もう1人の部員
「……悪魔?」
後日、部室にて加賀魅先輩に情報を共有すると、彼は言いながら目を瞬かせる。
「はい。主に3年生の間で、記憶障害の被害が相次いでるらしいです。先輩は心当たりありませんか?」
「記憶に抜けがある感じはないよ。……あ!嘘。授業受けたのにうろ覚えの箇所が……!」
「あ、もう大丈夫です。加賀魅先輩は悪魔の影響0ですね。」
バッサリ言い捨てると、加賀魅先輩はしょぼくれた顔で俯く。
悪魔のことを調べるならば、まずは被害者の共通点を探した方がいいだろう。
記憶を消された人間の周囲に魔者がいる可能性は極めて高い。
現状わかってるのは記憶障害を訴えているのは3年生に多いということだけ。
加賀魅先輩が消されていないのを見るに、彼を警戒して避けていたか、そもそも接点がないのだろう。
(3年生といっても数が多いしね。)
考えていると、加賀魅先輩が「次は何を調べてるの?」と尋ねてくる。
「そうですよね、また戦闘でお世話になるだろうし話しておかないと。」
私は加賀魅先輩に事件の概要を話す。すると彼は笑顔で「そっか!だから俺、テストの時何も覚えてなかったんだ!」と口にした。
「それは多分関係ないです。」
答えると、ガラガラと音を立てながら部室の扉が開く。
「おっすー。あ、2人とももう来てたんだ。」
朱天君がいつものように教室に入ってきたかと思うと、私は後ろの人物を見て驚愕した。
「猿方先輩!?」
「なんか、部室の前うろうろしてたから連れてきた!知り合い?」
爽やかに笑う朱天君に笑顔を向けられた猿方先輩は、少しびくつきながら部室に入ってきて「ねえ茂木さん、あの海塩って人何なの?」と吐き捨てる。
「え」
「京都の学校から一時的にうちのクラスに来たんだけど、めちゃくちゃ君とのこと聞かれて迷惑なんだよ。やめさせてくれない?」
眉を下げながら言う猿方先輩。
退魔師は各地に飛び回るから、手続きさえ踏めば一時的に地域の学校に在籍できる制度があるらしい。
猿方先輩は悪魔の被害者でもあるから、話を聞きたくなる気持ちも分かるが……なんとなく今まで話してきた雰囲気でわかる。この人、ギャルにぐいぐい来られるのは苦手なタイプだ。
「いやあ……私が言ったところで、聞いてもらえるでしょうか?麗華さん、私の上司だし……」
「ああ、君って前に茂木さんと一緒にいた……どうして麗華さんが君に話しかけたりしたの?しかも、茂木さんのこと聞いてきたって……」
加賀魅先輩が言いかけると、また部室の扉が勢いよく開き「いた!猿方君!ちょっとだけ話聞いてってば!」と言いながら麗華さんが教室に入ってきた。
「うわ!?追いかけてきたの!?」
瞬発的に朱天君の後ろに隠れる猿方先輩。どうやら本気で麗華さんの圧を恐れているようだ。
「……麗華さん、なんかわからんけど、この人距離詰める程小さくなるタイプっぽくない?ちょっと落ち着いて話してみなよ。」
朱天君が猿方先輩を守りながら冷静に言い放つと、麗華さんはやっと落ち着いたのか、すこしクールダウンしてから「悪魔の調査に猿方君が必要なの。協力してほしいんだけど。」と言う。
「あくまぁ?」と朱天君が驚いたように復唱した。
「そ!その学園で起きてる記憶障害事件の犯人……っぽい存在。猿方君も多分被害を受けてるみたいだから話を聞きたいの。」
「ぼ、僕は悪魔なんか知らない。事件にまでなってて退魔師の海塩さんが調べてるなら、被害者が複数人いるんだろ?他を当たればいいじゃん。」
猿方先輩は朱天君の背中から顔を出して恐る恐る意見する。
「1番興味深いデータを持ってそうなの!本当に知らない?桃ちゃんがあなたのことを全く覚えてないのに、テスコードにはやりとりが残ってたって言ってるよ。これ、桃ちゃんは完全にあなたのこと忘れてるよね?これが悪魔の仕業だったとしても興味ない?」
麗華さんが試すように言うと、猿方先輩は「茂木さん、あれ人に話したんだ。」と小さく呟く。
「君は桃ちゃんとどういう関係で、どんな経緯で彼女が君を忘れることになったのか。それを知りたいだけなの、話してくれない?」
麗華さんが言い切った瞬間、猿方先輩に視線が集まった。彼は目を白黒させてからため息1つ吐き、「……わかった。」と答える。
そして重そうに口を開いてから、
「俺……元々ここの部員だったんだよ。退魔部創設メンバーって、やつ。」と、口にした。




