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呪いの指輪

「す……!すき、とは!?」


私は距離の近い加賀魅先輩に対しドギマギしながら声を荒らげる。


「……いや、なんか遥といる時の茂木さんって、特別というか……楽しそうだったり、苦しそうだったりするから。」


加賀魅先輩は少しだけ目を細めながら言う。


「も……勿論遥は好きですけど。恋愛感情なんてあるわけないでしょ!基本こき使われてるのに。」


否定したにも関わらず、先輩はまだ真剣な顔でこちらを見下ろしていた。

また少しクラッときて、徐々に魔力が持っていかれていることに気づく。


(まずい、なんか納得してなさそう。このままでは魔力を全て持っていかれてしまう!)


「そ、それに……!遥はね、私じゃ……ダメなんですよ。」


言うと、加賀魅先輩は「どういうこと?」と呟いた。


「遥は元々、私に会いにここに戻ってきたらしいんです。……でも、当の私は9年経っても弱いし芋いし卑屈だしで……遥には、到底釣り合わなくて。」


私は、垂れていた拳に力を入れる。


「だから、遥はまた別に運命の人を探してるんですよ!……だから、全然恋とかじゃないんです。」


なんとかそこまで話して、笑顔を取り繕った。

しかし、だんだんと貼り付けた笑顔が剥がれぎこちないものに変わっていく。


「私じゃ……足りませんから。」


そう言い放った瞬間、自分の柔らかい部分を自ら刺してしまったような気がした。


加賀魅先輩は全て聞いてから私の頭を撫で、「……遥がそう言ったの?茂木さんは自分に相応しくないって。」と尋ねる。


「ううん。……私の思ってることです。」


「じゃ、マイナス思考になってるだけだよ。遥が運命の人を探してるのは別の事情じゃない?あいつ、茂木さんのこと大好きだもん。」


加賀魅先輩の言葉に耳を疑い、顔を上げた。

彼の浮かべる笑みは優しくて、それでいて少し寂しそうにも見える。


「……ほら、俺もそうだけどさ?嫌いな人に甘える人間っていないでしょ。ほら、あれ見て。」


加賀魅先輩は言いながら、奥の座席に座る親子を指さす。

子供は、母親の膝の上でうとうとしながら甘えていた。


「甘やかすのにも、甘えるのにも愛情って必要でしょ?遥があんなわがままで振り回すのは茂木さんだけ。……それだけ、心を許してるんじゃないかな。」


「……でも……今日は、麗華さんにも甘えてたし……」


思い出して、モゾモゾとぼやく私の顔を、加賀魅先輩は突然持ち上げた。


「へっ」


「……もういいや。親切心で俺が色々言うのはここまでね。遥と茂木さんがどういう関係だろうが、君には俺がいるもん。」


いつもの柔らかい笑みではなく、どこか縋るような顔でそう口にする先輩。

私の血は一瞬で沸騰し、魔力が全て体から抜ける。


「……あっ!ごめん!」


私は先輩の謝罪を聞きながら、彼の腕の中で眠りについた。


――


『桃ちゃん、大きくなったら僕と結婚してね。』


幼い遥がそう言って笑う。

どうやら私は夢を見ているみたいだ。


8歳の時の夏祭り、私が別の子と仲良くしていると、遥は私を引き剥がしプラスチックの指輪をはめてきた。


『さっきくじで当てたんだ!桃ちゃんはずーっと僕と一緒にいて、ずーっと僕のお姉ちゃんするの!』


その言葉と共に、左手には遥の瞳に似たピンクがかった赤い宝石が光る。

今思うとあれは、世界一可愛い顔をした呪いだったと思う。


一生遥を好きでいて、一生遥を可愛いと感じるように焼き付けられた、小さな……でも、根深い呪いだ。


遥はいずれ私より好きな人を見つけなければいけない。

だから私にとっていつまでも「1番愛おしいもの」と「1番可愛いもの」の席を遥に空けておくのはよくないことだと分かっていた。


記憶に焼き付けられた遥は、嘘みたいに可愛いけれど……きっとこのままじゃいけないんだ。


―――


――


「はっ」


自室で目を覚まし起き上がる。

すると、ベッドの脇で私を見守る母の姿が見えた。


「……お母さん。」


「聞いたわよ、また魔力吸われたんですって?……一応確認するけど、変なことはされてないのよね。」


あの後、きっと加賀魅先輩がここまで運んでくれたのだろう。

私は首を横に振り「されてない!私がチョロすぎたの、先輩はただ私を励ましてくれてて……!」と、言いかけた後、加賀魅先輩の「茂木さんには俺がいるもん。」という言葉を思い出し顔が熱くなる。


母はその様子を見て、静かにため息をついた。


「……桃ちゃん、退魔師協会から連絡があったのよ。あなたかなり強い魔者の討伐に成功したんですってね。誇らしいけど、心配だわ。あの夢魔とあなたがちゃんとした主従関係を結べているように見えないの。」


「それは……ごめん。だけど!加賀魅先輩は本当にそんな悪い人じゃなくて、私が大したことされてないのにときめいちゃうのが問題だから!」


私が焦ったように言うと、母少しだけ押し黙り戸惑った様子で目を逸らしてから……好奇心に負けたように「ちなみにあの夢魔とは付き合ってるの?或いは今度狙いに行く予定とか……」と口にする。


「は!?何言ってるの!?そんな……そんなんじゃないから!」


「いい?桃子。男の良さを決めるのは顔ではなく心なの!あの夢魔は根は悪くなさそうだけど少し教育しないと女を働かせて危険な時以外ダラけるオスライオンのようになるわよ。」


母が真剣な顔で言うので、私は「そんなんじゃないから!」と声を荒らげ布団に潜った。


……


翌朝、私はヨレたジャージに着替え目元に隈を残したまま居間に向かう。

知らない間に集合場所に指定された我が家に退魔部の皆を迎え入れる為、準備をしていた。


(遥めぇ……。メッセージもろくにしないで勝手に色々決めちゃってさ!)


腹を立てていると、朝だというのに家のインターホンが鳴る。


「はーい……」


くたびれながら玄関のドアを開けた先には、昨日より少しラフな格好でありながらポニーテールを揺らし、朝日のように輝く麗華さんがいた。

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