沈まない思い出
土曜日、晴天。私は遥を除く退魔部のメンバーと一緒に遊園地に来ていた。
「晴れて良かったねー!今日雨降るかもとか言ってたしさ?」
麗華さんが笑顔で言う。私は頷きながら、(今日は絶対遥を忘れて楽しんでやる!)と意気込んだ。
そういえば、この遊園地には遥とも一緒に来たことがある。
入り口付近のお土産屋さんで王冠とティアラのセットを買ってもらったのはいいが、遥とティアラを取り合ってしまった。
『遥は男の子だから、王子様なんだよ!』
『僕の方が可愛いからお姫様なの!』
そして結局ティアラを付けた遥が可愛すぎるあまり、あっさりそれを譲ってしまったっけ。
(って!早速思い出してるし!)
私はぶんぶんと首を振ってからお土産屋さんから出てきた加賀魅先輩と朱天君に手を振る。
すると加賀魅先輩はニコニコとこちらに駆け寄り、私の頭の上に何かを付けた。
「ちょっと、さては変なカチューシャでも買いましたね?」
言いながらスマートフォンのカメラを内カメラに切り替える。すると、頭の上にあの時譲ったティアラとそっくりな物が乗っていた。
「茂木さんには1番これが似合うと思ったんだ!いいでしょ!?」
褒めてもらうのを待つ大型犬みたいに、元気に言い放つ加賀魅先輩。
「ごめんね、そんなのあんまり付けてる人いねえよって言ったんだけど、加賀魅先輩聞かなくてさ。」
申し訳なさそうに言う朱天君に、私は「ううん、気に入った。」と返した。
(そっか……今日は、私がティアラ付けてていいんだ。)
加賀魅先輩は「王子様の冠は俺のー!ねえ似合う!?似合っちゃうでしょ!」と王子様の冠を頭に乗せはしゃいでいる。
それを見て、「悔しいけどめちゃくちゃ似合うなぁ〜。」と猿方先輩が笑っていた。
(楽しいな、遥も……いたら楽しかったかも。でもそしたら、このティアラを譲らなきゃいけなくなっちゃうな。)
頭の上のティアラに触れながら、私はまた遥のことを考えてしまう。
「ねえ、俺お城行きたいお城!」
加賀魅先輩は楽しそうに遊園地を駆け回り、朱天君はそれに「転ぶなよ!」とおおよそ先輩にかけるとは思えない言葉をかけていた。
(加賀魅先輩、私のためにああやって元気なふりしてるのかな。)
私は少しだけ罪悪感に苛まれながら、城に向かう先輩たちの後に続く。
その後も、加賀魅先輩の「これしたい」「あれしたい」主導で私たちは遊園地を回った。そして、少し早めにお腹が空いてしまった先輩の要望で、昼前にレストランへ赴く。
「なんか、結構待ち時間少なかったね!レストランにも早めに入れたし!」
席に着くなり、麗華さんがそう口にした。
「確かに!加賀魅君の行きたいとこ、たまたま空いてるとこだったかも。エスパーかな、凄いねえ。」
猿方先輩に褒められ、嬉しそうににやける加賀魅先輩。しかし、私と朱天君だけは何かを察していた。
恐らく先輩は、前日にじっくり遊園地の情報を調べ上げて待ち時間の少ないルートに誘導してくれたのだろう。
(申し訳ない……と、言っちゃいけないのはわかってても申し訳ないな。)
麗華さんと加賀魅先輩、猿方先輩が注文しに席を離れた時、ふいに朱天君が「無理してない?」と尋ねてきた。
「えっ……ああ、うん!無理なんかしてないよ、すっっごく楽しい!」
「そう?じゃあ一緒にメニューでも見てよっか。あ、この木苺のタルト美味しそう!テイクアウトもできるらしいぜ。」
朱天君は私の前でメニューを開き、ルビーのようにキラキラと輝く小さなタルトを指さす。
「あ!これ遥が好きなやつ!」
そううっかり口にして、慌てて口を塞いだ。
(しまった!罠だ!)
「やっぱり遥のことで頭いっぱいだ。……あの後、話せなかったんだって?」
「……うん。多分このまま、会えないんだと思う。私は、ちゃんと話したかったんだけど……」
目を泳がせ答える私に、朱天君は「俺は、茂木から遥に会いに行ったりするのは違うと思う。」と言い放つ。
「そ……だね、あんまりしつこくしても悪いし。」
そう答えると、朱天君は食い気味に「そうじゃなくて。」と呟いた。
「……茂木からしたらやりようないじゃん。遥が茂木から逃げる以上、茂木も追いかけるのにエネルギー使うわけで。
遥はずっと茂木にそれをやらせてたわけでしょ?なのにまだ追いかけて貰えると思ってんなら、甘すぎ。」
朱天君は一息で言い切り、目の前に置かれた水を一気に飲み干す。
「個人的に……遥から茂木に会いに来るか、せめて会いたいって言えるまで?茂木は何もしなくていいよ。……ていうか、したくてもできないし?」
朱天君の言葉は最もだ。私にも痛いほどよく分かっている。
なのに何か見かける度遥を思い出してしまう自分が、情けなく思えた。
「そうだよね。」と言いながら私も水を飲み干す。――なるほど、気休めではあるが心が落ち着く気がするな。
気まずいまま次の話題を探していると、加賀魅先輩たちが帰ってくる。それと交代する形で私と朱天君もフードを注文するべくカウンターへ向かった。
注文を終えて席に戻ると、全員少し気まずそうに黙り込んでいる。
「ねえ、本当に頼んじゃっていいのかなー?最近話してるとこ見たことないし。」と小声で呟く猿方先輩。そして、それに麗華さんが「大丈夫だって、どうせまた一過性だし。」と答えていた。
(……?)
不思議に眺めていると、麗華さんと猿方先輩が可愛い袋を取り出しこちらに差し出す。
「これ……野原君へのお土産。渡しておいてくれないかな。」
「私も買ったから、よろしく。」
差し出された袋の中身には、木苺のタルトが入っていた。
「それ……俺も買っちゃった。」
「わり、俺も……こんな被るなら別のにすれば良かったな。」
加賀魅先輩と朱天君もバツが悪そうに袋を取り出す。私たちは全員で顔を見合せ、声を抑えながら笑った。
(皆、遥のこと考えてくれてたんだな。朱天君なんて、私にはあんな厳しいこと言ってたのに。)
空も暗くなり、そろそろ帰ろうかと話していた頃。加賀魅先輩が「やだやだー!パレード見るまで帰りたくない!」と駄々をこねるので、最後それを見てから帰ることとなった。
煌びやかなネオンや踊るキャラクターたちを眺め、目を輝かせる私。先輩が引き止めるだけあって、見ないのはもったいないと思えるくらいパレードは壮観だった。
じっと眺めていると、ふいに隣にいた先輩が「楽しかった?」と尋ねてくる。
「あ……はい!先輩のおかげです。今日はありがとうございました。」
お礼を伝える私に、加賀魅先輩はにへらと笑いながら「バレてた〜?神ルートに誘導する無邪気な加賀魅君作戦!」と隠す素振りもなく今日の自分の貢献を誇っていた。
そこから突然真剣な顔をして、「俺も、楽しかった。今までは魅了のせいで人が沢山いるとこも苦手だったからさ。」と呟く。
「また行きましょう。」そう答えると、加賀魅先輩はまた満面の笑みを浮かべ「そうだな!今度は、全員で。」と答えた。
パレードも終わり、一旦解散して麗華さんと一緒にモノレールに揺られていた時。メッセージの通知に気付いてアプリを開く。
【この前のこと、やっぱり謝りたい。……今から会える?】
2時間前、遥から来ていたメッセージ。
(今日は、私がお姫様なんだから。)
私はそれに、【友達と遊んでたから今からとか無理だし。ほっといて。】と送り――
「麗華さん、先帰ってて。寄りたいとこあるんだ。」
最寄り駅に着くなり、走り出す。
向かったのは、喧嘩する度遥がいつも待っていた、あの公園だった。




