を出していない。私は、猿方先輩の事件が解決した直後に「自分の気持ちがふらついた状態では告白を受けられない。」と朱天君や加賀魅先輩の告白を断っていた。

今もそれは変わらず、自分は誰が好きなのかいまいちはっきりしていない。


それでも、朱天君と加賀魅先輩はいつも通り私と接してくれていた。


「あ、茂木さん、要請来てる!」


突然、先輩が立ち上がる。そうだ、加賀魅先輩だけいつも通りとも違うかもしれない。

私は退魔部の皆に「ごめん、今日は先帰るね!」と言い残し部室を出る。


そして連絡のあった廃ビルにまで赴くと、周りを見渡した。


「誰もいねーじゃんか。」先輩が呟く。


「今回の討伐対象は狼男らしくて……満月の夜覚醒し、同じ職場の女性の靴を窃盗して隠すを繰り返していたらしいんです。ここは元々アパレルショップが入ってたテナントで……靴屋は4階!多分、そこにいます!」


階段を駆け上がり、4階に上がる私たち。その先で、予想通り毛深い魔者を見つけた。


「先輩、お気をつけて。」私が呟くと、加賀魅先輩はゆっくり頷いてから狼男を左手で指さす。そして、もう片方の手を後ろに引くと、電気でできた弓と矢が現れた。


先輩が手を離した瞬間、物凄い速さで雷の矢が狼男を貫く。


(今日も、全く危なげがなかったな。)


感心しつつ、狼男を拘束する。そう、加賀魅先輩は使い魔として大貢献してくれており……そのおかげで私の元に退魔師としての仕事が沢山舞い込むようになった。


「先輩、今日もありがとうございました!」


そう言って駆け寄った時一瞬、加賀魅先輩がよろけたのに気付く。


「大丈夫ですか!?……あ、もしかして魔力の使いすぎで……?轟鬼の時もそういえば補給してませんでしたね。」


「自分が思ってるより無理してたかも……」


私は弱々しく言う加賀魅先輩の手を握り、「帰るまで繋いでましょうか。」と提案した。すると彼はキラキラとした目を向けながら「いいの!?やった!手を繋いで帰るの、夢だったんだ!」と口にする。


(もう、急に子供みたいにはしゃぐんだから。)


私たちは手を握ったまま回収されていく狼男見送った。そして本部への報告を済ませると、上司である父の元に戻る。


帰るなりリビングに来るよう言いつけられ、先輩と顔を見合わせた。

加賀魅先輩をかなり警戒している父は、大抵報酬をさっさと渡してから「今日は帰りなさい」と突き返すのが恒例となっている。


「よくやった。最近桃子と加賀魅君の成績が良いと言われることが増えたよ。加賀魅君は高い戦闘力を有しているし、桃子はセンサーが弱い代わりに、魔者の行動理解が深いとの評価だ。……それで……加賀魅君はどうしてうちの娘の手を握っているんだね?」


父が不機嫌そうに加賀魅先輩の手に目線を落とす。


「あっ……ごめん、違うの!加賀魅先輩かなり魔力が消耗してたから、溜まるまでこうして手を握ってたんだ!先輩は悪くないよ。」


慌てて擁護すると、父はため息をついてから「まあいい。桃子が許しているなら今日のとこは見逃してやろう。本題に入るがね……加賀魅君、君は聞くところによると大学の推薦を取り消されたそうだが、進路は決まっているのかい?」と先輩に尋ねた。


「いいえ、特には……」


以前なら加賀魅先輩はここで「将来は茂木さんのお婿さんになります!」と満面の笑みで答え父を憤慨させただろうに、こんな煮え切らない答えが帰ってくるということは本気で悩んでいるのだろう。


「そうか。なら、退魔師協会の正社員にならないかい?役割はもちろん戦闘員になるが、今以上に福利厚生を整えられる。」


先輩は少し迷いながらも、どこか意を決したような顔で「俺、茂木さんに恩返しがしたいんです、だから……」と口にした。


私はそれを、「待って!」と遮る。


「……どうした、桃子。」


急に大きな声を出した私を、まん丸の目で見つめる父。


「加賀魅先輩、あのね。加賀魅先輩の将来の夢って何?」


「……いわ、ない。遥が戻ってくるまでは。」


加賀魅先輩は口を尖らせながらそう答える。ということは、彼の夢は相変わらず変わっていない。「幸せなお婿さん」或いは「茂木さんのお婿さん」なのだろう。


「じゃあ、今1番したいことは何?」


「茂木さんを幸せにすること。」


私はそれを聞いて頭を抱えた。大切な将来展望を、加賀魅先輩は私に全て預けてしまっている。

勿論本当に望むのなら拒否できる立場ではないが、私は加賀魅先輩がいなければ退魔師としてカスに等しい。


加賀魅先輩が正式に退魔師協会の一員となれば、使い魔という名目でほぼ生涯頼りきりになってしまうことだろう。


「先輩、よく聞いてください。私に恩返しがしたいって理由なら、あなたの主として許可は出せない。この仕事は危険だし、私はきっとこれまで以上に加賀魅先輩を頼ることになるから。」


加賀魅先輩の両手を包みながら訴えると、彼はキョトンとしながら無垢な瞳をこちらに向けてきた。


「どうして?もしかして俺が失恋した時のこととか考えてるの?ただの無駄な献身になるって。そんなことないんだって、失恋しても、俺の感謝の気持ちは変わらないのに。」


心底不思議そうに疑問を口にする加賀魅先輩。

私はそれに「そうじゃなくてね……先輩には、色んな世界をもっと知ってほしいんですよ。もう魅了は封じたから人前にも出やすくなったし、女の人とも交流できるようになった。

戦うだけが、私だけが、あなたの未来じゃなくなったんです。」と切り返す。


「別に俺、他に選択肢がないから茂木さんを好きになったわけじゃねえし。」


「わ、分かってますけど。それでもやっぱり私……もっと先輩に他の選択肢を見てほしいんですよ。せめて、進路なんて大事なところだけは。」


そう説得すると、加賀魅先輩は不服そうではあったものの「わかった」と口にした。


「……そういうわけだからお父さん、もうちょっとだけ答え、待ってもらってもいいかな?」


父は私に尋ねられ、「ああ。3学期までに考えてくれたらそれでいい。」と答えてくれる。


私は加賀魅先輩を連れ、家を出た。そして、「それじゃあ……えっと、暫く要請は来ないようにして!放課後は退魔師の仕事の代わりに進路を検討する時間を設けましょう!」と告げると、先輩はじっと私を見つめてくる。


「……あの……なんですか。」


魔力が漏れ出す私に、「今は遥の手前、言わないけどさ……今日、やっぱり絶対俺は茂木さんが好きだなって再確認したって、いつか伝えるから!」と言い放ち逃げるようにその場を後にする加賀魅先輩。


(それは……ほぼ、伝えてますね。)


私は複雑に思いながらも、加賀魅先輩の後ろ姿を見送っていた。

新着表示を1回に抑えたいのでまとめて投稿します。

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