桃子の命日
「よろしくね!」
宝石みたいなネイルが施された手を向けられ、躊躇する。
「あ……の……」
「あれ?握手嫌?」
「さ、さわっていいんですか!?訴えません!?」
「え……?う、うん。」
私は恐る恐る手を握った。
白い手が触れて無駄にドキドキしてしまう。
(私の手、汗でベタベタしてないかな?やっぱり訴えられたりして……!)
考えていると、麗華さんは「轟鬼の件ってどこまで進んでる?話したいな。」と口にした。
「あっ……友達ともっ……お昼、から、話す予定……で……わ、私が先に簡単にお話していいなら、カフェにでも……!」
挙動不審気味に提案すると、麗華さんは「いいね!東京のカフェ行きたーい!」と言ってくれる。
(こ、この前加賀魅先輩と話してる時、この近くにいい店あるって言ってた……!そこにいけばきっと間違いない!)
「あちらに!あちらによきカフェがあります!」
と言って歩きだそうとした時、麗華さんが「あ、待って〜!外、ちょっと降ってたでしょ?傘買ってもいっかな?」と尋ねてきた。
本当によく見ると、麗華さんの髪に少し雨粒が付いている。
「あ……大変失礼いたしました、電車移動だったのもで気が回らず……まだ時間に余裕もありますから、少しお化粧室にでも寄りますか?私の私物で良ければタオルも貸せますが。」
「え!?いいの……!?ありがとう〜……!桃子ちゃんってめっちゃ優しいね!」
「重い荷物持ちますよ、貴重品はここに入ってないですよね?」
私が麗華さんの大きなバッグを持ち上げると、彼女は「え!悪いよ!それちょっと濡れてるし……!桃子ちゃんが持つ必要ないじゃん!」と声を上げた。
(……?おかしいな。遥にはいつも「可愛い僕が大きな荷物を持っていたら代わりに持つのだ!」と口酸っぱく言われてるのに……逆に困惑させている?)
「大丈夫です、この程度慣れてるんで!パウダールームはあちらです!」
意気揚々と歩き出すと、麗華さんはそれを呆然と眺めてから追いかける。
私は麗華さんが感じの悪い人では無いことにとりあえずほっとしていた。
パウダールームに着くと、麗華さんは鏡を見ながら「あ、アイライン消失してる。」とぼやく。
麗華さんの小物はやけにうさコウモリで固められていて、全体的にフルーティーないい匂いがした。
「私未使用のアイライナー持ってるので差し上げます。黒のペンシルで良ければ……」
「え!いいのー!?それいくらした?その分私カフェで奢るよ!」
「ああいえ、ただの予備ですので気になさらず。そんなにペンシル使わないんです。」
(遥がたまに要求してくるから持ってただけなんだよね。)
言いながら黒のアイライナーを渡す。
すると渡してからやっと妙に長さがあることに気づいた。
(あっ……!違う!これはアイライナーじゃない!)
「待って!間違えました!アイライナーはこっち……!」
声を上げると同時に麗華さんがキャップを開く。
そして、パウダールームに低音の「俺以外の鉛筆削るの、禁止。」というセリフが響き……時が止まった。
(今日が私の命日だ。)
そう覚悟を決めた時、麗華さんは口元を押さえ「これ……黒色鉛筆様のセリフ!?」と言い放つ。
止まっていた息が「え」という小さな感嘆の声と共に漏れた。
……
「麗華さんもイケメン☆鉛筆コレクション!好きなんですねー!えへへ、こんな所で同志に会えると思いませんでした!」
「私もだよー!SNSでは見かけるのに現実世界だと全然好きな人に会わないんだよね!どこに潜んでんの!?って感じ!」
加賀魅先輩の教えてくれたカフェで、私は麗華さんとイケメン☆鉛筆コレクション!の話で盛り上がる。
ここまでちゃんと話せたのは女性だと麗華さんが初めてだ。
「誰推しですか!?」
「ロケット鉛筆くんかなー。ツンツンしてて美意識高いとこ可愛くない?」
「あー、わかります!それでいて自分にはちゃんとした芯が通ってないって劣等感抱いてるのがいいですよね!」
私は暫くイケメン☆鉛筆コレクション!の話をした後、本題の轟鬼のことについても今分かってることり麗華さんに話した。
「へぇ〜その浩平?ってやつ、ダサくてキモいねぇ。勝てないからって嫉妬こじらせて嫌がらせするわ、加賀魅って人貶めたり。」
「わかります。私も嫌いです!今から2時間後くらいに部員の皆が新宿のカラオケに来てくれるそうですので……続きは追々話しましょう。」
「話聞いてる感じ、その鬼丸くん?がいないと話進めにくそうだしね。オッケー!それまでどっか見てようか。」
麗華さんが言うので、私はスマホを取り出し
「であれば、うさコウモリのポップアップショップを見た後近所でコラボイベントをやっているショッピングモールに行くのはいかがでしょう!巡回想定時間は1時間30分ほど!余裕で楽しめますよ!」
と提案する。
「えっあっ……たしかに私うさコウモリ好きだけど……東京の人ってどっか時間潰すだけでそんな完璧なルート計算するの……?」
「ん?ああ、これは東京の人ではなく私特有の癖です。ルートを考えず遊びに行くと意識が低いと罵倒してくる友人がおりまして……」
(ええ……なんでそんなのとつるんでるんだろ。)
麗華さんは少し圧されつつも、私の提案したうさコウモリ堪能ルートを楽しんでくれた。
そして集合時間より少し早くカラオケに向かうと、それより早く来ていたであろう朱天君がメッセージで部屋番号を共有してくれる。
カラオケに到着した私は、共有された部屋番号の部屋を見つけ中に入った。
すると、朱天君が「あ!ども!退魔師の人ですっけ?初めまして。」と言って立ち上がり麗華さんに挨拶する。
「どうも!海塩麗華ですー!」
麗華さんは朱天君にお辞儀して元気に挨拶してから、私に「マジ!?超イケメンじゃん羨ましい!」と耳打ちした。
そして間を空けず遥と加賀魅先輩が一緒に部屋に入ってくる。
それぞれ挨拶を交わした後、麗華さんは私の隣に座り楽しそうな顔で私の背中を軽くバシバシと叩いていた。
(な、何テンション上がってるんだろ……)
昨日加賀魅先輩が杭を見てくれたことについて改めて説明すると、話を聞いた部員たちと麗華さんは難しそうな顔をする。
「自分に憑依させる魔法……?気味悪いな、なんだってそんなこと……」
「悪の気に取り込まれるのが怖くないのかね。」
朱天君と麗華さんが怪訝に呟く。
この件を知れば知るほど、茨木浩平の目的が分からない。
「なんかこう……鬼丸を伝説の鬼に襲わせてから自分がトドメを刺す予定、とか?」と加賀魅先輩が言い、遥がそれを「いや……あくまで自分で鬼丸を倒すことに拘ってるのにそんなことで満足するかな。」と意見した。
「でもその浩平ってやつってさ?鬼丸君に勝てるような実力あるの?」
麗華さんがそう尋ねるので、私は「彼も優秀な人ではあるようなんですが、途中から非行に走って勉強も運動も今はやってないみたいだから……難しいかもしれません。」と答える。
そこで私は必死に頭を動かし要素を分解することにした。
「朱天君に勝ちたい浩平さん」、「勝てる実力は持っていないこと」、「憑依魔法の謎」……
そこで、ハッとする。
まさか……
「茨木浩平は……『茨木童子』という激強アカウントを買って、その状態で朱天君に勝とうとしてるんじゃ……!」
そう口にすると、部屋にいた全員が私の顔を凝視した。
活動報告にて挿絵リクエスト(私が描いても良いもの)を募集しています。
良ければご参加お願いいたします。
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