記憶の断片
「あ……の……」
私が猿方先輩に話しかけようとすると、彼は黙って立ち上がり去ろうとする。
「待って!」と叫んだ瞬間、猿方先輩は止まってこちらを見た。
「それ……!羽の生えた豚じゃなくて、うさこうもりです!」
「は?」
私の言葉が予想外だったのか、猿方先輩は硬直してしまう。
(やば……!絶対今言うことじゃない!)
引き止めたって、話すことなんてないのだ。
私は俯き、何とか言葉を捻り出そうとする。
その時、麗華さんから追加のメッセージが来た。
【ねえ待って、誰もいないんだけど。】
私は困惑しながら飛ばした式神を1匹回収する。すると式神も「しばらくサッカーグラウンドの周り飛んでたけど、誰も見てないよ。」と返答をした。
推理通り行けば、杭を持った轟鬼メンバーが彷徨いている筈なのに、見当たらない?
焦っていると、猿方先輩が「……なんか、困ってるの?また……」と呟く。
私は「はい」と小さく答えた。
「……へー……鬼……憑依……マジで漫画の話みたい。」
猿方先輩は自販機で買ったコーヒー牛乳を飲みながら本に視線を落とす。
そして、私の説明を興味深そうに聞いていた。
(あ……これ、よく見たら漫画だ。)
私が気付くのと同時に猿方先輩は漫画を閉じ
「計画そのものが、変わったのかもね。」と言った。
「変わった?」
「だってよく考えたらおかしいじゃない。杭の陣形も中心地もバレてる、だから直前に杭を刺す作戦に切り替えたのに、わざわざ相手に知られてる場所で茨木童子を呼ぶかな?俺だったら別の場所を選ぶけど。」
「なら、どうして茨木浩平はサッカーグラウンドに……?」
眉間に皺を寄せながら呟く私に、猿方先輩は「作戦が変わったのかも。」と言い放つ。
「えっ……?」
「だってその轟鬼ってチームが朱天鬼丸被害者の会で、とにかく強いやつに朱天君を倒して欲しいだけなら……茨木君が倒す必要もないし。
もしかしたら、憑依させる人が変わったのかも。茨木君は囮か……逃げてるだけ、とか?」
その解説を聞いて嫌な予感がした私は、式神を回収してから麗華さんに【学校周辺を探そう、サッカーグラウンドには浩平しかいないかも!】と連絡する。
しかし、麗華さんから連絡は帰って来ず……代わりに麗華さんの式神が、ボロボロになりながら私の手のひらの上に落ちた。
急に血の気が引き、スマホを持っている手が震える。
(どうしよう、麗華さんの身に何かあったんじゃ……!落ち着け、まずは遥に連絡を……!)
冷や汗を浮かべながらパニックになる私の左手を、猿方先輩は静かに握った。
「落ち着いて、大丈夫。」
その瞬間、スマホの液晶に涙が落ちる。私はそれを慌てて拭い、「すみません」と呟いた。
なぜかはわからないが、こうしてもらうのは……これが初めてじゃないって、そんな気がする。
「さっきの式神、こんなボロボロになりながら来たんだからきっと意味があると思う。先にそっちを確認してみたらどう?」
言われるがまま麗華さんの式神を見ると、「家のポスト 見て」と書かれていた。
(ポスト……?)
私は遥に1度【麗華さんが危険かもしれない】と伝えた後、母に【ポストを見て】とメッセージを送る。
すると程なくして母から【退魔師協会から何か届いてるわよ。】と返事が来た。
(多分、呼び出し笛だ……!麗華さんは、何か危険を察知したから私だけでも危ない目に遭わないように、これを式神に書いたんだ!)
【お母さん、それ式神で学校まで送ったりとかできる!?】と連絡すると、母は【まあ、できなくはないけど……】と返してくれる。
遥の方からは着信が来て、私はその電話を受けた。
『麗華さんが危険ってどういうこと?トラブルか。』遥はあくまで落ち着いた声で言う。
「そうなの。連絡が返って来ないし、ボロボロの式神だけ戻ってきたから、きっと何かあったんだと思う。」
『他に報告は?』
「えっと……もしかしたら相手は作戦を変更したかもしれない。サッカーグラウンド周辺に茨木浩平以外誰もいないのよ。
茨木童子を憑依させる人も場所も変わってるかも。……ちょっと嫌な予感がするの、まさか学校にいる誰かに降ろしてパニックを起こす気じゃないよね?」
『……それが本当ならミスターコンとかやってる場合じゃないな……僕は今から加賀魅先輩を連れてサッカーグラウンドに行く。お前は式神を飛ばして轟鬼メンバーを探せ、見つかったら鬼丸に報告!いいな!』
その言葉を最後に通話が切れた。加賀魅先輩が学校を離れるのは少し不安だったが、あの麗華さんを倒せる人間が轟鬼側にいるなら、確かに彼はあちらに向かった方がいいだろう。
今は茨木童子を呼ばれた時のことを考えるより、相手の作戦を阻止することを考えるべきだ。
私は遥に言われた通りに式神を空へ放ち、母の式神を待つ。
すると思ったよりも早く式神が帰ってきて、「近くの公園にフード被った変な男たちが彷徨いてる!」と報告した。
「えっ……と。」
朱天君と合流する約束をした後で猿方先輩にどう説明しようか考えていると、彼は静かに「行ってきなよ、俺も変なやついたら注意しておくからさ。」と口にする。
「あの……!ありがとうございました!」
私はそう告げて裏庭を離れた。
去り際、「困ったらテスコードを開いて、携帯番号でログインできるはず。」と言われ、少し引っかかりつつも朱天君の待つ校門へと走る。
「桃!遥から話は聞いてる。俺と桃で召喚を止めればいいんだよな。」
「うん。式神が公園で変な人を見たらしいから、やっぱり学校にいる誰かに茨木童子を憑依させる気なのかも……!急ごう!」
私たちは式神の言っていた近所の公園まで急ぐ。すると、怪しい少年たちが公園で何かしているのが見えた。
「お前ら、公共の場で何してんの。」
朱天君が後ろから声をかけると、少年たちは嬉しそうに振り返り、笑顔でフードを取った。
そして……少年たちを見て思わず絶句してしまう私たち。
少年たちは全員オレンジ色のメッシュを入れた金髪に、金色のアクセサリーを身につけている。
顔こそ似ていないが、朱天君の姿を模倣していることは明白だった。
「朱天君!俺のこと覚えてる!?中学の時水泳大会で戦った……!覚えてないか、朱天君からしたら俺なんかモブだし。」
少年の1人が高揚した様子で話しかけてくる。妙に緊張感の無いその態度が、私には気持ち悪く思えた。
「あ……お前、橋本!?なんでそんな妙な格好してんだよ!」
橋本と呼ばれた少年は嬉しそうに「妙な格好じゃないよ〜、いい感じでしょ?」と笑っている。
「あんたたち、ここで何してたの?」
埒が明かないと思い尋ねると、少年の一人が「朱天鬼丸ヒーローショーの準備だよ。」と答えた。
「ヒーローショー……?」
「なんかやべぇ鬼降臨させて、朱天君がそれを華麗に倒す!俺たちはそれが見たくて頑張ってんだ。」
あまりにもトンチキな返しに朱天君と顔を見合せる。こいつらは恐らく轟鬼の中でも朱天君のファンとして在籍している側のようだ。
「今すぐやめろ、迷惑なんだよ!俺に不満があるなら聞いてやるからさ。」
朱天君が言うも、男たちはヘラヘラ笑うのみで聞こうとしない。そんな時、少年の1人が「なんか変なのが飛んでる。」と上空を見上げた。
空を見上げると、確かに光り輝く何かが上空を旋回しているのが見える。
目を細めると、光る鳥がこちらに向かい飛んできて、私の手の上に何かを落とした。
(笛――!まさかあれ、お母さんの式神!?)
メモアプリがかなり重くて、同じ語句の繰り返し、誤字が頻発してます。
3人は3人は……
加賀魅先輩を加賀魅先輩は……など
修正を記憶できないようで戻ってたり反映されてたりします。
現在パソコンでの執筆ができず、一応自分でタイポ修正はしているのですが、読みにくかったら申し訳ございません。




