そういうとこ
「そんな……麗華さんは優秀だしいい人なのに。」
「……そうでも、ないよ。私ね、傲慢みたいなんだ!自分と同じ基準を相手に求めちゃう。」
「傲……慢……?」
余計にイメージと違う言葉が飛び出し私は目を見開く。とても麗華さんがそんな人物には見えない。
「私ってさ、才能もあるし人当たりも良くて、何事にも全力かつ真面目にしっかりお仕事をこなせる人間なんだけども。」
「正当な自己評価です。それを人は傲慢とは呼びません。」
「……でもさ、世の中そんな人ばかりじゃないんだよ。何にでも100%の力を注いだら疲れちゃうし、楽だってしたいし、楽しておきながら自分を大きくも見せたい。それが、人間の本質。」
「はぇ……」
「今は大分良くなったんだけどねー……昔から、遅刻したり意識の低い子に怒っちゃったりしてさ。よく『私は麗華とは違うんだよ』って言われたなぁ。」
「そんなの……遅刻する方に問題があります。」
「本当にそう思う?例えば桃ちゃんは、私に退魔師の癖に式神一つ扱えないの?って言われたら、どう思うよ?」
「申し訳ありません!」
「……いや、例えだってば。まあでもほら、ちょっと関係ギクシャクするじゃんよ。本当に人に好かれる人って、多分『間違えない人』じゃない。人の弱さに向き合って、自分の弱さからも逃げない人。」
麗華さんはそう言って、振り返る。
「桃ちゃんはそれができる人だよ。」
何故か、何を言われたのか完全に理解できなかったのに、涙が出た。
ずっと、大した取り柄がないと思っていた自分。
こんな私を朱天君や加賀魅先輩は好きになっていいのかななんて、ずっと考えてしまっていたのに。
憧れていた麗華さんに、こんな笑顔で言われてしまったら……嫌でも自己肯定感が上がってしまう。
「あは、今泣くとこだった?情緒謎だね桃ちゃん。」
(あれなんかこの人……本性さらけ出して演技が剥がれてきてないか?本質はドライなんだなぁ……)
「ありがとうございます、励ましていただき……」
涙を拭いながら言うと、麗華さんは笑顔で
「ん?励ましじゃないよ?ここから分析とフィードバックね!」と言い放つ。
「え」
「桃ちゃんは人の解像度が高い。人の弱さを読むのも上手い!だから無意識に分かるんだよ、この人は次にどう動くのか、茨木浩平はどう判断を下すのか。
憑依の推理も、杭を抜く推理も……あなたは浩平という『人』を推測して答えを出した。」
「えっ、いや、あの」
「魔者は人だからね!私たちプロは、魔者の性質は分かっても思考までは読めない。だからあなたは現場からすると有用な人だよ!
実力はあのつっよい使い魔がいればどうとでもなるし。
ただもうちょっと探索用の魔術は使えた方がいいね、使い魔が離れた途端舐められるから!」
早口に言われ、私は震えながら縮こまった。
(確かにこれは……!同じチームになると圧があるかも……!)
「メモ取った?」
「す、すみましぇ……びっくりして……」
「そうかと思って録音しておいたからメッセージに送っておくね!」
(ひええ……)
恐縮していると、私はふと麗華さんの過去の行動に気付く。
これだけドライな人だ。仕事中に遊びに出かけたり、意味もなく私のメイクをしたり。
そんな時間のことを、どう思っていたのだろう?
「……麗華さん。ずっと無理してたんじゃないですか?私たちと一緒に遊んだり、早めに手伝いに来てくれたり。
過去の反省から、私のモチベーションが折れないように気遣ってくれていたんじゃ……」
尋ねると、麗華さんはまた後ろを向いて無言で歩き出す。
(あれ、余計なこと言ったかな?)
「あっ……!えっと、違うんです!麗華さんは傲慢なんかじゃないって言いたくて……!
自分を曲げてまで、他人に合わせて動けるの、中々できることじゃないから!
麗華さんはやっぱり凄いです、調子に乗っても許されるくらい……!」
弁明しながら、麗華さんの顔を覗き込むと……彼女は下を向きながらにやけていた。
「ほんと、そういうとこ。」
麗華さんは私から顔を背け呟く。そして
「あと遊びに付き合ったのはイケメン3人と一緒だったからだよ。
桃ちゃん気付いてないかもだけど、あのレベルが3人集まるとか奇跡に近いからね?
あんまり鈍いと逃がすよ、絶対離さんくらいの気持ちでいな。」
と淡白に返す。
「あ……ハイ……」
申し訳なくなってそう呟くと、しばらく小さくなりながら麗華さんの後をついて行ったのだった。
……
連休も明け、遥の働きかけもあってか、学内はミスターコンの話題で持ち切りだった。
今日の夕方、ステージで最後のアピールをしてから投票になる。
その間に茨木浩平が茨木童子を憑依させ、朱天君に害を成そうとするだろう。
私は今日、それを止めなければならない。
【いた、茨木浩平。サッカーグラウンドに向かってる!】
麗華さんからのメッセージを確認して、私も裏庭から式神を飛ばす。
サッカーグラウンドが中心となる以上、その周辺に轟鬼は集まるはずだ。
そこを狙って奇襲すれば、止められる。
式神たちはふわりふわりと飛んでいく。……しかし、その中の1匹が「いる!あっちにいる!」と言いながらおかしな方向に飛んでいってしまった。
「あっ……どこ行くのよ!」
式神を追いかけていくと、そこで1人の青年が読書しているのが見える。
(あ……)
「鳴海先輩!」
式神は彼をそう呼びながら、本の中に突撃していく。
猿方先輩は「うわ!?虫!?」と悲鳴を上げたあと式神を拾い上げ、
「じゃ、ない……羽の生えた豚?」と呟いた。




