暴かれた本音
「えっ」
私は焦りながら、式神をなんとか捕まえようと飛び跳ねる。
しかし式神はちょこざいに飛び回って、私の手をひらりひらりと交わした。
「退魔師の実績も遠く及ばないしぃ〜……顔もセンスも性格も勝てるとこ1個もないもんな〜」
式神はぼやきながら宙を舞う。その様はまるで私を煽っているようだった。
「遥には、ああいう人がお似合いなんだよきっと。ずーっと昔の姿でいなきゃいけない、私なんかと違って。」
「――っ!いい加減にして!」
私は式神を捕まえ、ぐしゃりと握りつぶした。
「はぁ……はぁ……」
唖然と見ていた朱天君と麗華さんの方を振り返り、私は「こいつが勝手に適当なことを!すみません!」と声を荒らげる。
しかし時間が経っても2人の顔は、あまり晴れやかではなかった。
(やば……!そうだよね、朱天君は私に告白してくれたばっかりだし、あれじゃ麗華さんに勝手にライバル心抱いてるみたいに思われてもおかしくないし……!あーもう、なんなのよこの式神!)
「あの、本当に思ってもないことで……えっと……」
言い訳に困っていると、朱天君がにっかり笑って「知ってる!でもちょっとさっきの、茂木が言いそうなやつだったな!」と口にする。
(あ……)
「だね!なんか桃ちゃんぽかった!てか喋る式神とか新しすぎでしょ!才能開花してて鬼ウケるんだけど!」
麗華さんもそう言ってお腹を抱え笑っていた。
(ああ……絶対、気を遣わせた。)
2人と暫く練習を続け、やっと式神が空を舞えるようになる。
「式神!あっちのブランコまで飛んでみて!」
私は式神に声をかけ、操縦を試みた。
「は?何命令してるんですか?これだから普段から人と関わってない陰キャは……人に対する頼み方ってのを知らないんですよね。」
しかし、式神はぐだぐだ文句を垂れるばかりで応じない。
「なんか、式神って作者の性格とか結構反映されんのな……」
朱天君が感心したように呟き、麗華さんは「いや、普通こんなことにはならないんだけどな。」と首を捻っていた。
「なあ式神、言うこと聞かないと夏休みに海連行すんぞ。」
「ヒィッ!?陽キャと海とか殺す気!?」
朱天君がそう声を上げると、式神は震えながらブランコまで飛んでぽてりと落ちる。
「……」
「良かったな桃!その式神脅せば操縦できるよ!」
複雑な思いで拾い上げる私に、朱天君は笑顔でそう言い放つ。
(私ってあんな可愛げないの……?いや、そんなはずは……)
ぐるぐる考えていた時、17時の鐘が鳴る。
「あ、もう17時かー……鬼丸君いつもこの時間に帰ってたよね?まだ平気なの?」
麗華さんが尋ねると、朱天君は「やば、そろそろ帰らないと。」と言いながら時計を見た。
「じゃ、桃ちゃんは私が送ってくから先に帰ったら?ここなら桃ちゃんの家近いから、必ず男の人が送迎することもないんじゃないかな。」
麗華さんの提案にお礼を言ってから、朱天君は「またな!茂木!麗華さん、」と言って走り去る。
朱天君を二人で見送ってから、麗華さんはくるりとこちらに向き直った。
その表情は、少しぎこちなくて、硬い。
「あ……麗華さん、あの……さっきの式神が言ってたことなんですけど……」
私がそう切り出すと、麗華さんは「あー!あれね、勝手なこと言われたんでしょ?気にしてない。」と笑う。
「いえ!……本当、なんです。誤魔化しちゃったけど……遥のことはあんまり個人のこともあるから言えないとこもあって……でも、私自分に自信がなくて、勝手に麗華さんと自分を比べて……式神は私の深層心理を暴露しただけ。本当にごめんなさい!」
私はそう言って深く頭を下げた。麗華さんが何か喋るまでそうしていると、彼女は静かに「そういうとこだよ。」と呟く。
(や、やっぱり怒ってる……!)
「はい!私の至らない所は必ず矯正して……!」言いかけた所で、麗華さんは私の肩を掴みながら「そうじゃなくて。」と上体を起こしてくれる。
「え?」
「桃ちゃんは自分が思ってるより出来の悪い人じゃないと思うな。人に好かれるし、誠意がある。退魔師にとって割と重要なとこだよ、それ。」
麗華さんは優しく言いながら、私の頭を撫でた。
「どう……いう……私が人に好かれるなどと……」
「好かれてるじゃん!あのイケメン3人桃ちゃんに夢中だもん。私も桃ちゃん好きだよ。大事なことは誤魔化さなくて、式神が変な風になったりとか面白いとこもあるし!」
「むちゅ……!?ご、誤解ですよ!そんなことは決して……!」
「はいはい、謙遜しないのー。……帰りながら話そっか、行こう。」
麗華さんは私に目配せしながら、ゆっくりと歩き出す。
「私さ、人に嫌われるんだよね。だからチームで動けなくて……いつも、一人。」
家に帰る道中、麗華さんがそう吐露する。
しかし私の目からは彼女が嫌われるような人には見えない。
優しくて、可愛くて、明るくて……しっかり退魔師としての実績を残している、私の憧れを煮詰めたような人。
だからこそ麗華さんがどうしてそんなことを言うのかが分からなくて、私は彼女の寂しげな顔を不思議に思いつつ見つめていた。




