忘れられたメッセージ
――夜、麗華さんは私の家に泊まることになり、私は自室で麗華さんと「イケメン☆鉛筆コレクション!」の話やアニメの話をしていた。
暫く楽しんでいたものの、麗華さんは突然「そろそろ聞かせてよ。」と言う。
「な、何をですか?」
「誰が本命なのかとか!」
「ほっ!?」
本命……というのは、つまりあの中の誰が好きとか、そういうことを聞かれているのだろうか?
「いやいや!あの3人とはそういうんじゃないんで!」と否定しようにも、加賀魅先輩と朱天君に限っては告白されている以上友達と説明するのも違う気がしてしまう。
「その……実は私も誰が好きとかいまいち分かってなくて……」
「まじ?まああれだけのイケメン3人揃ってたら選べっていう方が無理な話か。」
麗華さんは言いながらベッドに仰向けに寝転がる。
「いやそういうのではなく……!私がいまいち恋愛感情に疎くてこうなってると……いうか。」
「へえ。ならさ、3人の気持ちを一旦口に出してみたら?言語化って大事だよ。」
麗華さんは楽しそうに上体を起こすと、そうまくし立てた。
(いいことなんだけど、包帯だらけなのにすごく元気だな……)
でも確かに、私は友達がいないがあまり3人のことをどう思ってるか口にする機会はなかったように思う。
これは自分の気持ちを知れるいい機会なのかもしれない。
「……そう、ですね……まず朱天君は、同い年とは思えないくらい大人で、思ってること全部言葉にしてくれるからコミュニケーションが楽です。」
言うと、麗華さんは小さく頷き「人馴れしてるよね。距離感上手いっていうか。」と同意してくれる。
「あと凄く優しいです。あんなわけわからん連中に付き纏われても、自分に責任があるのかもと考えてしまうくらいには。」
「そこは長所でもあり短所でもありそうだね。……先輩は?」
楽しそうに尋ねる麗華さん。私はその圧に押されつつも加賀魅先輩の顔を頭に思い浮かべた。
「最初は天然すぎて心配だなーとか思っていたのですが……加賀魅先輩は1番私のことをよく見てくれてて、私がうじうじしないように服選んでくれたり……絆創膏、買ってきたりしてくれました。」
私は遥に噛まれた痕を擦りながら言う。すると麗華さんは不思議そうに「絆創膏?」と首を傾げた。
「あっ……すみません、えっと……!とにかく加賀魅先輩はその、私のこと理解してくれる人だし、可愛い人だと思います……!」
「ふむふむ……遥君はどうよ?なんか昨日しれっと大人フォルムお披露目してたけども。」
続けて尋ねられ、なぜかかおが歪んでしまう。
「遥……は……」
――1番、分からない……
生意気なガキで、私を理想化してたんだと思いきや扱いを心得てるし、優しくないように見えていつも助けてくれるし、好きな人を探しているようでいて……ずっと、私のことを好きでいてくれているのかもしれないと、遥の本当の姿を知ってからそう思うようになった。
私にとって、遥は世界一可愛い存在。でも成長して変わってしまった彼を見てからその認識ごとひっくり返ってしまった。
嫌いになったわけではない、遥として認めたくないわけでもない。
この複雑な感情を言語化するなんて、私には無理だ。
「遥は、その……口では私のこと悪く言うけど、いざとなったら私を助けてくれたりとか、して……嫌われてはないんだろうなって、思うん……ですけど。」
口篭りながら言う私に、麗華さんが「けど?」と続ける。
「……申し訳なく思うことも、あって……」
「ほお、聞かせたまえ。」
「遥、私の周辺を調べて……私も覚えてない、昔の知り合いについて?調べてくれたみたいなんです。」
「覚えてない?すっごく小さい頃に会った人とか?」
麗華さんに言われ、どう説明したものかと考え込む。
(これに関しては、色々装飾した方がややこしい、か。)
「その……私には全く記憶がないのですが、かなり前に私がとある男性と親しげにしていたという目撃情報が各所から上がっておりまして。
不可解なことですが、何らかの形で忘れてしまった元カレ的なそれの可能性があると、遥が教えてくれました。」
「忘れた……元カレ?」
こんな突拍子もない話、信じてもらえないだろうと思っていた。
しかし麗華さんは私の話を聞いて難しい顔をしながら何かを考えている。
「……それ、もしかしたら……今回調べる悪魔と、関係あるかも!」
麗華さんの意外な言葉に、私は目を見開いた。
「関係っ……て?」
「今回調べる悪魔はね、『記憶』に干渉するみたいなの。生徒が記憶障害を訴えるケースが最近増えてて、しかも1番被害が大きいのが受験生……つまり、今の3年生なんだって。」
(てことは、加賀魅先輩の学年?)
「被害っていうのは、具体的にどんな……」
「数ヶ月間の記憶が曖昧だったり、友達のことが思い出せなかったり?しかも奇妙なのが、授業の記憶とかはちゃんとあるんだって。」
言われてみれば私も、学校の授業内容はしっかりと覚えている。
「それが、どうして悪魔と関係あるだなんて話に?」
「再現性のある怪奇現象は大体魔者の仕業。その中で『記憶を奪えそうな魔者』ってなんだろうって考えたの。……かなり珍しいんだけど……悪魔の中に、そういうことができるやつがいるって聞いたことがあるの。」
「なるほど、だから悪魔調査なんですね。」
「そう!桃ちゃんもその様子だと被害受けてるかもよ?そいつのせいで大切な人の記憶がなくなっちゃった、とか。その忘れた人の詳細ってわかる?調べてみようよ。」
「詳細……と、言われましても、彼は大変謎が多くてですね……」
そこまで言いかけて、私はふと猿方先輩が言っていたテスコードの存在を思い出す。
「そうだ……!」
何かに期待しながら、登録した覚えのない携帯の番号を入力した。
すると、テスコードのログインに成功しトーク履歴が表示される。
(あ……)
【先輩!明日の部活動は新入部員勧誘のチラシを作ること!絵めっちゃ得意ですよね!?イラストお願いしたいです!】
【OK!全然いいよ。】
【今日のテスト、現社が70点……終わった……】
【え!70で何がだめ!?すごい!】
【明日、鳴海先輩の誕生日ですね!プレゼント持っていきます!】
【楽しみ!】
――そこで、やりとりは終わっていた。
(間違いない、この文体……!私の書いたメッセージだ。なのに……記憶だけ、無い。)
テスコードの存在を麗華さんに伝えると、彼女は訝しそうに「不思議だね、本当に仲良さそうなのに、忘れてたなんて……」と呟く。
私は猿方先輩の寂しげな瞳を思い出しながら、何度も、何度も。
メッセージのやりとりを読み返していた。




