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私の王子兼、お姫様。

公園に着くと、私はティアラを頭に乗せてブランコに腰掛ける。


(とはいえ、あの遥が気付くかな?私の『ほっといて』が『追いかけて』だってこと。)


1時間くらい待ったが、遥は現れない。


(――帰るか。)


そう思ってティアラを取ろうとした時、ふいに遠くから足音が聞こえてくる。

期待して顔を上げると……そこには、息を切らしながら走る遥がいた。


「遥……!」


「お前……!はあ、もっとわかりやすい集合、かけろよな……!はあ、普通に拒否られたかと、思ったし……!」


途切れ途切れに悪態を突いてくる男に対し、私はばっさりと「その言葉、あんたにそっくりそのまま返すから。」と切り捨てる。

遥は何も言い返せず、真っ赤な顔でこちらを睨んでいた。


「……なんでティアラ付けてんの。」


「今日は私がお姫様だから。今日は遥が追いかけて、遥が私に尽くすのだ。」


答えると、遥は困惑したように頬を掻く。その時、突然空が光って轟音が響いた。


ぽつり、ぽつりと地面が濡れたかと思うと、またざあざあと雨が降り始める。


「げっ……今日は晴れだと思ってたのに。」


遥は言いながら羽を出して私を雨から守ってくれた。


「天候最悪だし、送ってくから話はまた今度な。」


そう口にする遥に、「そう、逃げるんだ。」と答える私。彼は戸惑いつつ、私を抱え飛び上がった。


「……聞かれない方がいいだろ、こういう話。雨すごいから一旦僕の家で話すのでいいよな。」


「まあ、いいよ。」


私はあえて素っ気ない返事を返す。しかし内心は、ティアラを頭乗せて抱えられているこの状況に胸が高鳴っていた。


遥の家に着くと、遥はタオルを普通に差し出してから奥に入っていく。


「寒い」と私が呟けば、ココアを用意してくれた。


「この前は……ごめん。ちょっと言いすぎた。」


ココアを飲んで一息ついてから、遥が口にする。


「……いいよ。私も……言いすぎたし。ごめん。」


答えてから、ココアを机の上に置いた。遥の方を見やると、彼は安堵した様子で微笑んでいる。


このまま安心させて終わりというのも癪だと思い、「他にも言うことあるよね?」と尋ねると、遥の顔がみるみる赤くなっていった。


「……僕……は、桃ちゃんのこと……」


遥はそこまで言いかけて、少し間を開けてから「分からない……」と呟く。


それを聞いて、「は?」とお姫様エミュを貫通し間抜けな声が出てしまった。


「好きなんだけど……僕じゃ桃ちゃんを傷付けるだけで、幸せにできないとも思ってて。他の人と結ばれた方が桃ちゃんにとってはいいとは思うのに、忘れることも……できなくって。」


うじうじと呟く遥に、私は「おいで、教えてあげる。」と言って手を伸ばす。

遥はこちらに来ると、王子様みたいにこちらに跪いた。


私は遥の頭を撫でながら、

「遥はね、9年前……私にぜーんぶ焼かれてるの。それに私も、遥に焼かれちゃってるんだ。」と口にした。


「……」


「顔も、声も、言動も、匂いまで。

ぜんぶ、ぜーんぶ好きで仕方なくなるようにされちゃったし、させちゃったの。だから遥が美女に囲まれようが、忘れようとしようが、9年の時が経っても……私に全部帰ってくる。

それが私たちの呪いで、愛だから。」


遥は何も言えず、ただ真っ赤になって震えている。なにか言い返せるはずもない。

まるで、本当に呪いみたいに。遥は今日、私を追いかけてきてしまったのだから。


「たまには遥が認めてよ、私が好きで仕方ないって。

それで、ちゃんと教えて?私が遥の中でどんな風に焼き付いてるか。」


私は椅子から立ち上がり、跪く遥と目線を合わせる。遥はこちらの目を真っ直ぐ見て「……告白の時……言ったこと。」と切り出す。


過去、遥は私へ理想が暴走し、明らかに私ではないものを見てしまっていた。


「可愛くて頭が良くて面白くてどうのこうの?」


「……嘘じゃないんだ。僕には……桃ちゃんがずっと、理想の人みたいに見えてて……だから……告白、断られたの、結構堪えちゃって。」


意外な言葉に、口が空いてしまう。まさか……あのどこ見てるんだこいつとしか思えない賛辞が遥の本音だったとは。


(私、自己肯定感低いせいでそれを全否定しちゃったんだ。)


「そっか、ごめん……でもきっと友達多いとかは流石に盲目だと思う。」


そう意見すると、遥は「あの時はテンション上がってたの、うるさいな。」と静かに文句を言う。そして、「桃ちゃんの中の僕は、どんな風に焼きついてる?」と問いかけてきた。


「遥……は……わがままで、素直じゃなくて、めんどくさくて、自分からは絶対ギブを拒むテイカー気質のクソガキ。」


私の答えを聞いて、遥はそれを面白くなさそうに口を尖らせる。


「……でも……そんなとこが全部……可愛い。撫でてあげたいし、抱きしめたくなるし、遥の望むこと何でもしたくなっちゃう。

それに……その、今は可愛いだけじゃくて……綺麗、だよ。」


顔を逸らしながら言うと、遥は

「ほんと?ちゃんと見てから言って。」と懇願した。


「綺麗だよ、遥。」


言い切った時、遥がゆっくり目を閉じ、止まる。


(今日は私が姫って言ったのに……まあいいか。)


遥なりの精一杯の催促なのだろうと思い、ぎゅっと目を閉じてから唇を重ねた。


冷たい唇の感触と、自分の今にも破裂しそうな心臓の鼓動が聞こえてくる。


遥は私の体を押し返し、嬉しそうに微笑む。


その笑みを見て確信してしまった。

きっと私はこれから先、遥から離れられることはない。


呪いのようで、鎖のようで……もっと無邪気なもの。

名前を付けるなら……


「僕の運命の人は、ずっと昔から桃ちゃんだけだよ。」


ふいに、遥が呟く。

そうだ、彼が答えを出していたではないか。私たちはきっと、幸せじゃなくても、傷付いても、お互いの元に帰ってしまう運命の輪の中にいるのだ。


そしてやっと、遥の口から「好き」という言葉を聞くことができた。


それから私たちは、暫し積もる話に花を咲かせ……



なんてことはなく、雨が上がると同時に帰らされた。「もう満足したから今日は帰れ。」と突っ返され、いや別に何か付き合おうとか言われたりを期待したわけではないが粗暴な対応に腹を立てる。


(……ま、いっか。)


私は唇に触れながら、帰路につく。

晴れた空から覗く月明かりが妙に明るく見えて、浮かれた私の心を現しているかのようだった。

遥ルートはここで終わりです。次回加賀魅ルートになります。共通ルートがかなり遥ルートへの助走強めだったこともあり、他ルートは遥ルートより話数が増えるかもしれません。

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