茨木童子
「召喚魔法だね。」
夜遅く、帰宅した父が石の杭を見てそう呟く。
「召喚魔法……?」
オウム返しすると、「桃子、闇の魔力を孕んで産まれるのが魔者って話したよな。」と父が尋ねてくる。
「うん、覚えてるよ。」
「じゃあ、その闇の魔力に支配されたら、魔者はどうなるんだっけ。」
私はその質問を聞いて押し黙る。すると父はため息をついてから「覚えてないんだね」と息を吐いた。
「すみません……」
「闇の魔力に支配されると、字の違う『魔物』……簡単に言うと本物のモンスターになっちゃうんだ。それを召喚しようとしてるのがこの杭ってわけ。」
「それ、どんなモンスターかわかる?」
「うーん、もう少し調べないと分からないが……召喚方法的に、日本の魔物っぽいな。所謂妖怪ってやつ。」
「妖怪……」
……
翌日、ビラ配りをしている加賀魅先輩と朱天君の後ろで、遥に父から聞いた内容を耳打ちする。
「召喚魔法……あー、だから轟鬼の奴らは不法侵入までしてあの杭を打とうとしてたのか。」
遥は全て聞いた後にそう呟く。
「そんな危険なもの、なんで召喚したいんだろ?」
「強さじゃあ鬼丸に勝てないから、強大な何かに倒してもらう、とか?」
「それだとファンクラブの目的は謎じゃない?浩平さんは自分が勝つことにこだわりがあるみたいだし……」
「あんまり色々言うな、考えてるんだから。……ファンクラブの方はおおかた、鬼丸が強い妖怪を倒す所を見たいんじゃない?茨木浩平は分かんないな。」
遥が考えていると、加賀魅先輩が「遥P〜、終わったよ。」と言ってこちらに歩いてくる。
「早いね。あんなことがあった後でも人気は健在みたいで安心した。」
加賀魅先輩は昨日夢魔であることがバレてしまったわけだが……相変わらず人気は衰えず、なんなら少しニッチな層に刺さってしまっていた。
「あ!加賀魅先輩〜!チラシなくなっちゃったんですかぁ?」
「まじかっこいい!魅了してくださーい!」
背後から女子が話しかけてくると、加賀魅先輩は私の後ろに隠れてから
「うっわ……!冗談でもそういうこと言うなよ!帰れ!」
と怪訝に吠える。
その様子を見て女子は喜ぶ……そんな、加賀魅先輩にとっての地獄ループができてしまっていた。
夢魔なのに女子には塩、男子には激甘。そのバランスが逆にいいと再評価され、加賀魅先輩からしたら不本意だろうがファンは前よりも増えたようだ。
「あ、そうだ遥。この前遥に教えてもらったゲームさー、変なやつに粘着されてんの、ほら見て!競技場ですっごい勝負仕掛けてくんの!どうやったら避けられる?」
加賀魅先輩は朱天君のビラ配りが終わるのを待ちながら、ゲームのやり方を教えてと遥に甘えている。
「うわ、この人レベル低いのに2年前に出た壊れカード沢山編成してる……カードのレベルだけカンストしてるし!アカウント買ったかもな。」
「アカウントを買う?そんなことできるの?」
気になって尋ねると、遥は困った顔で
「まあ、できないこともないんだろうけど絶対やっちゃだめだよー。
どうせ始めるなら強い状態から始めたいって人が、リセマラ済みのアカウント買ったりするらしいね。」と説明した。
「そういうのって自分でレアキャラ集めたり育成するのがセオリーでは……他人がリセマラしたアカウントを使って何が楽しいわけ?」
「対人戦があるゲームだと他の初心者より有利になるでしょ?俺最強!って万能感を味わいたいのかも。」
私の問いに遥がそう答えてくれる。
なるほど、操作するのは結局自分だから……RPGで例えるなら不正入手した最強装備で最初の村から無双する感じだろうか。
「遥、俺も終わったよ。……何してんの?」
考えていると、ビラ配りを終えた朱天君がこちらに歩いてくる。
「ゲームでチーターに粘着されたぁ……鬼丸助けて!」
加賀魅先輩はスマートフォンを見せながら朱天君にまで甘え始めた。
(この人……甘えられる人間には手当り次第に行くな……)
「おー!そのゲーム俺もやってるよ!編成直せばいいじゃん。貸してみ?」
朱天君は加賀魅先輩のスマートフォンを操作すると、すぐにそれを返してやる。
「あ!撃退できた!ありがとう鬼丸!」
やはり朱天鬼丸に欠点なし、か。イケメン☆鉛筆コレクション!のみならず、遥と加賀魅先輩のプレイしているゲームにまで詳しいとは……
関心しながら眺めていた折、ふと朱天君と目が合い逸らす。
昨日、なんだか告白みたいな雰囲気になったのが変に流れたので……少し気まずい。
「解決して良かったね!……そうだ、2人に話したいことあるし部室行かない?」
遥が言うと、2人はすぐに了承し1度部室に戻ることとなった。
……
「え、轟鬼がなんか変なもんを召喚しようとしてる!?」
父から聞いたことを朱天君と加賀魅先輩にも話すと、2人は目を丸くして驚く。
「思ったよりオカルティックなことしてんな、不良集団の癖に。」
加賀魅先輩は顔をしかめながらそう口にした。
「その杭って、どんな見た目だった?」
朱天君に言われ、私は部員たちに昨日の内に撮影した写真のコピーをみせる。
「これなんだけど……どう?何か知ってる?」
「本当だ。実物を見ないとどういう魔法かまでは分からないけど……ヤバそうな雰囲気は写真からも感じるよ。」
加賀魅先輩が写真を見て言うと、朱天君が
「これ、日本語じゃんね。……ここ、鬼って書いてない?」
と言いながら写真の中の文字をなぞった。
「ほんとだ!よく見て、ここ『木』じゃないかな!?」
私が続いて指さすと、遥が何かに気付いたように
「『茨木童子』……か、これ?ぐにゃぐにゃして読みづらいけど……!」
と呟く。
「あ!それ鬼一族で有名な、なんかやべーつえーらしい伝説の鬼だよ!」
朱天君が名前に反応するように言うと、遥は「それを呼ぼうとしてるんだ、なんかスケールでかい話になってきたな。」と難しい顔をした。
「でもさ、浩平って奴は自分が鬼丸に勝つことに執着してそうだったじゃん?なのにどうして伝説の鬼なんて呼ぼうとしてるんだろ。」
加賀魅先輩が先刻私が口にしたような疑問を呟く。
確かに目的が謎だ。茨木浩平は何がしたいのだろう?
「先輩、これ見たら魔法の式が分かるんだよね?」
遥が加賀魅先輩に尋ねる。
「うん、実物があれば。」と先輩が答えると、遥は「桃ちゃん、加賀魅先輩を家に連れて行ってこの石見せてみて。何か分かるかも。」と指示した。
(えー……でもお父さん加賀魅先輩のことものっ凄く嫌いだしな……)
黙る私を見て遥は威圧的に「わ か っ た?」と口にする。
仕方ない、これも調査の為だ。
私は「わ、わかりました。」と弱々しく答えたのだった。
……
「……と、いうことで使い魔を連れて参りました。」
「お父様、お久しぶりです!」
夜、帰宅した父に経緯を話すと、父は露骨に嫌そうな顔をする。
「あの……この夢魔は幼女みたいなもんだからそんなに警戒しないで、ね?でも魔法の才能も本当みたいだから、是非見せてやってほしいのですが……」
こわごわ頼み込む私に対し、お父さんはため息交じりに石の杭を持ってきてくれた。
「ありがとうお父さん!……先輩、これが何か分かる?」
尋ねると、先輩は目を細め石の杭を観察する。
「多分、何かしらの召喚魔法なんだとは思うが。天才とやらの意見を聞こうじゃないか。」
お父さんが腕を組みながら挑戦的に加賀魅先輩に言い捨てるやいなや、加賀魅先輩は顔を上げ
「これ、結界内にいる特定の人間に悪い魔物を憑依させる……そういう魔法だと思います」
と言い切った。
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良ければご参加お願いいたします。
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