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夢魔の献身

「あ、あの……加賀魅先輩。」


「何?」


ダイニングの椅子に腰掛けながら、加賀魅先輩は私の腕に絆創膏を貼る。


「分かってたんですか?私が……遥に血を差し出すこと。」


尋ねると、先輩は絆創膏に目線を落としながら「うん、バレバレ。俺がいると私の血をあげるって言いにくいな〜って顔してた。」と答えた。


恥ずかしくなって喉が詰まると、加賀魅先輩の目線がこちらの顔に向く。


「貼れたよ。今後あんまり血を差し出しすぎないこと!……これは嫉妬じゃなくて、茂木さんの魔力消費に対する忠告ね。」


加賀魅惑先輩は言いながら私の頭をポンポンと撫でた。


「……嫌じゃなかったんですか?そこまで分かってて、遥と私を2人にするの。」


「嫌は嫌だけど……言ったでしょ、俺は茂木さんのしたいことを叶えるって。」


「……でも。」


加賀魅先輩は私に既に告白をしてくれている。彼の行動からも、私を大事にしてくれていることは伝わっていた。

私が中途半端に揺れるほど、加賀魅先輩のまっすぐな好意を汚してしまう気がして申し訳なくなってくる。


「でた、またごめんなさいって顔。『加賀魅先輩は私が好きなのに、気を遣わせちゃったんだ。』とか考えてるんでしょ。」


ぎくりと体が震え、目を逸らす。本当に何でもお見通しのようだ。


加賀魅先輩はしゃがみこみ、私に目線を合わせる。そして

「……ねえ、良く聞いて。俺が茂木さんを勝手に好きになったんだよ、だからいちいちそこに頭を悩ませないで。

茂木さんが遥を支えたいなら俺は協力するし、他の誰かと結ばれたいなら応援する。」と口にした。


「だって……先輩、私と結婚したいって……」


加賀魅先輩の優しい笑顔を見ているだけで胸が痛くて、まともに顔も見れずに呟く。


「言ったけど……茂木さんが俺を選ばないならそれでいいんだ。だって、そこまで思い通りにしちゃったら、この恋は普通じゃなくなるでしょ。」


「……!」


「恋って一方的なものだから、必ず報われるわけじゃない。そのくらいはちゃんと分かってるんだぜ。

俺は無理やり自分を選ばせたいわけじゃなくて、君を……幸せにしたいんだ。」


優しい声で言われ、視界がぼやける。加賀魅先輩の顔を見る為に顔を上げても、どんな顔をしているか認識できなかった。


「また泣いてる。俺が帰ってくる前もなんか泣いてたでしょ?目赤かったもん。」


先輩は笑いながら涙を拭ってくれる。

申し訳ない気持ちでいっぱいで、どうしてこの人が好きなのが私なんだろうなんて、そんなことを考えてしまっていた。


「……ま、まだ諦めてないけどねー。茂木さん誰が好きか自分でも分かってないでしょ?」


「そこまで……分かるのですか……」


「当たり前だろ、茂木さんのことめっちゃ観察してるもん!さ、ご飯作るから手伝って!俺パスタ作るから、茂木さんはミネストローネ係。」


先輩はそう言ってから手を洗うと、色々と指示をくれる。


(ま、まさかこの人……料理ができるの!?)


予感は的中し、加賀魅先輩はプロ顔負けのパスタを作ってみせた。


遥は、それを驚く様子もなく嬉しそうにお礼を言いながら食べている。


(遥は知ってたっぽい……この様子だと何度か作らせてるわね。)


「いただきます。」


ひと口食べると、トマトの酸味とピリッとくる唐辛子の絡みが舌を包む。

――絶品だ……!こんな美味しいパスタ食べたことがない。


「「ご馳走様でした!」」


遥と声を揃えて言ったのを見て、加賀魅先輩はけらけらと笑う。


「あ、お皿洗わなくていいよ。俺がやるから。ありがとう先輩……桃ちゃんも。大分元気戻ってきた!」


遥が言うと、加賀魅先輩は

「どういたしまして!……じゃ、帰ろっか茂木さん。あんまり遅くまでいても悪いだろ?」と言って玄関に向かった。


……


帰り道、私はぼーっと考える。


私が忘れているかも知れない男、猿方鳴海。

以前彼とはどんな関係で……どんな話をしていたのか、想像もつかなかった。


「あの、先輩!前に言ってましたよね?私に彼氏がいるとか、なんとか……どんな感じでした?」


唐突に投げた質問に驚きつつも、加賀魅先輩は

「仲が良さそうだったよ。笑いあってて、楽しそうで。それがどうかした?」と答えてくれる。


猿方先輩と……楽しそうに歩いていた?

謎は深まるばかりだ。


悩んでいると、加賀魅先輩は「気になる?」と呟いた。


「あっ……すみません、えっと……」


「調べてみよっか、あの男の子のこと。なんか見たことあるんだよね、学年俺と同じかも。」


加賀魅先輩が言うので、私は「そんなことまでしなくていい」と答えようとする。


すると、加賀魅先輩は「あ、やっぱりやめた。勝手に調べちゃお。」と意地悪な笑みを浮かべ早足で歩き出す。


「あっ……まって先輩!分かりました!調べて欲しいんですけど、名前はもう分かってるから……!先輩ってば!」


私はどんどん先に行ってしまう先輩を追いかけながら帰宅したのだった。


……


翌日、また退魔部と麗華さんの5人で集まって杭を探す。

この日は加賀魅先輩と麗華さんと一緒に見回りをしていた。


「ピンの位置的に、この辺に刺さってそうだけど……」


麗華さんが言うも、杭は見当たらない。

その後もピンを頼りに石の杭を探したが、1本も見つからなかった。


「変だな……昨日はピンの場所に刺さってたのにぃ〜」


麗華さんが頭を傾けながら唸る。


どうして昨日は見つかったはずの石の杭が見つからないのか?

それに、昨日は襲ってきたという轟鬼のメンバーらしき人間すら見つからない。


「……もしかして、抜いたんじゃないですか?」


私はハッとしてからそう口にする。

麗華さんと加賀魅先輩はそれを聞いて驚きの声を上げていた。

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